事故で娘を失った星伸一さんと遺族代理人の髙橋正人弁護士(4月10日 都内/弁護士JPニュース編集部)

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茨城県常総市で2023年5月に起きた大型トレーラーによる死傷事故をめぐり、水戸地検下妻支部が大型トレーラーの運転手を自動車運転処罰法違反の「過失運転致死傷罪」で起訴する方針であることがわかり、遺族と代理人弁護士らは10日、東京高等検察庁と水戸地方検察庁に対し、より法定刑の重い「危険運転致死傷罪」の適用を求め要望書を提出した。

要望書の提出後、事故で亡くなった女性(当時21歳)の遺族が、代理人弁護士と支援者らとともに会見を開き、「娘が亡くなって3年経ちますが、娘のいない日常に慣れることはありません。ひどい事故を起こした加害者には危険運転致死傷罪を適用してもらいたいです」と訴えた。

雨の上り坂を制限速度オーバーでスリップ……

事故が起きたのは、2023年5月19日午後4時55分ごろ。

本降りの雨が打ち付ける茨城県常総市の国道294号線で、大型トレーラーが制限速度20キロオーバー(時速80キロ)で走行していたところ上り坂の右カーブでスリップ。反対車線に進入し、運転中だった星有里紗さん(当時21歳)を乗用車ごと下敷きにして横転した。

有里紗さんはこの事故で死亡、また別の車を運転していた男性(当時61歳)も巻き込まれ足の骨を折る重傷を負った。

県警は事故時、大型トレーラーを運転していた男性を過失運転致死傷罪の疑いで現行犯逮捕していたが、タイヤの状態や、雨にぬれた路面の状況などを踏まえ、トレーラーの速度が「制御困難な高速度」にあたると判断。過失運転よりも法定刑の重い危険運転致死傷罪の疑いで書類送検していた。

しかし、書類を受けた水戸地検下妻支部が「過失運転致死傷罪」で男性を起訴しようとしていることがわかり、今月10日、遺族代理人である髙橋正人弁護士らが東京高等検察庁の検事長と水戸地方検察庁の検事正宛に要望書を提出した。

要望書では、今回の事件を「過失運転致死傷罪」で起訴しようとしている地検の判断が適当であるかを再検討し、「危険運転致死傷罪」で起訴するよう水戸地検下妻支部および担当検察官へ指揮・指導を行うことを求めている。

最高検察庁の通達によれば、被害者や遺族からこのような「監督権の発動」を促す申立てがあった場合、監督者は速やかに内容を検討し、担当検察官に事実関係を確認するなどの必要な調査を行わなければならない。その上で、被害者の立場や心情、事案の内容、社会的影響などを配慮し、判断が妥当であるかを再検討することが義務付けられている。

「丸坊主」タイヤでも過失運転か

会見で髙橋弁護士は、事故を起こしたトレーラーは、トラクター(トレーラーを牽引するエンジンと運転席の部分)の駆動輪のうち4輪すべてが、溝のない「丸坊主」の状態であったことを指摘。

「本来であれば車検を通らない状態であるにもかかわらず、加害者とその使用者は車検の時だけタイヤを新品に交換し、検査後に再び摩耗したタイヤに戻すという違法なことをしていた。この点については弁護側も認めていて争いはない」(髙橋弁護士

しかし担当検察官は、危険運転致死傷罪の成否を判断する指標の一つである「車両の構造性能」において、この「タイヤの摩耗(整備不良)」は考慮に入れず、「車両の新品時の性能」を基準に危険だったかを判断すべきとする方針を示したという。

これに対し髙橋弁護士は「これでは整備不良で違法な状態であるほど過失運転致死傷罪として処理され、きちんとメンテナンスをして新品に近いタイヤをつけているほど危険運転致死傷罪になってしまう。これまでの裁判例でも整備不良が考慮されないことなどなかった。法律家として論外な解釈だ」と厳しく批判した。

さらに、当日は大雨で路面に水たまりができるほどの悪条件であり、上り坂の右カーブでアクセルを踏んだ際、摩耗したタイヤがスリップして「ジャックナイフ現象(※)」を引き起こしたことが事故の直接的な要因であると主張。

※ トラクター部分と接続されている後方の荷台部分が「くの字」に折れ曲がり、制御不能になる危険な現象。

制限速度を20キロ超過した時速80キロでの走行と、タイヤの摩耗など、条件を合わせれば、トラクターの速度が「制御困難な高速度」にあたることは明らかであり、危険運転致死傷罪を適用すべきであると改めて訴えた。

「事件を粗末に扱われた」遺族の不信感

亡くなった有里紗さんの父・伸一さんは会見で「私たち遺族は弁護士の先生方と一緒に、今の担当検察官になって2年間、何度も面談し協議を重ねてきました。それなのに、過失運転致死傷罪で起訴するというのは納得がいきません。過失運転致死傷罪で起訴すると言った担当検察官はこの4月で異動しました。異動前に急いで(訴因を)決め、われわれの事件を粗末に扱ったのだと私は認識しております」と悲痛な思いを語った。

有里紗さんの母・ひろみさんも、「担当検察官から過失運転致死傷罪で起訴すると聞き、聞き間違いではないかと思ったくらい驚きました。振り出しに戻ったような感覚です」と話し、改めて適正な処罰を求めた。

「有里紗が、雨の日に鉄のかたまりの中で1人で死んでいったと思うと、とても耐えられない。事故の瞬間を考えると、なんて言っていいかちょっと言葉に表せないほど悲しくてしょうがないです。

加害者には怒りしかないです。娘が亡くなって3年経ちますが、娘のいない日常に慣れることはありません。ひどい事故を起こした加害者には危険運転致死傷罪を適用してもらいたいです」(ひろみさん)

有里紗さんの写真とともに会見に臨んだ父・伸一さん(4月10日 都内/弁護士JPニュース編集部)