7年の”地獄”から生還! 精神科医がドン底からの“うつ抜け”を果たす助けとなった「和食の力」

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うつ急増の裏に「腸内細菌」!?

近年、メンタル不調を抱える現代人が急増。病気などを理由に働けなくなったときに支給される傷病手当金が’23年度は6000億円超と、ここ5年間で1.6倍に増えた。現代人の心の健康づくりは社会的な課題となっている。

長年うつに苦しんだ末、食事を変えて“うつ抜け”したと話すのは、精神科医・産業医の宮島賢也医師だ。

「研修医の頃から7年間、先の見えないうつ症状に苦しんできましたが、食事をガラッと変えたら症状が改善し、薬を断つことができました。うつを改善するなら、食事からのアプローチが効果的です」

うつは脳の問題と捉えられがちだが、“第二の脳”といわれる腸が大きく関係していることが分かってきた。脳が腸に、腸が脳に互いに影響しあう「脳腸相関(のうちょうそうかん)」の研究が進められ、腸内細菌の働きが脳、つまり考え方や心にも影響することが明らかになってきたのだ。

「感情や気分にかかわるのはセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質。それら主要な神経伝達物質は、脳よりもむしろ腸でつくられています。不安になりやすい、落ち込みやすいといった性格は“腸内細菌がつくりだしている”と言っても過言ではありません。腸内環境の悪化は脳にも影響を与えます。大事なのは、食事によって腸内環境を整えることです」

精神科医が警告! 日常に潜む「毒」

宮島医師が心の不調を感じたのは研修医として働いていた頃。土日もカルテの整理などで出勤し、休みはほぼなし。疲労に加え、精神的なプレッシャーも重なっていた。

「誤診したらどうしよう、処置に失敗したらどうしよう……と、起きてもいないことに常に不安を感じるようになり、不眠がひどくなりました。精神科を受診すると、うつと診断されて抗うつ薬が処方され、一時休職となりました。総合臨床医を目指していましたが諦め、同期の医師とは違う道へ進むことになり、自信を失いかけていました。医師として肩身が狭かったですね。

その後は、不安がなく落ち着いて過ごせるときもあれば、症状がぶり返すときもあり、反復性うつ病に。気分安定薬を飲みながら仕事を続けてきました」

当時の食生活は、肉などの脂っこいものが中心。お酒や缶コーヒーの消費量も多かった。

気分安定薬を飲んで体調をコントロールするなか、“なんとかしてうつから抜け出したい”と心理学などを学び、試行錯誤する中で出会ったのが、アメリカで生まれた「ナチュラル・ハイジーン」という食事療法と、甲田光雄医師が提唱した「西式甲田療法」だった。

ナチュラル・ハイジーンとは果物や野菜が中心の菜食で、体を傷つけるようなものを摂らないのが基本。西式甲田療法は玄米菜食と少食を重視。宮島医師はこの2つを自分が続けやすいようにアレンジした食事法を実践した。

「まず始めたのはお酒やコーヒー、白砂糖、白小麦製品など“体を傷つける”とされる食べ物を一切摂らないこと。タバコはもちろん、過剰なたんぱく質や赤身肉も身体にとって毒となると考えます。

悪いものは摂らず、朝はフレッシュな果物と生野菜、昼と夜は生野菜と玄米という食生活に切り替えました。みそ汁や納豆、豆腐、野菜や豆、イモ類の煮物などを取り入れた和食中心の生活を送り、少食を意識しました」

始めて3週間経たないうちに体調に変化があらわれた。

「寝つきが良くなって就寝中に目覚めることが減り、朝はすっきり起きられるようになりました。何に対しても不安を感じていましたが、考え方・気分が前向きになり、便通も改善。体の重りが取れたような感じで、毎日すっきりして動きやすい。体重も減って、免許証の写真はまるで別人のように変わりました」

体にエネルギーがみなぎり、爽快な日々を送れるようになった。1年ほどこの食事を続けると、気分安定薬をやめられるほどに心身が安定した。

「薬はもういらない、と自然と思えました。和食中心の食事を続けて腸内フローラがいい状態になったからだと思います。ただし、食事を変えたからといって、いきなり薬をやめてはいけません。離脱症状が出ることがあるので、素人判断はせず、薬を服用している方は必ず主治医に相談してください」

1万人調査で判明! 和食の力

’25年6月、国立健康危機管理研究機構が働く1万2500人を対象に行った調査によると、伝統的な日本食(和食)を食べている傾向が強い人ほど、うつの症状が少ないことが明らかになった(※1)。宮島医師が実践してきた、発酵食品や大豆製品、野菜などを中心とした和食のうつ改善効果が証明された形となった。

「研究グループは“大豆製品、海藻、野菜に含まれる葉酸は、気分の安定やストレスの対処に関係する神経伝達物質を合成する”と報告しています。また、青魚に豊富なオメガ3脂肪酸が神経伝達物質の働きをサポートする、発酵食品に含まれる抗酸化物質が脳の酸化ストレスを軽減する、腸内細菌のバランスを整えるなど、和食とうつ改善との関連も示されました。

うつは、症状が落ち着いて薬を手放せたとしても、食事や生活、考え方がそのままであれば、半数以上の方が再発してしまうことがわかっています」

薬に頼らず健康な心身を取り戻すには、生きるうえでの基礎となる食事が肝になる。和食はそれを叶える食事法と言えるのだ。

「家族のためにがんばらねば、会社を辞めるわけにはいかない……と、つらい気持ちに蓋をして働いている人は多く、真面目で心優しい人ほどうつになりやすい傾向があります。うつ症状があらわれたら一度立ち止まり、人生を見つめ直すきっかけにしてほしいと思います。考え方や生き方を自分で変えるには時間がかかりますが、食事は今日から変えられます。

腸がよろこぶ食生活を続けると、自然と思考がネガティブからポジティブになります。考え方が変われば、うつから少しずつ脱却できる。自分が主役となる人生が戻ってくるはずです」

心を健康にしたいなら、まず腸から――。世界に誇る日本の健康食が、現代人のメンタルヘルスを支える重要な役割を果たす。

(※1)国立健康危機管理研究機構 臨床研究センター『日本食パターンと抑うつ症状との関連』調査より

▼宮島賢也(みやじま・けんや) 精神科医・産業医。防衛医科大学校卒業。研修医となり総合臨床医を目指していたが、意欲がわかなくなり、うつ病と診断される。7年間、薬を服用したものの「薬でうつは治らない」と認識。食生活・考え方・生き方を変え、うつを克服して薬もやめた。著書に『図解でやさしくわかる 自分の「うつ」を治した精神科医の方法』(河出書房新社)。

取材・文:釼持陽子

編集・ライター。1983年、山形県生まれ。10年間、健康情報誌の編集部で月刊誌・Webメディアの編集に携わったのちフリーランスに。現在はヘルスケア・医療分野などを中心に、医師や専門家の取材、企画、執筆を行う。