山田裕貴

写真拡大

山田も綾野もハマリ役

 時代劇の再興を強く予感させる。3月26、27日にTBSで放送されたスペシャルドラマ「ちるらん 新撰組鎮魂歌 江戸青春篇」が大きな反響を呼んでいるからだ。この物語のその後を描いたU−NEXTの配信動画「京都決戦篇」も話題になっている。制作費の集め方も新しく、ドラマ界に影響をもたらすのは確実だ。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

 ***

【写真】ラブラブな様子…「ダブルピース」する山田裕貴と西野七瀬のツーショット

 題材は新撰組。滅亡から157年が過ぎたものの、日本人は忘れていない。幕府を守るという使命に命懸けで取り組みながら、報われなかったという悲劇性もあるからだろう。

山田裕貴

 主人公は副長の土方歳三。山田裕貴(35)が演じている。純粋な男で剣の達人。統率力もある。「鬼の副長」と呼ばれた。同じ新撰組でありながら土方と激しく対立するのが筆頭局長の芹沢鴨。綾野剛(44)が扮している。芹沢は化け物のように強く、一方で規律や常識に従うつもりがサラサラないから、歩くトラブルメーカーだった。

 ここまでは史料の通りだが、現在風にアレンジしてある。たとえば土方は「誰もやってねーことやるから、カッケーんだろう」と仲間たちに明るく説く。芹沢は「暴力の匂いはいいねぇ」と不敵に笑う。

 陰のある男も爽やか体育会系男子も得意とする山田には適任だ。土方の底知れぬ怖ろしさの部分は当たり役だった主演映画「闇金ドッグスシリーズ」(2015〜18年)の安藤役を思い出させた。

 一方で観る側の度肝を抜くようなアウトローを演じてきた綾野もうってつけの役柄。難癖を付けてきた浪人の片腕を躊躇なく切り落としたり、生意気な新撰組の若手の両目にハシを突き刺したり。驚かされた。

 ほかの配役も充実している。剣豪で人格者の局長・近藤勇役は鈴木伸之(33)。天才剣士ながら病弱だった一番隊隊長・沖田総司役は細田佳央太(24)。自由人だが腕は立つ三番隊組長・斎藤一役は藤原季節(33)が演じている。

 1960年代、東映映画には人気俳優ばかり登場する「オールスター時代劇」があった。その現代版を思わせる。主演と準主演経験者、あるいは若手の注目株が集まった。

 新撰組以外も豪華版。京都守護職として新撰組の主君という立場だった松平容保役は松本潤(42)。新撰組とは立場が逆で尊皇攘夷派だった高杉晋作役は北村匠海(28)が演じる。心優しい男ながら、同じ土佐藩士に利用され、連続暗殺犯にさせられてしまう人斬りの岡田以蔵役は中島健人(32)が演じた。

 制作費圧縮が進む中、他局ではまずつくれない作品。出演陣のギャラの総額が高いだけでなく、時代劇はそもそもカネがかかる。民放から時代劇がほぼ絶滅した理由の1つもコストの問題だ。 

 なぜカネがかかるかというと、まず主演からエキストラに至るまで、髪型をその時代や職業に合わせなくてはならないから。衣装もそう。現代劇はファッションメーカーとのタイアップで無料に出来るが、時代劇はそうはいかない。

 美術費も現代劇とは比べものにならない。食器から刀まで本物に見えなくてはならない。NHK大河ドラマの場合、過去の資料を基に推算すると、45分間で制作費は約7000万円強。約2時間ずつ2夜連続で放送された「ちるらん」は最低でも計約1億5000万円はかかっているだろう。

若者は時代劇が好き

 通常、プライム帯(午後7〜同11時)の1時間ドラマの制作費は約3000万円。低視聴率局には2500万円以下でつくっている廉価ドラマもある。もうCMが高く売れる時代ではないから、通常のドラマで億単位の制作費を出すのは不可能に近い。

 最も制作費が潤沢なTBSすら2008年度に1200億円あった予算が2024年度には973億円に減ってしまった。経費は増えているのに制作費は減少している。低視聴率による収益低下が続く局は資金繰りに苦しみながらのドラマづくりを強いられている。

 そんな中で「ちるらん」がどうして桁違いの制作費を出せたのか。TBS、同局系列の大手配信動画サービスのU−NEXT、さらにTHE SEVENの共同制作だからである。

 THE SEVENは世界を視野に入れたドラマ・映画の制作会社。TBSホールディングスが出資し、約4年前に設立された。「ちるらん」を直接つくり上げたのは同社である。

「制作費の多くはTBSとU−NEXTが負担した」(制作関係者)。系列にU−NEXTを持つTBSの強みだ。WBCを放映権料約150億円でNetflixが国内独占放送したことからも分かる通り、配信動画サービスにはカネがある。

 TBSだけが得をしているわけではない。U−NEXT側もスペシャル版以降の物語を毎週金曜日に配信できるからメリットは大きい。契約者増につながるはずだ。

 民放と系列の動画配信サービスの連動は日本テレビとHuluが先行した。連続ドラマ「愛してたって、秘密はある。」(2017年)が最終回の終了後、サイドストーリーをHuluで流した。

 同「あなたの番です」(2019年)も最終回終了後にサイドスリーを配信。しかし、あまり評判が良くなかった。地上波と動画配信の連動が早過ぎたようだ。

 あるいは連ドラの結末が配信動画でしか観られないと誤解が生じたためかも知れない。「ちるらん」の場合、それを観ただけでも楽しめる独立したスペシャルドラマが2本放送されたあと、その後のドラマを動画配信にした。目下のところ目立った反発はないようだ。

 カネはかかるが、時代劇は優良コンテンツ。若い層は時代劇から離れたわけではない。毛嫌いするのは1時間で正義の味方が悪党を倒すパターン化した時代劇である。むしろ若い層は時代劇が好き。

 それは全5作の映画「るろうに剣心シリーズ」(2012〜21年)の大ヒットからも分かる。やはり大ヒットし、夏に第5弾が公開される「キングダムシリーズ」(2019年〜)も中国版の時代劇だ。

 なぜ、若い層は時代劇を好むかというと、現代劇にはないスピード感があるから。現代劇では描きにくい命懸けの真剣勝負も存在する。現代劇で描くと臭くなってしまいがちな熱い友情、純愛も時代劇に変換すると、不思議と受け止めやすくなる。

 また現代劇は暴力表現に限界がある。しかし時代劇は規制が緩やか。「ちるらん」には芹沢が浪人の片腕を切り落とすシーンがあったが、現代劇で同じような描写をするのは不可能だろう。

ドラマは資金繰りの時代

 この作品に刺激を受け、日テレとHulu連合も新たな仕掛けを考えるのではないか。TBSとTHE SEVENも時代劇以外の新たな作品を用意するのは間違いない。THE SEVENは制作したアウトロー映画「愚か者の身分」がヒット中で、Netflixでも高い配信数を記録している。同社はU−NEXTとライバルであるNetflixとも提携しているのだ。

 身も蓋もない言い方のようだが、ドラマは制作費がないと、どうにもならない。視聴者が歓迎するような俳優や脚本家が集められない。スタジオ費を節約するから、じっくり時間をかけて撮影するのも難しい。映像処理もチープにせざるを得ない。

 7月から放送予定のTBS「VIVANT」の前作が爆発的ヒット作にできたのも破格の制作費があったから。通常の制作費では海外ロケすら出来なかった。

 これからのドラマづくりは動画配信サービスなどとどう組み、制作費を調達するかがカギを握る。資金集めが勝負どころの1つなのはほかのビジネスと同じだ。むしろ、これまでは民放界が自分たちは特別と思いすぎていた。ヒットメーカーのセンスのみで名作が生める時代は終わった。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部