「保釈されたいので認めます」詐欺で起訴された女性の裁判。被告人の発言意図が分からず困惑する裁判官に対し、弁護人は「話を振るな」といった雰囲気で…
お笑い芸人の阿曽山大噴火さんは、1999年のオウム裁判以降1万件を超える裁判を傍聴してきた裁判ウォッチャーでもあります。そこで今回は、阿曽山さんの著書『バカ裁判傍聴記』より、「なんでこんなことやっちゃったの?」と思うような珍事件をご紹介します。
【書影】東京地裁に通勤定期で通う裁判傍聴のプロによる裁判傍聴記!阿曽山大噴火『バカ裁判傍聴記』
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罪名 詐欺
仕事のついでに行った名古屋地裁で傍聴した裁判の話。
・罪名 詐欺
・被告人 飲食店従業員の女性(27)
起訴されたのは二つ。
1件目は、令和6年3月に、被告人がマッチングアプリで知り合った男性(31)に対し、返済する気も能力もないのに「お金を貸してもらえませんか?」「10万PayPayしてくれませんか?」とLINEでお金を貸してほしい旨を伝えて10万円分のポイントを送金させ、その2日後にも追加で3万円分のポイントを送金させて、合計13万円を騙し取った件。
2件目は、令和6年5月に、被告人はマッチングアプリで知り合った男性(34)に対し、返却する気も能力もないのに「仕事で必要なので30万円で腕時計を借りたいです」とLINEで腕時計のレンタルを依頼して、その翌日に腕時計(275万円相当)の交付を受けたという件。
保釈されたいので認めます
裁判官「いまの起訴状に、何か間違いはありますか?」
被告人「言いたいこと、争いたいところとか否認したいところもあるんですが、保釈されたいので認めます」
不服ながら、罪をイヤイヤ認めるような言いっぷり。裁判官としては聞き流せなかったようで、
裁判官「ん? んん? えっと、保釈されたいから認めるってどういうことですか?」
被告人「1件目のほうは、被害者もわかってたと思うんですよ、何に使うかは」
と言いながら、弁護人のほうを見る被告人。打ち合わせと話が違うのか、弁護人は渋柿を齧った時のような表情。被告人も弁護人と目を合わせないようにしていました。
話を振るなといった雰囲気の弁護人
裁判官「ん?……んん?……え?っと……」
被告人の発言の意図するところが分からずに裁判官が困惑していると、弁護人は頭の後ろで両手を組んで天井を見上げていました。裁判官としては弁護人の意見を聞きたそうなのに話を振るなといった雰囲気。
裁判官「だから、保釈のために認めるというのがちょっと……。あなたとしては言いたいことがあるんですよね?」
被告人「お金の使い道とかわかってて送ってると思うんですよ」
裁判官「お金を返すつもりもないのに、13万円送金させて騙し取ったという起訴状になってますよね? それは違うと。弁護人のご意見としてはどうなんですか?」
弁護人「私としては、本人の話を聞くと否認なんだと思うんですけど……何て言うんですかね、被告人と言い合いになって、これ以上信頼関係にヒビが入っても良くないので……えー、被告人の言うとおりで」
この日までに被告人と弁護人の話し合いがうまくいってないようで、何ともモゴモゴとした言い分です。
相当険悪な雰囲気の被告人と弁護人
被告人「認めます、認めます!」
裁判官「返す気がないのに、お金を騙し取った。返す気がないのに、腕時計を騙し取ったって書かれてますけど、あなたとしてはそれでいいんですか?」

(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
被告人「はい」
裁判官「いやいや、認めてしまっていいんですか? 言い分があるんでしょ?」
と、被告人の自白を受け入れない裁判官。
被告人「認めます」
裁判官「ん〜……じゃあ、被告人の意見は聞いたとして、弁護人のご意見はいかがですか?」
弁護人「留保で。被告人と打ち合わせしてから答えます」
裁判官「えーっと、では、一旦休廷して席外したほうがいいですか? 被告人と話し合います?」
弁護人「いや、あとで本人に確認してからで大丈夫です。ま、その時やってるのか……」
裁判官「ん?」
弁護人「その時に、私が担当してるかはわからないですけど」
裁判官「は…はぁ……」
と、苦笑いを浮かべる裁判官。弁護人としては「次回に罪を認めるか否かを言うけど、違う弁護人に代わってるかもね」と。周りが気を使うほどに、相当険悪な雰囲気の被告人と弁護人です。
罪状認否だけで20分近くかかった
罪状認否なんて1分以内に終えるものなのに、この裁判は罪状認否だけで20分近くかかってました。こりゃ大変そうだ。
時間が無いながらも、検察官が冒頭陳述を朗読です。
被告人は高校中退後に自動車販売店で働き、犯行当時はキャバクラで働いていたそうです。前科は1犯で、現在執行猶予中。そして、令和6年2月からマッチングアプリを利用して、被告人は弁護士を名乗っていたという。
会った男性には弁護士事務所の名刺を見せて信頼させ、急にお金が必要になったと送金させていた。腕時計に関しては、キャバクラの広告撮影で使うと伝えて借り、すぐに買取店で売却していたとのこと。
検察官は、この他に同種の余罪が多数あるということで、冒頭陳述の朗読はここまででした。
事件自体が事実なのかは分かりませんが、「事実じゃないけど保釈されるために罪を認めます」なんて罪状認否に答える人なんて、名古屋の被告人は変わってますね。この被告人が異例なだけかもしれないけど。
※本稿は、『バカ裁判傍聴記』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
