「偏見」や「思い込み」に気づけるか?──『メディアと私たち』【別冊NHK100分de名著】
「バイアス」をあぶり出す名著、四作品を読み解く
ネットやSNSで情報を得ることが多くなったいま、私たちはメディアというものをどのように見て、感じているでしょうか。
『別冊NHK100分de名著 メディアと私たち』は、2018年に放送され、大きな反響を呼んだ「100分deメディア論」を書籍化した一冊です。
本書では、リップマン『世論』、サイード『イスラム報道』、山本七平『「空気」の研究』、オーウェル『一九八四年』の四作品をとりあげ、「偏見」や「思い込み」「ステレオタイプ」がどのように生まれ、私たちの判断を左右しているのかを鋭く読み解きます。
メディアの「限界」と「可能性」に迫る
この本のもとになったテレビ番組「100分deメディア論」の企画は二年前から温めてきました。理由は、自らが属するメディア業界の信頼が足元から揺らいでいると感じられたから。そして、今こそ私たちは自分たちの仕事自体を謙虚に問わなければならないと思ったからです。
発端は、飲み屋さんでの何気ない会話から。「最近のNHKの報道、ちょっとおかしいんじゃない?」という意見が、奇しくも左右正反対の政治信条をもつ友人たちから寄せられました。「報道が政権寄りじゃないか」「いやいや政権批判に偏っているんじゃないか」。意見は正反対。二人に共通しているのは「大手のメディアはみんな偏向している。だから最近自分たちはそうしたメディアは信じない。ネットの情報のほうがはるかに信じられる」といった意見。
その後、調べていくと、こういう「空気」は、単にこの友人たちだけではなく、社会全体に蔓延しつつあることに気づきました。「いったい何が起こっているのだろう?」「どうしてここまで既存メディアへの信頼が揺らいでいるのだろう?」。そういった疑問を突き詰めていくうちに、今回の企画の原型が生まれてきたのです。
ネット情報よりも、テレビや新聞などの情報が優れているといいたいわけでは決してありません。ネットの中の情報や論評にも優れたものは多いし、目を覚まされることも多々あります。問題は、大手メディアの情報もネット情報も玉石混交だということです。私たちはそれらを見抜く眼をもたなければならない。そのためには、人が何かを伝えようとするときに必ずある「視点」「バイアス」をもつことを避けては通れないという事実に自覚的にならなければなりません。
今回取り上げたリップマン『世論』、サイード『イスラム報道』、山本七平『「空気」の研究』、オーウェル『一九八四年』等の名著は、そうした「視点」「バイアス」の仕組みを徹底的に暴き出してくれます。またこれらは難解な部分をもっている本でもありますが、堤未果さん、中島岳志さん、大澤真幸さん、高橋源一郎さんら気鋭の論者たちに、その分析が具体的にどう有効か、現実を読む際にどう役立てられるのか、といった視点も踏まえて縦横に論じていただいたおかげで、私たちの暮らしそのものにぐっと近づけてもらうことができました。その臨場感を伝えるために、番組内での座談部分も各所に挿入しました。
私は、本書を、よってたつ政治信条が右であろうが、左であろうが、どんな人にも読んでいただきたいのです。立場の違いで、罵倒しあうのでもなく、重箱の隅をつつくのでもなく、自らがどんな「視点」「バイアス」をもっているのか、またそこから逃れられないまでも、どのような努力をすればそういった「視点」や「バイアス」から少しでも自由になることができるのか? この本が、そういったことを一緒に議論し考えるきっかけになればと願っています。
本書『別冊NHK100分de名著 メディアと私たち』では、
第1章 リップマン『世論』 堤未果──プロパガンダの源流
第2章 サイード『イスラム報道』 中島岳志──ステレオタイプからの脱却
第3章 山本七平『「空気」の研究』 大澤真幸──「忖度」の温床
第4章 オーウェル『一九八四年』 高橋源一郎──リアルな「未来」
という4つの章を通して名著を読み解き、メディアと私たち、双方の「視点」と、とるべき態度について考えていきます。
■『別冊NHK100分de名著 メディアと私たち』(堤未果/中島岳志/大澤真幸/高橋源一郎 著)より抜粋
