おフランス仕様の宇宙服、さすがスマート
宇宙服といえば、白くてモコモコ、着るのに30分かかって、体重は100kgオーバー…それも過去となっていくようです。
フランス発のスポーツ用品チェーン「デカトロン(DECATHLON)」を中心に作られた宇宙服が、そのイメージをひっくり返しにかかっています。
デカトロンといえば、日本ではアウトドア用品やスポーツウェアが安く手に入るコスパの高いブランドとして、量販店の「メガスポーツ」などで取り扱いがあります。世界72カ国に展開する、フランス発のグローバルブランド。
そんなデカトロンが、フランス国立宇宙研究センター(CNES)、スタートアップのSpartan Space、フランス宇宙医学生理学研究所(MEDES)と共同で開発したのが、ヨーロッパ初の船内与圧服(IVA複合スーツ)である「ユーロスーツ(Eurosuit)」です。
そもそも「IVA」って何?
宇宙服と聞くと、宇宙空間に「出て」作業するゴツいスーツを想像しがちですが、宇宙服には大きく分けて2種類あります。
宇宙船に乗り込む際に着用する「船内与圧服」と、ISS(国際宇宙ステーション)などから宇宙空間に出て作業するための「船外活動服」です。
船内与圧服はスペースシャトル「チャレンジャー号」の事故が1986年に起きた後、緊急避難システムの必要性が認識されたことで開発が進み、1988年のSTS-26ミッションでLES(打上げ・帰還用スーツ)としてデビュー。
ユーロスーツが担うのも、打ち上げや着陸時、ISSへのドッキング中に宇宙飛行士が着ておくIVAの役割です。万が一、宇宙船内で気圧が急低下した際にも、このスーツが命綱になります。
なぜ「スポーツ用品店」に白羽の矢が?
CNESが求めたのは「2分以内に一人で着られる宇宙服」でした。CNES探査・有人飛行副部長のセバスチャン・バルド氏は「そのアイデアから、デカトロンを思いついた」と語っています。
宇宙産業にテキスタイルの専門知識を再発明させるよりも、その技術を40年近く磨いてきた企業を探した、という実利的な判断ですね。
さらに、Spartan Spaceがスーツの運用コンセプト(形状、体積、使用上の制約、安全姿勢など)を設計し、MEDESが必要な生体医学基準を定め、デカトロンがそれをフランス北部のリールにあるR&Dセンターで実際の衣服に落とし込みました。
初のプロトタイプの完成までに、プロジェクト開始から10カ月、40名のチームが作業を続けたそう。
カギは「2分で着られる」設計
現在、ISSで使われているアメリカの船外活動スーツ(EMU)は、ナイロン、ダクロン、アルミ蒸着マイラーなど14層もの布地で構成され、生命維持装置なども含めた非常に複雑な構造を持っています。着用するプロセスは決して短くありません。ユーロスーツが目指してたのは、まさにこのプロセスの抜本的な短縮です。
「完全密封性、耐火性、生体センサーの内蔵、そして微小重力下でも一人で素早く着られること」というハードな要件を、スポーツウェアの設計思想で解決しようとしたのです。
プロトタイプには以下のような改良が施されているそう。
●カスタムフィット人間工学:格子構造のヘルメット設計により、各宇宙飛行士の体型に完璧に適合。
●動作の自由度:肩・肘・膝部に組み込まれたベローズ構造により、狭い環境下でも最大限の可動性を確保。
●密閉性・操作性に優れたファスナー:人間工学に基づいたプラ―付き気密ファスナーにより、容易な開閉を実現。
●寸法適応性:微小重力下で宇宙飛行士の体の自然な伸長に対応するため、服の長さを調整可能。
ユーロスーツの本番テストは2026年初頭にISSで、フランス人宇宙飛行士のソフィー・アドノが担当予定。まずは重力が微小な環境で「本当に2分以内に着られるか」を確認する機会となりそうです。
このテストが成功すれば、次のステップとして2026〜2027年ごろに、センサー、ヘルメット、呼吸装置を統合した「地上デモンストレーター」プロトタイプの開発に進む計画です。
「自前の宇宙服」を持てるか、ヨーロッパの意地
実は、このプロジェクトには政治的な文脈も裏側にあると報じられています。
先述のCNESのバルド氏は「トランプ大統領の選出以来、ヨーロッパは有人宇宙飛行における長期的な自律性をより強く求めている」と語りました。SpaceXやBlue Originといったアメリカ主導の宇宙産業への依存を減らしたいという欧州の意図が見え隠れします。
現在、宇宙服のメジャープレイヤーはアメリカのILC Dover(NASAのEMUを製造)やAxiom Space(新型宇宙服を開発中)など、ほぼアメリカ勢が独占。そこへヨーロッパ独自の設計でチャレンジするのがユーロスーツ、というわけです。
機能性とデザインの両立はスポーツウェアが得意とするど真ん中のテーマ。デカトロンが切り込んだことで、宇宙服が「命を守る装備」から「人が選びたいウェア」へ変わっていく可能性も、にわかに現実味を帯びてきたと思うんです。
日本にも、そういうブランドや企業がたくさんあります。山岳装備やアウトドアウェアで技術とデザインを磨いてきたモンベル、機能素材で名を馳せるミズノ、あるいは素材から世界を変える東レ、スポーツ用品店の文脈ならワークマンも!
日本ブランドが宇宙服の世界に参入する日が来たとしたら、どんなものが生まれますかね。宇宙服が「デザインの舞台」になる未来が楽しみです。
Source: Journal du Geek, Franceinfo, JAXA, PRTimes
