「私だけでも東京に帰ります」〈年金月30万円〉夫婦で定年後に地方移住も、65歳妻が絶望。66歳夫の「夢の老後生活」が崩壊したワケ
退職金と貯金合わせて3,500万円、夫婦で月30万円の年金を受給し、金銭的な不安なく憧れの「地方移住」を果たした景色さん夫婦(仮名)。しかし、車の免許を持たない妻にとって、自然豊かな環境は想像以上のストレスでした。買い物にも自由に行けず孤独を深めるなか、地方特有のインフラ問題が牙を剥き、ついに妻が絶望。「私だけでも東京に帰ります」と熟年離婚の危機にまで発展し、夢の老後生活が崩れた60代夫婦の事例を紹介します。
自然に囲まれた地方で老後生活をスタート
「老後は自然に囲まれながら、のんびり過ごすのが夢だったんです。妻も楽しそうに話を聞いてくれたので、何事もなく過ごせるかと思っていました……」
景色好男さん(仮名・66歳)は長年勤めた会社を退職後、美しい山々と川を望む地方へ移住しました。退職金と貯金合わせて3,500万円の資産があり、妻の都子さん(仮名・65歳)も年金受給が始まったことで、夫婦合わせて月に30万円の年金が入るため、金銭的な不安はありませんでした。
「現役時代は仕事ばかりだったので、残りの人生は自然のなかで妻と静かに過ごしたいと思ったんです」
都子さんも最初は賛成してくれましたが、新生活にはすぐにほころびが見え始めました。その最大の障壁は、都子さんが車の運転免許を持っていなかったことです。
自宅から最寄りのスーパーまでは車で20分かかります。バスは1日に数本しかなく、買い物に行くには好男さんの運転に頼るしかありませんでした。かつては都市部で、気軽に友人とカフェに集まったり、デパートで買い物を楽しんだりしていた都子さんにとって、自分で自由に動けない環境は想像以上のストレスに。
「夫が釣りやゴルフを楽しんでいるあいだ、私は家でポツンと過ごすばかり。誰とも会話しない日が何日も続き、孤独ってこういうことなのかなと」
地方での生活は車が必須だと悟る
そんなある日、好男さんが庭で作業中に転倒し、足を骨折してしまいます。都子さんは慌てて救急車を呼びましたが、到着までに時間がかかり、搬送先の総合病院も車で40分以上離れた場所にありました。
「もしこれが命にかかわったらと思うと、ぞっとしました。私自身は免許がないから運転できないし、タクシーもすぐには来ません。この先、どちらかが重い病気になったら、どう生きていけばいいのか……」
この一件で精神的に参ってしまった都子さんは、「私だけでも東京に帰ります。このままではおかしくなりそう」と好男さんに告げました。
熟年離婚という言葉が脳裏をよぎり、好男さんは事の重大さに気づきました。自分一人の理想を押しつけ、都子さんの生活の不便さや老後のリスクから目を背けていたのです。
結局、夫婦関係を修復するため、好男さんは移住先の家を売りに出し、都市部の利便性の高い地域へ再移住することを選択しました。
移住相談が増加する一方で、インフラ整備が課題に
ふるさと回帰・移住交流推進機構のデータによると、2025年の移住相談件数は過去最多となる7万件に達しました。近年は女性の相談者が増加傾向にあり、夫婦や家族単位で移住を検討する層が広がっていることがわかります。
また、イエコン(株式会社Clamppy)の調査データによれば、地方移住を検討した人のうち20.5%が、そのきっかけとして「自然環境に恵まれた場所で暮らしたい」と回答しています。その一方、地方移住をやめた人の約70%が「3年未満」で離脱しており、その理由として「生活環境の変化」や「移動手段が不便」が上位にランクインしています。
夫婦のどちらかが環境に適応できず、短期間で移住生活を終えるケースは少なくありません。とくに高齢期に差しかかるシニア層にとって、医療機関へのアクセスのよさや、車を運転できなくなった際の代替交通手段の有無は死活問題となります。
美しい景観や自然の豊かさだけでなく、将来にわたって安心・安全に暮らせるインフラが整っているかどうかが、夫婦がともに納得できる移住先選びの鍵となるでしょう。
[参考資料]
イエコン(株式会社Clamppy)「【地方移住】やめた人の7割が3年以内で離脱!地方移住成功の秘訣とは?(https://iekon.jp/column/survey/32857)」
ふるさと回帰・移住交流推進機構「2025年「ふるさと回帰支援センター・東京」の窓口相談者が選んだ移住希望地」
