(※写真はイメージです/PIXTA)

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近年、墓じまいや継承者不足を背景に、自然に還る「樹木葬」が注目を集めています。 従来の墓石を建てるスタイルに比べ、費用が抑えられる点や、管理の負担が少ないといったメリットが強調されていますが、必ずしも後悔がないわけではないようです。 ある男性のケースから、樹木葬の現状と落とし穴を解説します。

「安く済むから」という安易な選択が招いた大後悔

都内在住の会社員、田中大輔さん(54歳・仮名)。 数年前の法事の席で親戚から投げかけられた言葉が、今も耳を離れないといいます。 田中さんは3年前、亡くなった父親の遺骨を千葉県内にある霊園の樹木葬エリアに埋葬しました。

田中さんの実家は地方にあり、代々の墓がありましたが、管理する者がおらず「墓じまい」を決断。その際、新たな納骨先として選んだのが樹木葬だったのです。

「テレビや雑誌で、樹木葬が人気だという特集を見たんです。跡継ぎの心配もいらないし、何より費用が従来の墓の3分の1程度で済む。合理的だと思いましたし、父も自然が好きだったので喜んでくれるだろうと考えていました」

しかし、実際に納骨を終えてから、田中さんの心境は徐々に変化していきます。 選んだのは、一本のシンボルツリーの周囲に、多くの人の遺骨を合祀するタイプのものでした。

「いざお参りに行くと、どこに父が眠っているのか正確な場所がわかりません。そりゃあ、そうですよね。ただ木があるだけなのですから。線香をあげるスペースも共用で、他人の家族と順番待ちをすることもありました。墓石に名前が刻まれている重みというものがなくなって、初めて樹木葬とはこういうものなんだと痛感しました」

さらに、田中さんを追い詰めたのは周囲の反応でした。 今どきの感覚で「合理的」と判断した樹木葬に対し、伝統を重んじる地方の親戚たちは、田中さんの選択に怒り心頭。

「『先祖代々の土地を捨てて、最後は名もなき土に混ぜるのか』と。妹からも『お兄ちゃんの一存で決めたけど、私はやっぱり、きちんとお墓があったほうがよかった』と泣かれました。『今さら何を言っているのか!』と、こちらも頭に来ましたが、どうすることもできません」

一度、寺院にある納骨堂への改葬を検討しましたが、すでに合祀(他の遺骨と混ぜて埋葬)してしまったため、父親の遺骨だけを取り出すことは不可能だという現実に直面しました。 自身としては最良の選択をしたと思いつつも、「もっと慎重に話し合うべきでした」と後悔しているといいます。

急増する樹木葬需要。一方で浮き彫りになる「理想と現実」

株式会社鎌倉新書が実施した「【第16回】お墓の消費者全国実態調査(2025年)」によると、購入したお墓の種類において「樹木葬」を選んだ人の割合は48.5%に達し、6年連続で全タイプの中で1位となりました。 一般墓(墓石)の17.0%を大きく引き離しており、いまや「お墓といえば樹木葬」といっても過言ではない状況です。

年代別にお墓を購入する際に重視したことを見ていくと、どの年代もトップは「お墓の種類」ですが、65歳未満で続くのは「金額」、65歳以上では「アクセス」でした。 現役時代ほど、やはり気になるのはお金。 平均購入金額は、樹木葬が67.8万円、一般墓は155.7万円。樹木葬が支持される理由は明確です。

しかし、ここで見落とされがちなのが、樹木葬の「埋葬形態」による違いです。 樹木葬には大きく分けて、以下の3つのタイプがあります。

合祀型: 一つの大きなスペースに多くの遺骨を一緒に埋葬する。

集合型: 共有のシンボルツリーがあるが、埋葬場所は個別に区切られている。

個別型: 一区画ごとに木を植える。

特に費用が安価な「合祀型」の場合、後から遺骨を取り出すことができなくなるため、田中さんのように「やっぱり別の場所に移したい」と思っても手遅れになります。

また、東京都立霊園の公募状況(令和6年度)を見ても、樹木葬(樹林型合葬埋蔵施設)の倍率は依然として高く、都心部でのニーズは凄まじいものがあります。 しかし、自治体が運営する公営霊園では、宗教儀式が制限されていたり、お供え物が禁止されていたりと、民間霊園以上に「弔いの作法」に制約があるケースも少なくありません。

供養の形に正解はありません。大切なのは、残された人々が末永く故人を偲び、心から納得感を得ること。契約書にサインする前に、親族間で「10年後、20年後の参拝風景」を具体的にイメージできているかどうか、今一度、慎重に話し合っておく必要がありそうです。