東京の個性派書店4選 カフェ・ビアスタンド併設、ほっとひと息つける空間

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街から本屋が消えつつある……そんな話も耳にする昨今ですが実は今、個人オーナーの営む個性的なセレクトの書店が続々登場しているんです!そのコアな視点は、まるで誰かのプライベートな書斎を覗くような感覚で、ワクワクが止まりません。そんな知的好奇心がむくむくと湧き上がる、本の泉へようこそ。ということで、本屋なのです。たとえシャンデリアが下がってようとも店主が短パン&ビーサンであろうとも( もはやデフォルトレベルの確率)ここは東京の書店、なんて刺激的!でもさらに刺激強めなのは、本棚の中。ぜひに足を運んでいただければと。今回は、カフェやビアバーを併設したお店をご紹介します。

1000人の棚主の思いが詰まった1冊を手にできる『PASSAGE by ALL REVIEWS』@神保町

この本文を読み始めていただき、ありがとうございます。あなたは本好きに違いない!

魅惑的な書店巡り旅のトップを飾るのは、フランス語でアーケード街を意味する“パサージュ”を冠した当店。

世界最大の本の街・神保町。その核心部に、2022年にオープンした共同書店だ。「共同」とは何かと言うと、店に行けば、一目瞭然。書棚が区画割りされていて、その一つひとつに店主がいる。自分の棚を自由に使って、思い思いの本を売っているのだ。

『PASSAGE by ALL REVIEWS』写真のない時代に服装の伝達のために描かれたファッションプレートがみっちりの棚。ここでは知らない世界の扉が自然と開く

プロデュースは仏文学者の鹿島茂氏。書評アーカイブ閲覧サイト「ALL REVIEWS」の発展形として生まれたリアル店舗だ。棚主には名うての書評家がずらり。人気作家や芸能人もいれば、本に限らず雑貨もOKだからコレクションを売りたい各分野のマニアもいる。そして、とにかく本が好きという一般人も!

近隣の姉妹店を含め約1000人の棚主がいるという。

『PASSAGE by ALL REVIEWS』同じビル3階にあるカフェ併設の2号店では、ゆっくりお茶も楽しめる

「本を愛する方であれば、誰でも出店可能です。目線の位置にある棚は、空きが出ると数十倍の抽選となる人気です。基本的にスタッフが商品補充などのサポートもしますが、棚主が頻繁に来て手を入れている棚の本は不思議とよく売れますね。棚主が互いの本を購入し合うのも、うちならでは。みんな本好きだから、つい買っちゃう」とオーナーの由井緑郎さんは笑う。

『PASSAGE by ALL REVIEWS』書評家・豊崎由美氏の棚で見つけたのは付箋だらけの本。豊崎氏の視点もあわせて二度おいしい

普通の書店と違って、棚に思いが詰まっていて、個性が輝く。だって、著者のサイン本はおろか、手紙付きの本だってあるし、あえて線を引いたまま、付箋をつけたままの本もあるのだから、時間を忘れて探索してしまう。欲しくなってしまう。そして禁断の領域、売り手側へ来なよと引き込まれるのだ。

『PASSAGE by ALL REVIEWS』

オーナー:由井緑郎さん「ふらりと立ち寄ってほしい」

【owner’s recommend】『西瓜糖の日々』リチャード・ブローティガン著

『PASSAGE by ALL REVIEWS』『西瓜糖の日々』リチャード・ブローティガン著

由井さんが「現実から離れたい時に読む」という一冊。アイデスという架空の世界に暮らす人々を淡々と描いたファンタジーだ。

「異世界へふわっと飛んで、浸り、また帰って来られる心地いい作品。読むたびに発見があります」

[店名]『PASSAGE by ALL REVIEWS』

[住所]東京都千代田区神田神保町1-15-3サンサイド神保町ビル1階

[電話]なし

[営業時間]12時〜19時

[休日]無休

[交通]都営地下鉄三田線ほか神保町駅A7出口から徒歩1分

表情はさまざま、本屋を超えて豊かな時を刻む『twililight(トワイライライト)』@三軒茶屋

パン屋の脇の細長い階段を上がると、3階に『twililight』はある。トワイライトじゃなく、なぜトワイライライト?

「必要なものだけだと息苦しくなる。余計なものがあるから生活は豊かになると思うんです。だから、余計な“ライ”を加えた。最初から間違ってる名前なんです。今って失敗を恐れる風潮があるけど、間違ってても大丈夫だよと伝わったら」と、店主の熊谷充紘さん。

もともと書籍の編集やイベントの企画をしていたが、2021年秋、「物件が空いたからどう?」と声をかけられた。本屋をやるとは考えたこともなかったが、翌月の内見時には店を始めると決めたというから、人生って面白い。

「窓から射し込む光が気持ちよくて、ピンときた」空間は、彼の好きな本屋とカフェとギャラリーが黄昏時のように混じり合い調和している。屋上もあって、購入した本を片手にひと息つくもよし。肩の力がふっと抜けていく。

『twililight(トワイライライト)』自家製のカッサータ600円、たそがれクリームソーダ650円でひと息

「喋らなくても他人がいることで、自の輪郭が保てると思っていて。本を読んで、ぼんやりしたり、アートを眺め自身と対話してもらえたら」。

そう話す熊谷充紘さんは、穏やかで、でも内に秘めたる熱を持つ人という印象だ。中学生の頃にポール・オースターの『ムーン・パレス』に出合い視界が開け、翻訳家の柴田元幸さんの訳書を読み漁り、アメリカ文学に魅了されていったとか。

『twililight(トワイライライト)』スピード感を持って深く濃く届けられるから、と出版も行う。『松明のあかり』は、NY在住の作家、バリー・ユアグローが翻訳家・柴田元幸さんに送った話をまとめた新刊

店に並ぶのは、外国文学や詩集、その時々に熊谷充紘さんが興味のある本、同店で出版した本たち。イベントも積極的に開催している。

「忙しいのでは?」と聞くと、「全部楽しいんです。全部があるから息がしやすくなる」とポツリ。

誰かの居場所や心に余白を取り戻せる、ここはそんな場所。都会の真ん中のエアポケットみたいだ。

【owner’s recommend】『体の贈り物』レベッカ・ブラウン著、柴田元幸訳

『twililight(トワイライライト)』『体の贈り物』レベッカ・ブラウン 著、柴田元幸訳

「大学時代に手に取り、幾度となく読み返している1冊。死は生きるということを丸ごと受け止めることだと気づかされました。今こそ読まれてほしい」(熊谷充紘さん)。

初版→文庫化から絶版になっていた本書を同店で復刊した。

『twililight(トワイライライト)』屋上へ繋がるロフトのような4階

[店名]『twililight(トワイライライト)』

[住所]東京都世田谷区太子堂4-28-10鈴木ビル3階・屋上

[電話]なし

[営業時間]12時〜21時

[休日]火、第1・3水

[交通]東急田園都市線三軒茶屋駅北口A出口から徒歩4分

選書のテーマは“アナキズム”ビールとの関係は?『sabo beer bar&bookstore』@菊川

ご存知かもしれないが、今書店経営は厳しい環境にさらされている。紙の媒体は電子書籍に、情報発信はWebに大きく台頭された。そんな中でも“本”を仕事にしたい。サステナブルな方法で世の中に本を送り続ける場所を作りたい。

そのひとつの答えがここ『sabo』。飲食店経営をベースにした小林さんの営む書店だ。

「逆説的ですが、本で生活しなくてもいいから好きな本が置ける。ゆくゆくは出版社としても機能させたいと思っています」

入り口を入ると左手には大きな本棚があって、奥にはクラフトビールのタップが並ぶバーカウンターとソファ席が広がっている。

『sabo beer bar&bookstore』日本の好きなブリュワリーから入れるというビールは8タップ。セゾンやサワーなど飲みやすいものが多く1杯1000円〜。人気の「猪ソーセージ」1300円などフードも◎

小林さんはここを始める前に、小田原に移住して箱根にある『GORA BREWERY&GRILL』で2年弱ビールの醸造も修業。ビールのチョイスも本格的で楽しく、居心地がいい。

そして書棚の選書は、もちろん彼自身によるもので、左半分が古本で右半分が新刊。人文書をメインに、音楽、映画、文化人類学や小説と広がっているが……。

「選書のテーマは『アナキズム』です。アナキズムって無政府主義と訳されますが、本来、資本主義・国家・権力、それら誰にも何者にも支配されないぞと。自立した個人の連帯を謳うものなんです」。

そして面白いのは小林さんがビールの醸造にも共通する要素を見出していること。

「酵母って生き物なので、ビールの設計図はあっても醸造のプロセスを100%コントロールすることはできない。人間の力が及ぶ範囲外で自由に発酵する。それを味わうのがいいなと」。

何でも自分たちの思うようにできると考える“人間の思い上がり”へのアンチと自由。そして片手にビール。どうりで居心地がいいわけだ。

【owner’s recommend】『the CATCHER in the RYE』J.D.サリンジャー著

『sabo beer bar&bookstore』『the CATCHER in the RYE』J.D.サリンジャー著

「中学時代に村上春樹訳で読んだのが最初。大人になってから原書で。主人公ホールデンの世の中への反抗心。偽善やインチキに反発するスタンスに共感したし、今も影響を受けていますね。ラストシーンの美しさも好き」(小林さん)

『sabo beer bar&bookstore』モダンな無機質さの中に植物があり気持ちのいい空間

[店名]『sabo beer bar&bookstore』

[住所]東京都江東区森下4-23-4

[電話]070-8529-4623

[営業時間]15時〜23時

[休日]月

[交通]都営新宿線菊川駅A2出口から徒歩3分

大切にしたい言葉と写真に向き合えるプライベート図書館『ふげん社』@目黒

都心ながら駅はどこも遠いが、『ふげん社』にはいつも読書と喫茶を楽しむ客の姿がある。

カウンター席を抜けると、三方の壁が天井近くまで書棚になった大空間が広がる。まるで図書館のよう。遠方からもわざわざ来たくなるブックカフェだ。

元々は築地にあった。高精細な印刷を得意とする印刷会社・渡辺美術印刷が、写真家などの表現者、本の作り手である印刷会社、読者が交流できるコミュニケーション拠点を設けたのが始まりだ。

『ふげん社』貴重になってきた写真賞の主催者の一面も持つ

片隅に本を置くようになり、ブックカフェとして発展。2020年に当地に移転。1階はブックカフェ、2階はワークショップ会場、3階はギャラリーとして機能する。

揃える本について代表の渡辺薫さんは話す。

「写真集や絵本、詩集が比較的多いかもしれません。選書のポイントは時代が変わっても色褪せない本であること。小さな印刷会社には、小さな言論を守る使命があります。心を動かす表現が収められた、ずっと手元に置いておきたい本を選んでいます」

出版も手がけ、写真集を中心に少量高品質な本作りを続けている。写真家を支援するために創設した「ふげん社写真賞」は第5回を迎えた。グランプリ受賞者には、ギャラリー展示と写真集出版の権利が授与される。

「日本の写真集は、単なる図録ではなく、編集によって一冊の作品に仕上げる独自の文化です。歴代受賞者の写真集もゆっくり鑑賞していただけます」(ディレクター・関根史さん)。

『ふげん社』中煎りと深煎りを選べる「ふげん珈琲」770円はコク豊か。「大坊珈琲を味わう会」の開催もある

コーヒーには、伝説的な名喫茶を営んだ大坊勝次氏直伝のもと、手回しロースターで自家焙煎した豆を使う。この最高の隠れ家、ヒミツにしておきたいが、もう遅いか。

【owner’s recommend】『Moon Rainbow』守田衣利

『ふげん社』『Moon Rainbow』守田衣利

渡辺薫さんが「いつも自宅の居間に置いておきたい」一冊。2005年に誕生した娘が18歳になるまでの日常を切り取った第4回ふげん社写真賞受賞作。

「淡々としつつも、温かい母の眼差しを感じる写真に心打たれます」

『ふげん社』写真作品に彩られた居心地のいい空間

[店名]『ふげん社』

[住所]東京都目黒区下目黒5-3-12

[電話]03-6264-3665

[営業時間]火〜金:12時〜19時、土・日は〜18時

[休日]月・祝

[交通]JR山手線ほか目黒駅から徒歩15分、目黒駅西口より東急バス(黒01、黒02、黒07)元競馬場前下車徒歩1分

撮影/西崎進也(PASSAGE、twililight)、松田麻樹(sabo、ふげん社)、取材/渡辺高(PASSAGE、ふげん社)、飯田かおる(twililight)、池田一郎(sabo)

※月刊情報誌『おとなの週末』2025年10月号発売時点の情報です。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

『おとなの週末』2025年10月号

【画像】ホッとする空間で美味と本を味わう 東京のカフェ・ビアスタンド併設の書店一覧(35枚)