「NISA」や「iDeCo」の普及は歓迎すべきだが…資産運用が〈がん治療〉に与える影響【看護師FPが解説】
NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)の制度が拡大したことで、資産運用に取り組む人が増えました。これ自体は歓迎すべき動きでしょう。しかし、実はこの潮流が、がん治療における「お金の問題」に思わぬ影響を与えていることはあまり知られていません。がん治療とは切っても切れない「お金の問題」の解決策について、看護師FPの黒田ちはる氏の著書『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)からヒントを探します。
資産運用の普及ががん治療に与える影響
NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)の制度拡大にともない、資産運用に取り組む方が増えています。
これは、将来に向けた家計の強化を目指す良い動きと言えますが、がん患者さんの場合、治療費や生活費が必要なタイミングで資産が投資信託や株式など現金化しにくい形で運用されているため、生活設計に悩むケースが増えてきています。
NISA・iDeCoの特徴と注意点
iDeCoには障害給付金があるものの、原則60歳まで資産を受け取ることができません。
NISAは「10年以上使わない将来のためのお金」を貯めるのに適した制度です。いつでも現金化できるものの、市場状況が悪化している時期に売却すると大きな損失を被る可能性があり、反対に、市場が良い時には「もっと利益を追求したい」と考え、判断が難しくなることもあります。
そのため、治療費の支出や収入減によって短中期で引き出す必要が生じた場合には、他の蓄えや収支の見通しも考慮しながら、慎重にタイミングを判断することが重要です。
大切なのは直近1年間のお金
NISAもiDeCoも、本来であれば老後に向けた資産運用の計画を段階的に考えていく予定だったかもしれません。しかし、がん治療でまとまったお金が必要になった場合、最優先すべきは「この1年間で必要な医療費や生活費の見通し」を立てることです。
資産運用の掛金の減らし方や現金化の方法を早急に検討する必要がありますが、判断が難しいことも多いため、がん患者支援に詳しいFPと一緒に考えていくと安心です。
特に、治療が長期間続きそうな場合や、治療後の職場復帰に時間を要する合併症や副作用が予想される場合には、治療を始める時期に生活設計や資産運用のことを考えていくと良いでしょう。
[図表]NISA・iDeCoの比較表 『【図解】医療費・仕事・公的支援の悩みが解決する がんとお金の話』(彩図社)
お金の話は家族でもしづらい
意外かもしれませんが、がん治療における「お金の問題」について、解決の大きな障害となるのは、「家族との話し合いの難しさ」であることが少なくありません。
「どのタイミングで切り出せばいいのか」「お金の優先順位が家族で違って話が進まない」「そもそもお金の話をするのが苦手」など、家族との話し合いに際してハードルを感じている方は少なくありません。
がん治療中は、医療費や生活費のことを考えながら、家族でお金の管理や使い方について決めていくことが大切です。しかし、感情的になってしまったり、逆に遠慮してしまったりと、なかなかスムーズに話せないこともあります。
そこで、家族でお金の話をしやすくするためのポイントや、話し合いを進めるコツをご紹介します。
お金について家族で話し合えることが何より大事
相談者の中には、「がんになる前はお金のことを家族で話し合う習慣がありませんでした」という方も少なくありません。
治療で大変な時にお金の話をすること自体がストレスになることもありますが、家族での話し合いが早ければ早いほど、問題を未然に防ぎ、解決策を増やすことにつながります。
なかなかうまくお金の話を切り出せない相談者の場合は、「ご家族へどう切り出すかの作戦会議」を行うこともあります。家族が病気に向き合えておらず、お金の話し合いに応じられない状況だったため、まずは病状説明に同席し、医療従事者からのサポートを受けることで話し合いが進んだケースもありました。
家族の間で状況が十分に共有されていないと、必要な対策や解決策を話し合う前に、お金の問題として認識されにくいことがあります。その結果、せっかく解決策が見つかっても、実現できないこともあります。状況は人それぞれ異なるため、一人で悩まずに医療従事者や私たちお金の専門家に相談しながら進めていきましょう。
がん治療の時には財布をひとつに
最近では共働き世帯が増え、夫婦別々で家計を管理する家庭も多くなっています。普段はそれぞれが自分の範囲でやりくりできていたとしても、どちらかががんになったり、収入が減ったり、医療費が増えたりすると、これまでとは異なるお金のバランスが生じ、大きく家計を変えなければならない場合があります。
片方の収入だけでは対応が難しい場合でも、世帯全体の収入として考えることで、負担感が減ることもあります。また、家計全体を視える化して整理することで、これまで見えていなかった支出が明確になり、無理のない調整が可能になります。
家計を管理する方法は家庭によって異なりますが、がん治療に向けては、まず全体のお金の流れを把握することが重要です。そのうえで、今後の治療費や生活費の見通しを立て、家族と一緒に柔軟に家計を調整していきましょう。
お金のことを話し合うためのコツ
これは、特に女性の相談者からよく聞くお悩みですが、男性とお金について話し合う際、治療費の大変さや緊急性を伝えても、なかなか理解してもらえず、お金の話が進まないことがあります。
特にがん治療では、考えなければならないことや選択しなければならないことが、突然、同時に発生することが多くあります。そのため、家族内でも「お金の話の優先度」や「緊急性」の感じ方が異なり、すり合わせが難しくなることがあります。
また、「趣味など個人的なお金なのに、家計から出していて負担が偏っている」という不満を抱きつつも、言い出しにくいことがあります。
このような場合、まずは項目ごとに数字で書き出し、論理的に淡々と伝えることで話が進みやすくなります。家計の現状を可視化し、感情ではなく事実をもとに共有することが大切です。「これからどうする?」という話し合いを軸に、具体的なルールを決めていくと良いでしょう。
【お金のことを話し合うポイント】
1.月ごとの支出割合を確認する(どの費用がどのくらい負担になっているか把握)
2.共通費(生活費)と個人費(趣味など)を明確にする(誰がどの負担をするか整理)
3.大きな買い物をする前に相談する(家計の余裕や優先度をすり合わせる)
黒田 ちはる
看護師FP®

