ドナルド・トランプ米大統領が、年内の米朝首脳会談の実現に意欲を見せている。実現すれば史上4度目となるが、軍事ジャーナリストの宮田敦司氏は「北朝鮮が非核化に応じる可能性はゼロに近い。会談が実現しても、アメリカが取れる選択肢は核とミサイルの保有を黙認する道だけだ」という――。
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2018年6月、米朝首脳会談の共同声明の署名式で握手する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とトランプ米大統領=シンガポール - 写真提供=ロイター/共同

■7年ぶりの国連演説で「核を放棄しない」宣言

2025年9月26日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は核関連分野の科学技術者たちとの会議を開催した。今年度の核物質の生産について進捗について報告を受け、「核戦力を軸とする、力による平和の維持と安全保障の論理は絶対不変の立場だ」と発言。重ねて「(核戦力の強化は)国家の現在と未来のための最も正しい選択で、守らなければいけない不変の義務だ」と、核戦力の能力向上にさらなる意欲を示している。

9月30日には国連総会の一般討論演説に金先敬(キム・ソンギョン)外務次官が登壇し、「我々は核を絶対に放棄せず、いかなる場合もこの立場を撤回することはない」と発言。北朝鮮から国連総会に高官が派遣され、一般討論演説に登壇するのは7年ぶりのことだったが、国際社会に向けて非核化の意思がないことを表明した。

アメリカはこれまで、北朝鮮に対し一貫して非核化を求めてきた。だがこのように北朝鮮が応じる姿勢は一向に見られない。それどころか、核とミサイル開発を着々と進めている。

ドナルド・トランプ米大統領は2025年中の米朝首脳会談の実現に意欲を見せているが、この状況を打開することはできるのだろうか。

■発足早々に空母を派遣した第一次トランプ政権

2017〜2021年の第一次トランプ政権において、米朝関係は大きく揺れ動いた。

2017年1月の就任後、トランプ新政権は北朝鮮に対する戦略の見直しを行い、「最大限の圧力」で核放棄を迫る方針を固めた。そして4月上旬、「朝鮮半島周辺での即応態勢を維持するための予防的措置」として原子力空母カール・ビンソンを中心とする打撃群を朝鮮半島近海へと派遣。トランプ大統領自身も同月末に「米国と北朝鮮の間で非常に大きな紛争が起こる可能性がある」と発言するなど、軍事行動の可能性を示唆した。

こうした動きに対し、北朝鮮は強硬姿勢で応じた。4月25日には朝鮮人民軍創建85周年を記念して「建軍史上最大規模」とされる300門の火砲による砲撃演習を実施。これは定例行事の一環ではあるものの、タイミングからして米空母派遣への対抗という側面もあったと見られる。

■「ロケットマン」「老いぼれの狂人」罵倒の応酬

そして8月に入ってトランプ大統領が「北朝鮮が米国をこれ以上脅かせば、世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒りに直面することになる」と警告したことを皮切りに、両首脳間の言葉の応酬も激化した。

9月19日、トランプ大統領は国連総会で「米国自身や同盟国を守る必要に迫られた場合、北朝鮮を完全に破壊する以外の選択肢はなくなる」と演説。金正恩委員長(当時)を「ロケットマン」と呼んで挑発した。

これを受けて9月22日、金正恩委員長は「超強硬措置を断行する」と声明を発表した。トランプを「老いぼれ狂人」と罵倒し、李容浩外相(当時)が「太平洋上で過去最大の水爆実験を行う可能性」に言及する事態に発展した。この年、北朝鮮は年間を通じて弾道ミサイル発射を繰り返しており、9月3日には6回目となる地下核実験を行った。なお、これが現時点での同国最後の核実験となっている。

緊張がピークに達する中、11月11日から14日にかけて、米海軍は3隻の空母打撃群(ロナルド・レーガン、ニミッツ、セオドア・ルーズベルト)を日本海で展開する合同演習を実施。訓練には米海軍のイージス艦11隻も参加した。

■空母3隻展開も北朝鮮への圧力にはならず

朝鮮半島近海への空母や戦略爆撃機の派遣は、過去に米朝関係の緊張が高まった際にも行われてきた使い古された手法ではある。ただ、この規模は過去最大のものだった。

近い例では、1969年4月にアメリカ海軍の偵察機が北朝鮮に撃墜された際(EC-121機撃墜事件)、米海軍が空母4隻、巡洋艦3隻、駆逐艦22隻の計29隻を日本海へ展開されている。この当時よりも空母の戦闘能力が向上していることなどを加味すると、一時的とはいえ1969年以上の圧力だったといえるだろう。

これを受けて北朝鮮政府当局者はCNNの取材に対し「米国が“新たな朝鮮戦争を引き起こす可能性のある”行動を強めている」「『戦争狂』トランプがいつ、どのように『戦争の灯火』に火をつけるのか、誰にもわからない」と非難している。

しかしこの表現は、同国内で日常的に行われている米国に対する非難報道と比較すると、特別に敏感な反応とはいえない。空母3隻の派遣を上回る軍事的圧力をかけることは困難だ。この時点で米軍は、すべての手を打ち尽くしたといっても過言ではない。

■骨抜きに終わった史上初の米朝首脳会談

状況が一変したのは2018年に入ってからだ。4月・5月と立て続けに韓国の文在寅大統領と金正恩朝鮮労働党委員長による南北首脳会談が行われ、6月には史上初の米朝首脳会談が開かれた。

同12日、トランプ大統領と金正恩はシンガポール・セントーサ島のホテルで対面。「ロケットマン」「老いぼれ」と罵倒し合い、極限まで軍事的緊張を高めていた2人が一転、笑顔で握手したのだ。両首脳は会談後、共同声明に署名した。

その後も2019年2月27日に第2回米朝首脳会談がベトナム・ハノイで、同6月30日には板門店で第3回米朝首脳会談が行われた(第3回について米国政府は「首脳会談でも交渉でもなく、両首脳が面会しただけ」と主張している)。

だが、歴史的な対談実現という華々しい看板の裏で、具体的な成果はほとんど無きに等しいものだった。2018年の米朝共同声明では「非核化と体制保証」がうたわれていた。「完全な非核化」と引き換えに、米国による北朝鮮の「体制保証」を約束したものだが、米国が要求する「完全かつ不可逆的な、後戻りできない非核化(CVID)」は明記されず、そのため体制保証の具体的措置についても言及されていなかった。

つまり、米国は北朝鮮の非核化を実現するための具体的な戦略を持っていないことが明らかになったわけだ。にもかかわらず、トランプ大統領は世界最悪の独裁者と喜んで「和解」し、会談の成果を誇示して金正恩委員長を絶賛した。

■なぜ北朝鮮は強硬姿勢を崩さないのか

米朝首脳会談は、北朝鮮の態度を変えるには至らなかった。会談前後の時期こそミサイル発射を一時的に停止していたが、2022年には大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含むすべてのミサイルの発射実験を再開。現在に至るまで開発を着々と進め、米国の安全保障を脅かし続けている。

北朝鮮にとって最大の脅威は、国土が他国から侵略され、体制が崩壊することだ。その脅威と対策は、関係国の動きによって変化する。かつてであれば東西冷戦、中ソ対立、冷戦終結などに対応すべく、「全軍の幹部化・全軍の近代化・全人民の武装化・全土の要塞化」という四大軍事路線を推し進めた。

そして金正恩政権になり、核兵器と長距離弾道ミサイルという強力な抑止力を手にしたことで、状況はさらに大きく変化した。北朝鮮が非核化を決して受け入れないのは、強硬姿勢を崩せば米国に付け込む隙を与えてしまうからだ。

体制を維持するために、現実の米朝関係に問題が生じていなくても「米国の敵視政策による圧力」を受け続けているとして、国内外に向けて「戦争も辞さない姿勢」にあることを喧伝する。そして、弾道ミサイルを発射することで関係国を威嚇し、危機を創出する。ただし、一触即発の状態に見えても全面戦争には発展させない。

写真=iStock.com/Goddard_Photography
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Goddard_Photography

■米国は譲歩に譲歩を重ねるしか道がない

こうしたやり口が成立するのは、中国との決定的な対立を避けるために米国は北朝鮮を先制攻撃できないからだ。また、米国にとっては日本やロシアなど、朝鮮半島が不安定化した場合に影響を受ける国との間で解決しておかなければならない事項があまりにも多いことを北朝鮮は理解している。

今年9月20日、金正恩総書記は最高人民会議での演説において「米国が非核化を要求せず、敵対姿勢を取らないならば対話に応じる可能性はある」と米朝関係に言及した。経済制裁でも軍事的圧力でも核を放棄しない北朝鮮に対して、米国が唯一選択できるのは、核とミサイルの保有を認める道しかない。トランプ大統領が再び金正恩氏との首脳会談を実現させても、待っているのは譲歩に譲歩を重ねる屈辱的な結果だけだろう。

むろん米朝関係の行方は、日本にとって無関係ではない。

まず軍事面に目を向ければ、北朝鮮の弾道ミサイルの射程には日本も含まれている。トランプ政権が北朝鮮の核・ミサイル保有を黙認する形で「ディール」を成立させた場合、日本の安全保障環境はさらに悪化する。

そして最重要課題である拉致問題の解決には日朝対話が不可欠だ。北朝鮮は日本との接触を拒否しており、交渉のためには米国の仲介に頼らざるを得ない。実際、過去には米国を介した拉致問題の局面打開を狙ってきたものの、2018〜2019年に行われた3度の米朝首脳会談には直接関与できなかった。

4度目が実現するならば、今度は蚊帳の外を避けたいはずだ。韓国とも連携しながら、米政権に働きかけを行っていく必要があるだろう。

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宮田 敦司(みやた・あつし)
元航空自衛官、ジャーナリスト
1969年、愛知県生まれ。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校(現・情報学校)修了。中国・北朝鮮を担当。2008年、日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。博士(総合社会文化)。著書に『北朝鮮恐るべき特殊機関 金正恩が最も信頼するテロ組織』(潮書房光人新社)、『中国の海洋戦略』(批評社)などがある。
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(元航空自衛官、ジャーナリスト 宮田 敦司)