「妖怪たちの妖怪たちによる妖怪たちのための学校」に赴任することになった教師・安倍晴明(あべはるあき)と、個性的な生徒たちの日常を描くアニメ『妖怪学校の先生はじめました!』(妖はじ)が2024年10月から始まりました。本作は「月刊Gファンタジー」連載の田中まいさんによる漫画を原作としています。10年にわたって連載され、刊行済みの単行本が17巻を数える作品ですが、実は田中さんにとって本作は初連載作品。漫画はいつごろから描き始めたのか、そして本作はどのように生み出されたのか、細かい部分のお話をうかがってきました。

TVアニメ『妖怪学校の先生はじめました!』公式サイト

https://youkaigakkou.com/

インタビューに応じてくれた田中まいさん(自画像)。



GIGAZINE(以下、G):

本作『妖はじ』を読んだときに「1ページのあいだにボケとツッコミの応酬がすごいテンポで繰り広げられているなぁ」という感想を抱きました。1話当たりのネーム作成にはどれぐらいかけているんですか?



「妖怪学校の先生はじめました!」作者・田中まいさん(以下、田中):

できるときとできないときで、すごく差があるんです。できるときは半日ぐらいでぶわーっと描くこともあります。

G:

半日!早い!

田中:

でも、まったくできないときは2週間とか……。締切の1週間ぐらい前まで「できません……」ということもあります(笑)

G:

それはヤバい(笑) かなりの振り幅ですが、その差というのは、どういうときに出るんですか?

田中:

半日でできるときは、頭の中に起承転結から会話の中身まで、すべてができあがっていて、それを描くだけという状況になっています。ただ、話の流れはできているけれどギャグはその場のノリで描かなければいけないというときがもう……。「登る山は決まっているけれど登山計画は立てていない」というような感じで。

G:

「登山計画を立てていない」!(笑)

田中:

登山の途中で道に迷うといいますか、ぐるぐると回って「あれ?ゴールはどこだ?」となっているときには本当に時間がかかるのです。でも、完璧な登山計画を立てたときにはスイスイ登れます。

G:

『妖はじ』は連載が10年続いていますが、「できる」と「できない」の割合はどれぐらいですか?

田中:

9対1で、できてないです(笑) 苦しいときの方が多いですね。

G:

こちらは完成した作品を読んでいて「どうすればこのような作品が生み出せるのだろう?」と向こう側がまったくわからないといった感じで、「10年もこれを苦労せず描けているならとんでもないことだ……」と思っていたのですが、さすがに苦労しておられたということで、ちょっと安心したようなところがあります。

田中:

いやいや、苦労してます。描きながら伏線を入れていくことになるので、「どうしよう……」と常に考えています。

G:

改めて1巻から読むと、後々につながるセリフがあって「そうだったのか!」と思うことがありました。あれは、最初のうちに後々のことまでがっちり考えて入れてあるのですか?それとも、描きつつ「ここをこうつなごう」と?

田中:

ストーリーラインに関しては、部分によっては結構固まっていて、長編によっては構想から5年ぐらいかかっているものもあるので「そこに向けて伏線を入れなければ」という回もあります。

G:

本作は、最初からクラスメイトがドバーッと出てきて、それぞれの秘密については途中で少しずつ開示されていきましたが、そういった設定は最初に出す時点からかなり決まっていたのですか?

アニメでも第1話から個性的な生徒たちが顔を見せています。



田中:

正直なところ、ほとんど決まっていなくて(笑)、メインキャラ数名を除くと2、3行ぐらいバッと設定を書いて出したキャラクターもいました。

G:

ええー、そうなると、最初はほとんど見た目だけしか決まっていないようなキャラもいたんですね。

田中:

本当に、そうです。A4の紙、1枚に5キャラぐらい描いて、編集さんに「こんなキャラです」とまとめて出しました。

G:

それは、編集さんからツッコミは来ませんでしたか?

田中:

私、キャラを膨らませるのがものすごく得意で。情報量が少ない状態から始めても、整合性がとれるようにキャラクターを作り上げていくのが得意なんです。

魅力的な生徒たち



G:

連載が進むとともに、それぞれのキャラクターがうまく育っていくような感じですか?

田中:

それはめちゃくちゃあります。

G:

読んでいて、最初から出ているキャラクターでも性格の破綻とかがなくて、口調にしても、言っている内容にしても、かなり統一感があって……。「もし途中で考えているなら、ブレたりするよなー」と思っていたんですが。

田中:

けっこう、描きながらの部分があります(笑)

G:

ひょっとして、苦労する回が9割あるというのは、キャラクターのそういった部分も考えつつネームを切っているからだったりするのでしょうか?

田中:

それは大いにありますね。「この伏線はこの回までに入れなければいけないから、そこまでにこのキャラクターとこのキャラクターの会話を入れなければいけない、さてどこに入れましょうか……」みたいになることは、よくあります。

G:

ひぇー……毎回、話の最後がいい引き、いいところで終わっているのですが、それは1割の苦労しない回と9割の苦労する回で「最後のコマはどうしよう」と苦しむ度合いも異なるのでしょうか。

田中:

あ、それは全くなくて。

G:

!?



田中:

私は話を考えるときに、そもそもお尻の方から考えていくタイプなんです。

G:

というと、ネームも最後のところから?

田中:

そうです。最初に描き始めるのが結末、引きのところなので、そこで困るということはあんまりないですね。

G:

おぉー……その、言われている言葉はわかるのですが……具体的に、結末のシーンまで決まっているのですか?それとも、お話の流れとしてはこうなるという感じですか?

田中:

1話完結のエピソードと長編回で少し違いますけど、長編であればいろいろな流れがある中で「ここが区切りになるから、ここから描こう」とぱっと区切っています。メインストーリーを結末から考えて、その結末に到達するにはどう持っていくか、ということになりますから。

G:

なるほど、そういう考え方なんですね。実際、漫画を読んでからお話をうかがっても「そうはならんやろ」という感じがあります(笑) 田中さんは、1巻に「初の本格連載、初の単行本、初の妖怪物、初のがっつりコメディーと初めて尽くしで、生まれたての子鹿のようにプルプルしております」というコメントを寄せられていました。なぜ妖怪コメディものを描くことになったのですか?

田中:

これは、当時の担当編集さんの意見が結構大きくて。もともと『妖はじ』を描くまではシリアスな少年漫画をずっと描いていたんですが、編集さんから「会話劇が面白いから、コメディをやった方が売れます」と助言をいただいたんです。コメディは描いたことがなくて、ナチュラルな会話の中で面白いことをポロッと言わせるというのはできるんですけれど、「人を笑わせる作品を描け」となると「無理です」と、けっこう押し問答みたいになりました。結局、「とりあえず、描いてみよう」と、本作の前に短期集中連載の機会をいただいたのですが、それが大きかったと思います。

G:

そういうことだったんですか。今回、お話をうかがうにあたって、SNSの過去の投稿も拝見したのですが、中学生のころにノートに描いていたようなキャラクターが10年後に連載キャラクターになり、ついにアニメにもなったという話を見かけました。どういった漫画を描いていたんですか?



田中:

これはゴリゴリの冒険ファンタジーものでした。今だと「異世界転生もの」に分類されると思います。キャンパスノートに、ずっと描いていました。

G:

漫画は中学のころに描き始めたのですか?

田中:

漫画自体は小学1年生のころからずっとノートに描いていて、この作品は小学6年から高校3年まで6年間描き続けた作品でした。

G:

6年間描き続けていたとなると、ものすごい分量になっているのでは……。

田中:

そうですね、100ページあるノートだったので。

G:

しかも分厚い方!

田中:

それが何十冊とあって、今も実家に置いてあります。

G:

それはぜひ読んでみたいです。絶対にみんな読みたがるやつですよ、いったいどんなものを描いていたんだろうと。

田中:

今思うと中学生らしい、いかにも「中二病」的な要素も入っていた漫画でした(笑)

G:

友達に見せて感想をもらったりしていたんですか?

田中:

まったく見せていなかったんです。本当に自己満足で、自分が楽しむためだけにずっと描き続けていました。

G:

自分で描いて、自分で読んで?

田中:

それでケラケラ笑っていました。本当に、連載を持つまで「漫画を人に読んでもらう」という考えがなくて。

G:

『妖はじ』を読んでいると、なんというか、サービス精神満載の作品なので、中学生のころに漫画を描いていたというところと結びつけて、いろんな人に昔から読んでもらっていたからなのかなと思っていましたが、逆なんですね。

田中:

自分だったらこうされるとうれしいな、こういうシーンや展開があるといいなというのがずっと続いている感じです。

G:

Xでも、ノートを押し入れから引っ張り出してきて昔描いたという漫画が公開されていました。



田中:

これは初めて持ち込みに行った漫画です。専門学校に入って、初めて原稿用紙に漫画を描きました。

G:

その持ち込みでは、どういったことを言われたか覚えていますか?

田中:

まず「描きたいことはわかるけれど、絵が追いついていない」。

G:

結構、ズバッと言われるんですね……。

田中:

その後、他でも持ち込みをしたんですけれど、同じように絵について言われることが多かったです。とにかく、ストーリーよりも絵を改善することと繰り返し言われたので、絵の練習をするしかないなという感じでした。

G:

いったん飛んで、2024年に入ってからの投稿なんですけれど、パース定規が使えなくて、使い方を伝授してもらったという話が出ていたのですが、これはわりと最近までアナログで描いていたということなのでしょうか。



田中:

『妖はじ』の4巻の最後の24話、お風呂回の線画までがアナログでした。

G:

そのあたりで、デジタルに切り替えなければ、となった感じですか?

田中:

一回、3巻収録の15話でもフルデジタルに挑戦したんですけれど、編集さんからの評判が芳しくなかったので1話限りにして、「これは練習しなければいけない」と、4巻末の話までは水面下でデジタルの練習をしつつ、原稿はアナログで描いていました。そしてお風呂回で半分アナログ、半分デジタルにしたら、違和感を指摘されなかったので(笑)

G:

気付かれなかったと(笑)

田中:

それで5巻の最初、25話からはフルデジタルになりました。

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G:

『妖はじ』について、身内や友人から一番褒められたのは「まさかのタイトルだった」というお話がありました。どういったものを候補として考えていたんですか?



田中:

正直、いろいろ出し過ぎて何も覚えていないぐらいです(笑) 結構、妖怪ものを中心にしたアイデアとか、主人公の晴明(はるあき)は安倍晴明(あべのせいめい)からいただいているので陰陽師寄りにした方がいいのかなとか、あとはこれまで少年漫画をやってきたのでマジメな感じのタイトルが多かったです。あんまりコメディ色を感じさせるものはなくて。

主人公の晴明



田中:

でも、その中で「これはないだろう」と思っていた、ふざけた系統のものを編集さんが「いい」と(笑)

G:

そうやって決まっていたんですか。漫画家を目指した時期については、SNSでも語られていて、目指したのは小学校に入学したころで、漫画家になったら絵が上手くなるという理由だったとありました。

田中:

小学校のころ、同級生の子に「絵が下手」と、結構ディスられたんです。もともと、物語を作るのは好きで、当時から整合性を考えていたんですが、それをうまく表現するための絵が下手で、「じゃあ、漫画家になれば上手く描けるのでは?」と思ったのがきっかけでした。もちろん小学校の低学年、中学年と描き続けていく中で「これ、逆だな?」と気付きまして(笑)

G:

よかった(笑)

田中:

「上手くならないと漫画家にはなれないんだ」という方向にシフトしていきました。

G:

原稿用紙に初めて描いたのは専門学校に入ってからだったということですが、これまでにどれぐらい作品を描きましたか?SNSには、今まで描いた主人公として、12人のキャラクターが出ていましたが。



田中:

12作品より多いですね、合間合間にもっと描いていまして。私はデビューするまでに結構長くかかっていて、「表現したいことに絵が追いついていない」というのが大きかったんです。漫画賞を受賞するまでに、10作近く持ち込みを繰り返していて。

G:

10回も持ち込みをするというのは、メンタルもかなり強くなければ難しいですね。

田中:

タフだったと思います。ただ唯一、「ストーリーをこうした方がいい」と言われることはあまりなくて「描き続ければなんとかなる」という希望があったので、とにかく数をこなすしかないというメンタリティで乗り切りました。

G:

『妖はじ』までは少年漫画を描いていたということですが、どういった作風のものが多かったのですか?毎回、わりとバラバラですか?

田中:

バトル漫画が多かったです。ただ、今思うとコメディ色がそんなになくて、アクの強さみたいなものはなかったのかなと。

G:

そして『月刊Gファンタジー』に初掲載されたのが『極楽浄土のほとけさん』だということなのですが、この頃になると自分としても、洗練されてきた感覚みたいなのはあったのでしょうか。

田中:

この作品までは別の、少年漫画の雑誌でお世話になっていたのですが、ここから『月刊Gファンタジー』掲載、要するに女性読者さんがメインの雑誌になるということで、とにかく絵をなんとかしなきゃいけない、かっこいい男の子を描けるようにならなきゃいけない、と。『Gファン』という、雑誌自体、絵のきれいな作品が多い中でやっていくからには、自分も絵がきれいじゃなければいけないというプレッシャーがあって。絵はこのころ、すごく練習しました。

G:

なるほど。そして、短期集中連載で『業業−カルマカルマ−』を掲載することになるんですね。これが先ほど出ていた、コメディ路線で試しにやってみようという。

田中:

そうです。この作品から方向性がわかってきたといいますか、コメディの感じにしても「こうすれば面白くできるんだ」というのがわかったり、「起承転結を作ると話の流れがきれいになるんだ」というのに気づいて、できるようになったのは、この作品からですね。

G:

この『業業−カルマカルマ−』がコメディ作品初挑戦になったということですが、最初、コメディ路線で苦戦したところはどういったところですか?

田中:

実は、コメディを描くと決めてからはまったく苦戦はしていなくて。

G:

えっ……。s

田中:

要は、担当編集さんが仰っていたとおりで、いざ描いてみたら「いけるやん」となって(笑)

G:

担当さんの慧眼だった。

田中:

そうなんです。描いてみたらいけることがわかって、自信を持って『妖はじ』を始めることができました。

G:

うわー、そういうことだったんですか。『妖はじ』を読んだときに、もうこういう作品を2本も3本も描いて慣れている作家さんなのかと思ったのですが、巻末のコメントを見ると初づくしだとあって、「はて?」と。

田中:

本当に、好き勝手やっても大丈夫なんだとわかって『妖はじ』に挑めています。

G:

いろいろ見ていると、けっこう取材旅行に行っている様子がうかがえるのですが、わりとあちこち行っている方なのでしょうか。



田中:

すごく多い方だと思います。3話以上の長編で学校以外が舞台になるときは、まず行っていると思います。

G:

やっぱりそうなんですね。

田中:

私はもともと建物が好きで、建物や背景の写真から話を作ることもすごく多いんです。なので、たとえば5巻に収録されている林間学校の話だと、廃墟の学校をモチーフにしているのですが、実際に入れるところがあって。

G:

めちゃくちゃリアルだと思ったら、モデルがあったんですか。

田中:

実際、入る許可をもらうことができて、建物に入った瞬間「廊下を走っている晴明たち」みたいな想像がぱっと出てきたので、そこから話を考えたりとか。

G:

おお。

田中:

京都編の時には、京都に行って30分ぐらい写真を撮ってとんぼ返りで東京に戻るということもありました。八坂神社を使いたかったので、八坂神社だけ行って、バーッと撮影して。

G:

なんと……SNSでは、バンジージャンプに行ったという投稿が気になりまして、なぜここでバンジージャンプなんだろうと思ったのですが、これはひょっとして……。



田中:

とにかく、いろいろな体験をしてみたいんです。高所恐怖症なので、本当はバンジージャンプは絶対やりたくないんですけれど、とにかく経験はしてみたい。これはしてみなければということは体感したいという性質で。あと、地元にB級スポットとかが大好きな友達がいて、「こういう気になる建物がある」と教えてもらったらその日のうちに行ってみたり。

G:

なるほど……そういった経験に支えられて『妖はじ』は構築されているんですね。

田中:

本当にその通りで、弐年参組のクラス自体、私が中学3年生の時のクラスの雰囲気をモチーフにしているので、実体験からできている部分が結構あると思います。

G:

荒唐無稽に見えつつもしっかりとしたリアリティを感じる作品だと思ったら、ちゃんとそんな理由があったんですね。いろいろ伺ってきたのですが、そろそろ時間が来てしまったということなので、最後に『妖はじ』を2024年10月から始まったアニメやこのインタビューで知って読んでみようと思った人に向けてメッセージをお願いします。

田中:

仰っていただいたとおり荒唐無稽に見える部分もありますが、リアルなところもあり、かと思えばファンタジーもあり、いろんな要素が詰まっていて、幅広い層の方に楽しんでいただける作品だと思います。ギャグとして楽しむもよし、シリアスを楽しむもよしで、いろいろな視点でお楽しみいただければと思いますので、よろしくお願いします。

G:

本日はありがとうございました。

田中:

こちらこそありがとうございました。

漫画『妖怪学校の先生はじめました!』は月刊Gファンタジー連載中で、単行本は既刊17巻。

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外伝作品『妖怪学校の生徒はじめました!』も田中さんが執筆していて、既刊2巻。

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アニメ『妖怪学校の先生はじめました!』は2024年10月8日(火)から放送・配信がスタート。放送時間はTOKYO MXが毎週火曜23時、ABCテレビが毎週水曜26時14分、BS朝日が毎週日曜23時。ほかにABEMA、dアニメストアをはじめとした各種サイトにて、順次配信が行われています。なお、連続2クール作品なので、じっくりと味わってください。



ノンクレジットのオープニング映像とエンディング映像がYouTubeで公開されています。

TVアニメ『妖怪学校の先生はじめました!』ノンクレジットオープニング - YouTube

TVアニメ『妖怪学校の先生はじめました!』ノンクレジットエンディング - YouTube

©田中まい/SQUARE ENIX・妖はじ製作委員会