中興化成工業・庄野直之「創業から60年、加工が難しいフッ素樹脂で培った技術を、他の素材でも生かしていきたい」
庄野 従業員との関係は基本的には経営者の「片思い」だと思うんです。「従業員は喜んでいるだろうか」、「1人よがりになっていないだろうか」と自問自答する日々です。給与を上げたり、制度をつくったりした時には、果たして満足度は上がっただろうかと思うわけです。ですから、従業員が他社に移ったりすると、片思いの恋に破れたくらい切ない(笑)。
細かい例で言うと、当社では従業員本人ではなく、そのご家族など、大切に思っている人の誕生日に花を贈っています。「あなたが、あの人を支えてくれているおかげで、当社は運営できています」という思いを込めています。
─ 家族を含め、大事な人の支えがあってこその企業経営だということですね。
庄野 そうです。私も長い期間、サラリーマン生活を送ってきましたが(編集部注:庄野氏は住友商事出身)、昔 都々逸で聞いた「嫌なお方の親切よりも、好きなお方の無理がいい」という言葉が心に残っています。嫌な上司から「早く帰っていいよ」と言われるより、好きな上司から「悪いけど、あと2時間やってくれる?」と言われる方が、人間は幸せではないかと思っています。
例えばラグビーなどは激しいスポーツですが、嫌な人間から「やれ」と言われて、骨を折るようなプレーはできません。体を張ることができるのは、やはり好きだからです。ですから会社も、できるだけ好きになってもらう努力を、みんながすることが大事だと思うんです。
ですから管理職などには、できる限り部下を見ていてあげなさいということを言っています。私が商社で中国の担当をしている時、アメリカから中国市場の知識の少ない上司が赴任してきたことがありました。
その上司は当然、現地の事情はわからないわけですが、その人は我々が夜、接待に出た後、最後の1人が帰ってくるまで待っていてくれたのです。そうして、我々の愚痴を聞いて「そんなの気にするなよ」と声をかけてくれる人でした。
─ 部下のことを見てくれる上司だったわけですね。
庄野 そうです。自分達の仕事を知らない上司にボーナスの査定をされたくないですよね。その上司は、我々がどんな顔をして帰ってくるか、見てくれていたんです。市場のことはわからなくても、我々の話を聞き、誰が何を判断しているのかを見る眼力がありました。
こうした経験から、管理職以上の、将来経営を担う人間に必要な資質として、デザイン力、胆力、眼力、対内的対人能力、対外的対人能力の5つが大事だと考えています。
そしてポジティブさも大切です。当社では例えば「この角度がわからないので見積もれません」という言い方ではなく「この角度がわかれば見積もれます」と言いなさいと言っています。同じことを言っているわけですが、ポジティブな言い方に変えようと。
素材に「言うことを聞かせる」技術
─ 改めて、中興化成工業が手掛ける「フッ素樹脂」の良さ、可能性について聞かせて下さい。
庄野 世の中にある人工で作った素材の中では、あらゆる意味で一番タフです。
タフという時には、いろいろな定義があると思いますが、熱や強い薬品などでも溶けないですし、紫外線にも強い。「フォーエバー・ケミカル」と呼ばれるくらいです。
非常に強い分、加工が難しい素材でもあります。言うことを聞かないわけです。言うことを聞かない樹脂の言うことを聞かせるわけですから、そこに技術が必要なのです。
─ 他社が真似できないということは言えますか。
庄野 真似しにくいとは言えると思います。ですから我々は、フッ素樹脂の加工で培った、素材に「言うことを聞かせる技術」を他の素材で生かしていこうとしています。
一番ハードルの高い素材を加工しているわけですから、例えばシリコーンなど、他素材の場合、更に強みを生かせるのではないかと考えています。
我々以外にも技術を持った企業はあり、時には競合することもありますが、どちらかと言えば、お客様が持つ課題が違う場合が多いですから、お互いに違う課題を個別に解決しているという感覚があります。
─ 逆に、フッ素樹脂が抱える課題はありますか。
庄野 欧州などで、環境問題からフッ素樹脂も含むPFASの使用を制限する「欧州PFAS制限案」が検討されています(PFASは有機フッ素化合物の総称)。
それに対しては、PFASで問題になっているのは非常に一部のもので、フッ素樹脂は関係ないということを説明しています。即ち、問題があるのは「特定PFAS」であり、フッ素樹脂は分子量的にも別物であることを伝えると同時に、その特性からも体内には吸収されず、産業や社会に欠かせない樹脂であるというメッセージを出し続けているところです。
