中国の無人探査機が火星への軟着陸に成功した。関連記事には中国の技術の進歩を称賛すると同時に、日本の現状を憂う心情が込めらたコメントが寄せられた。日本人の対中意識を反映したものと考えてよいだろう。

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中国の無人探査機「天問1号」が15日未明、火星の「ユートピア」平原に軟着陸した。「天問1号」には火星探査車「祝融号」が搭載されており、中国国家航天局(宇宙局)によると「祝融号」から送られたリモートセンシングの観測信号で確認できたという。火星への無人探査機の着陸を成功させたのは、ソ連、米国に次いで中国が3カ国目だ。

ソ連は1971年のマルス3号で、火星への軟着陸一番乗りを果たしたが、ソ連の探査機はいずれも、極めて短い時間で通信が途絶した。一方、米国の探査機として初めて火星に着陸したのはバイキング1号だった。1976年とソ連に比べて出遅れたが、2000年を過ぎたころからはさまざまな探査機を火星に送り込むことに成功しおり、探査車も活動させている。中国の「祝融号」が順調に活動すれば、中国は火星で探査車を活動させた2番目の国になる。米国が「牙城」とする科学技術分野に中国が乗り出す状況は、火星上で「地上の縮図」が展開されているようにも見える。

ここで注目したいのは、同ニュースに対して投稿されたコメントだ。投稿者の国籍を厳密に判断する方法はないが、流暢な日本語で書かれているかぎり、日本人による意見表明と理解して、まず間違いないだろう。

コメントの投稿先サイトによっても傾向は違うようだが、例えばYahoo! には、宇宙開発における中国の先行性を指摘するコメントも目立つ。例えばYahoo! が掲載した「中国の無人探査機、火星『ユートピア平原』着陸」と題する記事に寄せられたコメントで、「いいね」を最も多く集めているコメントは「日本の宇宙開発の方がはるかに早い時期からのスタートだったのに、月に探査機を送ることもできず、周回しかさせられない。有人宇宙飛行は全く出来ていない」「盗用だ盗用だと日本人が文句を言っている間に、宇宙開発、AI、量子コン、ドローン、5G技術すべてで日本は後塵を拝してる」などと指摘した。

SNSやYahoo! などのポータルサイトに寄せられるコメントは、中国に対する「罵詈雑言」が極めて多い状態だ。もちろん、中国が抱える問題点を鋭く指摘し「中国は自ら強調するほど順風満帆ではない」と論を進める、「なるほどなあ」と思わせるコメントも少なくない。ただし、「中国の言うことはすべて信用できない」といった感情的な反発も非常に多い。

しかし、中国が科学技術分野で目に見える成果を出せば、それを評価するコメントが寄せられ「いいね」を獲得する。これは、どういうことなのだろうか。

私は、明治以来約100年に渡って続いた日中の「力関係」のイメージから、日本人がまだ抜け出せていない、という原因が大きいと考えている。ある程度以上年配の日本人にとって中国は、自分が生まれた時から「日本よりずっと遅れた国」だった。それよりいくぶんか若い世代にも「日本が上、中国が下」という認識のパターンが残っているのではないか。

国の経済力の指標として代表的なものに国内総生産(GDP)がある。もちろんGDPだけで国の総合力を判断することはできないが、大雑把な指標としては重要と考えてよいだろう。さて、2020年時点で中国のGDPは101兆5986億元(約1726兆円)で、日本は539兆1000億円だった。つまり、中国の経済規模は日本の3倍以上になった。中国が日本をはるかに上回る経済大国に成長したのは事実だ。

ここで、中国関連のニュースに寄せられるコメントの傾向を、もう一度、考えてみよう。中国の発展を素直に認める投稿も少なくはないが、「主流」とは言えない。まず目立つのは、中国の体制を批判するコメントだ。「中国人は割と好きだが、中国共産党は諸悪の根源」と主張する投稿も珍しくない。もちろん、中国国内にはさまざまな問題や矛盾が存在する。政策面について私自身、「その方法はマズいよなあ」と思うこともよくある。ただし、改革開放が始まって以来の共産党の牽引(けんいん)により、中国人のかなりの部分が豊かな物質生活を手に入れたのは事実だ。「人はパンのみにて生きるにあらず」とも言うが、まずは飢える心配がなく、自分自身がさらに豊かになるために努力することに意味を見出せる社会を「政治体制に納得がいかない」という理由だけで非難するのは、「客観的事実に準拠して」というよりも、心の底の“情念”に突き動かされた面が大きいのではないか。