新型コロナウイルスの流行を受けてアメリカ政府は3月末に外出禁止令を発表しており、多くの店舗や企業が休業を余儀なくされ、経済への影響はリーマンショック以上だという見方もあります。経済の影響を最小減にすべく各国はさまざまな取り組みを行っていますが、新たな研究では「社会や市民の活動を制限する積極的な取り組みをした方が、規制解除後の経済成長が高くなる」ということが示されています。

Pandemics Depress the Economy, Public Health Interventions Do Not: Evidence from the 1918 Flu by Sergio Correia, Stephan Luck, Emil Verner :: SSRN

https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3561560

The data speak: Stronger pandemic response yields better economic recovery | MIT News

http://news.mit.edu/2020/pandemic-health-response-economic-recovery-0401



世界経済に打撃を与えた過去の疫病流行として、「スペインかぜ」と呼ばれる1918年インフルエンザが存在します。研究者は新たな研究で、1918年インフルエンザの発生時に各都市がとった対策と、その後の経済への影響を分析。この結果、社会的距離戦略やその他の公衆衛生における介入を10日早く行った都市は、行わなかった都市と比べて、パンデミック収束時における製造業の雇用が5%高かったことが示されました。また介入が50日早かった都市は、同時期の雇用が6.5%増加したことも示されています。

研究を行ったマサチューセッツ工科大学スローンマネジメントスクールの准教授であるエミル・ヴァーネル氏は「公衆衛生に積極的に介入した都市が、経済の面で悪い結果を残したという証拠は見つかりませんでした。それどころか、積極的に介入した方がパフォーマンスがよくなるのです」と述べています。ヴァーネル氏は研究結果を受けて、「ウイルスへの影響を積極的に抑えようとすることと経済活動の2つはトレードオフである、という考えには疑問を呈します。パンデミックはそれ自体が経済にとって破壊的です」と見解を述べています。

1918年インフルエンザが猛威をふるった際にも、社会的距離戦略のような「非医製造への

薬品介入法」は取られており、これが人々の健康に影響を与えたことはこれまでも知られてきました。現代取られている方法と同様に、当時の社会的距離戦略にも学校や劇場の閉鎖や集会の禁止、ビジネスの制限などがが含まれており、現代の方針と近似しています。



全体としてみると、パンデミックによる経済的影響は大きく、パンデミック収束後の1923年まで製造業生産高が18%低下したことが示されていたとのこと。一方で、アメリカの43都市それぞれを見てみると、1918年に120日以上の社会的距離戦略を行ったカリフォルニア州オークランド市やネブラスカ州オマハ市はその後の経済活動のパフォーマンスが高く、社会的距離戦略が60日以下だったペンシルベニア州フィラデルフィア市やミネソタ州セントポール市は、パフォーマンスが低くなっていることがわかったそうです。

「私たちが発見したのは、1918年インフルエンザの影響をより深刻に受けた地域は、雇用・製造業生産高・銀行ローン・耐久消費財の在庫などさまざまな経済活動指標において、一貫して急激かつ持続的な低下が見られたことです」とヴァーネル氏。



この研究は査読前論文となっている点に注意が必要。また1910〜1920年代と現代では経済構造が異なることをヴァーネル氏は認めていますが、「いくつかの学ぶべき点がある」とし、「パンデミック時の経済学は通常時の経済学と異なる」という点を強調しました。