なんで体幹トレって重要なの? アスリートもダイエット民も、理解すべき人体の構造
連載「骨格筋評論家・バズーカ岡田の『最強の筋肉ゼミ』43限目」
「THE ANSWER」の連載「骨格筋評論家・バズーカ岡田の『最強の筋肉ゼミ』」。現役ボディビルダーであり、「バズーカ岡田」の異名でメディアでも活躍する岡田隆氏(日体大准教授)が日本の男女の“ボディメイクの悩み”に熱くお答えする。43限目のお題は「なぜ、体幹トレが重要なのか」について。
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Q.スポーツ選手からダイエット民まで、当たり前になっています。なぜ、体幹トレって重要なのですか? また、ボディメイクにも体幹トレーニングは必要ですか?
前提として、スポーツ選手だろうがダイエッターであろうが、全身をバランスよくトレーニングするのが筋トレの基本です。ですから私たち指導者は体幹トレーニング限らず、何か一つのトレーニング、部位だけが重要、という考え方はしません。
とはいえ、どんなスポーツでも体幹は重要です。
例えば「走る」は、地面を蹴って体を前に運びます。この場合、足を高速回転させて前に進む下半身に対して、上半身が置いていかれないように体幹が力を発揮しています。したがって、体幹が弱いとスプリント競技では上半身が脚の加速に追い付けずにのけ反る、長距離では上半身がブレるなどで、遅くなります。
また、「投げる」や「打つ」動作では、脚で地面を蹴った力を体幹を経由して増幅させて腕に伝えていますし、器械体操のように「バランスをとる」動きでは、体幹も力発揮を微細にコントロールして、全身のバランス維持に貢献しています。以上のように、体幹は必ず運動動作に関係するという意味で、体幹トレーニングは重要といえるでしょう。
ボディメイクにも体幹は大切です。
背骨がしなやかでムチ化している人はケガ、痛みのリスクが減少
まず、体幹部には筋肉がたくさんありますから、鍛えれば代謝を促進して痩せやすくなります。また、体幹には大胸筋、僧帽筋、広背筋、三角筋など、腕や肩甲骨を動かす筋肉がついていますが、これらの筋肉は体幹の使い方によって、活動が変わります。ですから体幹をうまく使えたり、強く使えたりする方が間違いなくトレーニングの幅が広がりますし、それぞれを鍛える効果も高まるのです。
そして、健康面でも体幹の力は重要。長時間同じ姿勢を維持する際、頑張って背骨を支えているのは体幹部の筋群です。これらの筋肉が自在に使えれば、姿勢の保持に余計な力を使わなくなりますし、強ければ結果的に筋持久力も伸びる。日々の生活を送る上でも疲れにくくなり、体が楽になるでしょう。
さて、筋肉には強い力を発揮したり見た目のシルエットを作ったりする表層の筋肉と、骨の近くにある深層の筋肉(俗に言うインナーマッスル)の2つに分けられます。今回は、身体の屋台骨である背骨に付着する体幹部のインナーマッスルについて、もう少し突っ込んでお話ししましょう。
背骨(脊柱)は1本の骨ではなく、「頚椎」「胸椎」「腰椎」に分けられる24個の椎骨と1個の仙骨が連結したものです。これを一つ一つつなぐのが、背骨にごく近い体幹のインナーマッスルです。
骨をつなぐ一つ一つの筋肉が強ければ、強くしなやかに動かせるということになります。インナーマッスルがうまく使える人は、背骨の動きも多様であり、背中をムチのようにしなやかに動かせます。ムチを打つと、先端は速すぎて動きが見えませんよね? 背骨を強くしなやかに動かせるということは、ムチの先端のようなスピードを作るためにとても大切なのです。また、背骨がしなやかでムチ化している人は、ケガや痛みのリスクも少なく、力の増幅もうまくいきます。スポーツにもボディメイクにも健康にもいいのです。
ところが、人間は背骨をしなやかに動かす使う機会をどんどん失っています。特に座り仕事が多い人は、体幹を大きく動かすシーンがほぼありません。そのため、運動する機会のない方ほど、インナーマッスルが弱く、うまく使えなくなっている可能性が高い。だから、わざわざ体幹トレーニングで使い方を学びましょう、となるのです。
四肢を持たずに体幹のみ「ヘビ」こそが最強の体幹
そもそもあらゆる生物は、体幹をうまく使って生きています。私たちと関係性が深い脊椎動物の魚類、両生類、爬虫類は主に体幹の側屈(左右にうねる)、哺乳類は屈曲伸展(前後ろにうねる)させて前進します(いずれも例外はあります)。私たちとは関係性が遠くなるミミズのような無脊椎生物でさえ、体幹を使って前に進みます。脊椎動物は5億年の歴史のなかで、ずっと体幹を使って前に進んでいるわけです。
ヘビにいたっては四肢を持たずに、体幹のみという進化を遂げていますからね。脊椎の骨の数を増やし、体幹を長くして、まさにムチのようなしなやかな動きを実現している。しかも陸を這い、水中を泳ぎ、木まで登る。最強の体幹です。
生物の進化を辿ると、本来、体幹には前に進むための運動機能が求められていた。しかも、多数の背骨がうねるように動く、とてもよく動く部位だったことがわかります。しかし、二足歩行になった人間は、体幹が使われにくくなってしまった。生物の歴史からみれば、ホモ・サピエンスが出現してからの時間なんてほぼ「点」ですからね。体の使い方と体の構造がマッチしていない状態であり、まだ対応しきれていないのでしょう。
魚は非常になめらかに背骨を使いこなして泳ぎ続けなければ生きていけません。人間の場合は脊椎の骨の数はまだたくさんあるのに、脚が移動機能のメインになり、健康的に生きるためには歩く要である下半身を鍛えましょう、となる。背骨は魚と似たような構造を持っているのに体幹を十分に使う場面が減っているのですから、理に適ってないんですね。だから、私たちの体は不具合を起こし、首や腰は痛くなるし、動かさないから腹に脂肪がたまる。実際に腰痛の方を調べると、背骨をうねらせる筋肉が小さくなっているという報告もあります。
ということで、すべての人にとって体幹トレーニングが大切であり、体幹を強く使うトレーニング、しなやかに使うトレーニングの両方が必要だと思います。骨が24個もあるのに使わないのは、ヘビのような最強のムチになることを諦めるということであり、動きを加速できないことでもある。それはとても、もったいないことですからね!(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。
岡田 隆
1980年、愛知県生まれ。日体大准教授、柔道全日本男子チーム体力強化部門長、理学療法士。16年リオデジャネイロ五輪では、柔道7階級のメダル制覇に貢献。大学で教鞭を執りつつ、骨格筋評論家として「バズーカ岡田」の異名でテレビ、雑誌などメディアでも活躍。トレーニング科学からボディメーク、健康、ダイエットなど幅広いテーマで情報を発信する。また、現役ボディビルダーでもあり、2016年に日本社会人ボディビル選手権大会で優勝。「つけたいところに最速で筋肉をつける技術」「HIIT 体脂肪が落ちる最強トレーニング」(ともにサンマーク出版)他、著書多数。「バズーカ岡田」公式サイトでメディア情報他、日々の活動を掲載している。
