しかし、あの頃の本田とは違う。トップレベルのサッカーから離れて久しく、ここ1か月は試合にも出ていない、おそらく満足の行くトレーニングも出来てはいないだろう。リズムを取り戻すだけでもかなり苦労するはずだし、90分間プレーをするにはかなりの練習を積まなければならない。
 
 またボタフォゴの選手の多くは20代前半と若い。プレーのテンポについていくだけでも33歳には一苦労なはずである。プレゼンテーションイベントで本田はリフティングをしてみせたが、何度もぽろぽろとボールを落としていた。
 
 もうひとつ気になるのは、彼がプレーヤーとして以外に多くの事業に関わっている点だ。カンボジア代表監督、オーストリアの3部チームの経営、サッカースクールの運営……。彼の頭は、100パーセント自分のプレーには向かっていない印象を受ける。本気で選手をしているわけではないのかと。

 ブラジルでは、二足の草鞋を履いてできるほどサッカーは甘くない。ましてや彼が所属するのは、いまは低調だが、それでも天下のボタフォゴだ。オーストラリアやオランダのようにはいかない。

 本田の不幸は、まだ何もしていないのに突然スターに祭り上げられてしまったことだ。ボタフォゴのサポーターは、それに気づかないようにしている。なぜなら彼らにとって本田が最後の希望だからだ。それ以外夢を見る材料がないのだ。

 ただその期待が裏切られたとき、熱く、混乱したリオという町で何が起こるかわからない。今シーズンの終わりまでこの町でプレーし続けるには、かなりの努力と強い精神力が必要だろう。

取材・文●リカルド・セティオン
翻訳●利根川晶子

【著者プロフィール】
リカルド・セティオン/ブラジル・サンパウロ出身のフリージャーナリスト。
8か国語を操り、世界のサッカーの生の現場を取材して回る。FIFAの役員も長らく勤め、ジーコ、ドゥンガ、カフーなど元選手の知己も多い。現在はスポーツ運営学、心理学の教授としても大学で教鞭をとる。