ロッテ酒類が法的手段に出たことを伝えるハンギョレ(10月3日付)

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日本製品の不買運動では、日本企業だけではなく、韓国企業までトバッチリの被害を受けている。

そんななか、怒り心頭に達した韓国大手企業が「フェイクニュースを流して営業妨害を行った」として、約20人を相手取り法的手段に訴え出た。ずっと忍耐を続けてきた日韓双方の企業にとって初めてのことである。

いったい、何が起こっているのか。韓国紙を読み解くと――。

アサヒビール子会社と間違われたロッテ酒類の怒り

経済専門紙の韓国経済(2019年10月3日)「ロッテ酒類『日本酒』デマに対し法的対応へ」が、こう伝えている。

韓国焼酎『チョウムチョロム』を販売するロッテ酒類が、自社が日本に関連しているという虚偽事実を広めた人々に法的対応に出ると10月2日発表した。日本製品不買運動が拡散しながら『日本のアサヒビールがロッテ酒類の株を有している』『チョウムチョロムを飲むとアサヒの利益につながる』などの主張が拡散。ロッテ酒類の製品を不買運動の対象に指定する投稿文もオンライン上に出回っている。ロッテ酒類側は『数回にわたり会社と製品の沿革および会社の持株構造を説明する資料を配布したり、広告を出したりしていたが、誹謗が続いているため強硬対応に出ることにした』と明らかにした」

ロッテ酒類は法務法人を使って、悪質なフェイクニュースを流している約20人を特定、すでに営業妨害行為などの内容証明および告訴・告発状を発送したという。今後、さらに妨害行為を続けると民事・刑事告発を行うと警告した。

今回の日本製品不買運動では、日本企業ばかりではなく、日本企業と関連のある多くの韓国企業が不買運動の対象になって被害を受けている。しかし、下手に刺激すると被害がさらに拡大するため、「被害を受けている」と公式にコメントすることさえ控えている企業が日韓双方とも大半だ。公式に法的対応に出ると発表したのはロッテ酒類が初めてだ。

ハンギョレ(10月3日付)「ロッテ酒類、アサヒとの繋がり主張する虚偽事実の流布に法的対応」は驚きをもってこう伝える。

「(ロッテ酒類の親会社ロッテチルソン飲料は)財界第5位の大企業だ。大企業が消費者を対象に訴訟戦も辞さないと『公式宣言』するのも異例のことだ。ロッテ酒類の関係者は、『韓日関係が悪化するたびに、ロッテが主なターゲットとなってきたが、今回の不買運動で明らかになった虚偽事実は、会社が受け入れられる水準を超えていると判断した』と説明した」

「日本系企業は儲かっているのに寄付をしない」

ところで10月に入り、日本製品不買運動とは別に、日本企業をやり玉にあげる新たな動きが文在寅(ムン・ジェイン)政権側から出ている。韓国企業が未曽有の景気悪化で苦しむなか、韓国内の日本系企業は大いに儲かっているのに「寄付」をケチっているというのだ。

聯合ニュース(10月1日付「日系の韓国上場企業10社 配当額が5年で100億円超」はこう伝えている。

韓国の上場企業のうち日本企業(もしくは日本人)が筆頭株主の日本系企業は12社あり、このうち10社が2014年から18年までの5年間に総額1180億ウォン(約106億円)の配当を支払っていたことが10月1日、わかった。金融監督院がこうした内容を含む国政監査資料を国会企画財政委員会に提出した。配当性向が、利益のすべてを配当する100%を上回った企業もある。アルミニウム箔(はく)などを製造する三亜アルミニウムの配当性向が272%で最も高い」

配当性向とは、その期の純利益の中から、株主に配当金をどのくらい支払っているかをパーセンテージで表したもので、ざっくり言うと、配当性向が高いほど儲かっていることになる。金融・ITのBIフィンテックソリューションズの配当性向は143%、建設資材製造のコリアエスイーも116%といった按配で、いずれも韓国上場企業の平均配当性向である約30%を大きく上回っている。

「また、10社の中では配当性向がさほど高くなかったものの、配当額自体が大きかった企業がある。韓国東海カーボンの配当金が5年間で287億2200万ウォン(25億8000万円)、起信精機が233億6000万ウォン(21億円)、エステックが184億1800万ウォン(16億6000万円)などだった」

といったふうに日本系企業の好調ぶりを示す例をあげ、こう結ぶのだった。

「一方、これら12社のうち同じ5年間に寄付をしたのは6社で、計2億7500万ウォン(2500万円)にとどまった。国会企画財政委員会に所属するキム・ドゥグァン議員(与党・共に民主党)は『日本人の筆頭株主の株式保有比率が50%を超える企業は12社中5社で、筆頭株主に企業の利益が固着しているのが実情だ。配当金に比べ寄付金はあまりにも少なく、収益を上げている韓国に社会貢献するには程遠い』と述べた」

つまり、日本系企業は韓国企業を大きく上回るレベルで儲かっているのに、日本の株主ばかりに利益が吸い上げられ、儲けの源泉となった韓国内で何も貢献していない、というわけだ。ただし、この記事では韓国内の財閥系企業がどの程度「寄付」をしているのかは明らかにしていない。

日本に「上空通過料」払うよりは北朝鮮に

もう一つは、韓国国民の日本への旅行ボイコット運動により経営悪化に追い込まれている韓国の航空会社が不本意なカネを日本に吸い上げられ、さらに苦境に立たされているというニュースだ。ほとんど「言いがかり」のような指摘だが――。

聯合ニュース(10月2日付)「韓国航空会社が日本に支払った上空通過料 4年半で190億円」がこう伝える。

韓国の航空会社9社が2015年から今年6月までに日本に支払った上空通過料が2126億ウォン(約190億円)に上ることが10月2日、わかった。国会国土交通委員会所属のユン・ホジュン議員(与党・共に民主党)が、国土交通部の資料を分析した結果を明らかにした。同じ期間に日本の航空会社が韓国に支払った上空通過料は82億2000万ウォン(約7憶円)だった」

「上空通過料」というのは、他の国の上空を飛ぶために支払う手数料で、その国の空港を離着する際の使用料とは別だ。各国は上空にも権利を持っているため、そこを飛ぶだけで通過料を払わなくてはならない。つまり、同じ時期に韓国が日本側に支払った上空通過料は、日本が韓国側に支払った額の13倍にも達したというのだ。

なぜ、こんなに日本側に徴収されなくてはならないのか。ユン議員は、こう訴えたのだった。

「ユン議員は韓国航空会社の通過料が多い理由について、北朝鮮への制裁により、北朝鮮の領空通過が禁止され、米国などに向かう際は日本上空を通過する迂回(うかい)航路を利用しているためだと説明した。また、北朝鮮航路を利用すればコスト削減や飛行時間短縮が可能になる。日本航路に依存している現在の状況から脱することができるよう航空分野の南北協力に向けた準備にも万全を期す必要があると指摘した」

航空分野でも南北協力を果たし、日本に対抗しようというわけだが、今度は北朝鮮に「上空通過料」をとられることにならないか。

(福田和郎)