文在寅

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日韓メディアを駆け巡る「反日デモ」

「ボイコット」「締め出し」「旅行取り消し」――。韓国のニュースメディアにいま、こんなワードが飛び交っている。これらは日本の半導体輸出規制を巡って、現地報道が伝える「韓国社会の反応」だ。

 7月5日にはソウル市鍾路区の旧・日本大使館前で、日本製品の不買を訴えるデモが行われた。映像を見る限り、集まったのは数十人ほど。参加者は「日本製品不買」と書かれたビラを手に、ユニクロ、トヨタ、ホンダ、ソニー、またアサヒビールやマイルドセブンのロゴなどを貼りつけたダンボール箱を踏み潰すパフォーマンスを行った。その映像は韓国の主要メディアはもちろん、日本のワイドショーにまで拡散している。

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 デモを行ったのは、中小企業及び自営業者の27団体からなる韓国中小商人自営業者総連合会。全国で少なくとも約230カ所の個人商店やスーパーなどが、ビールなど日本製品の販売を中止するという。日本が「報復措置」を止めるまで続けるとしているが、売上は10%ほど減少が見込まれるそうだ。

日本人K-POPアイドルを巡る報道

 韓国の各メディアはまた、「報復措置」への反発が日本人K-POPアイドルにも及んでいると伝えている。いまや日本でもブレイクした女性グループTWICEをはじめ、日本人メンバーを含むK-POPアイドルグループは少なくない。大手紙「朝鮮日報」は7月4日付の記事で、TWICEなどの日本人メンバーを挙げながら「日本国籍のタレントの国内活動を中断させなくてはいけないという主張も出始めている」と報じた。

 ネットでは不買だけでなく、日本旅行を止めようとの呼びかけも見られる。日本旅行に関するネットコミュニティでは、旅行を取り消した手続き画面のスクリーンショットが登場。これもまた「韓国社会の反応」として、多くのメディアに取り上げられた。

 そうしたなかで俳優イ・シオンが被った災難も、ニュースになっている。ちょうど旅行で日本を訪れていたイ・シオンは7月3日、自身のインスタグラムに滞在中の写真2点を公開。すると「ニュースも見ないで生きているのか」「状況が理解できていない」といった非難コメントが殺到し、写真の削除を余儀なくされてしまった。

最悪な関係と裏腹な日本ブーム

 教科書問題、竹島問題など、これまでことあるごとに盛り上がってきた韓国の日本製品不買運動。だがそのつどメディアが煽り立てる割に、具体的な成果につながったことはないようだ。現地紙「ソウル経済」は7月7日付の記事で、「不買運動の大部分は竜頭蛇尾に終わった」「不買運動を繰り広げた日本製品の消費量は、この間むしろ着々と増えてきた」と伝えた。

「過去最悪の日韓関係」と叫ばれるのとは裏腹に、韓国はむしろ日本ブームというべき状況が続いている。日本を訪れる韓国人の数は2005年の約174万7000人から、2018年は753万9000人に急増。これは人口の約15%という驚くべき数字だ。7月5日付「京郷新聞」は大手旅行会社の話として、「キャンセル件数を注視しているが、有意な動きは見られない」とのコメントを紹介している。

 前述のデモでやり玉に挙げられた日本車は、全輸入車に占めるシェアが2015年の2倍近い21.5%(今年上半期)。また日本で就職する韓国人も増加傾向にあり、全海外就職者に占める割合は最多の約29%(2017年)に上る。

 そのほかスイーツをはじめ日本食が人気を博しているかと思えば、アパレルや日用雑貨でもユニクロや無印良品が市場を席巻している。歴史問題では譲らない韓国人だが、文化や消費、レジャーといった面ではむしろ非常に日本好きなのが現実だ。

レクサスにキムチを撒いた人物

 もちろんなかには、反日感情から日本製品の人気を苦々しく思う韓国人もいる。そうした人々が、日本文化を好んだり日本製品を消費したりする人を「イルパ(※常軌を逸した日本ファンの意味)」と呼び、ネットコミュニティで「親日派(※日本統治時代の対日協力者の意味)」「売国奴」といった攻撃を浴びせることもある。

 7月5日にはレクサスがテーマのネットコミュニティで、愛車にキムチを撒かれたというオーナーの証拠写真つき投稿が話題を集めた。コメント欄では「国家間の問題でこんなことをするとは」「それが愛国だと考えるクズがいるんですね」「韓国人同士で反目し合うのは安倍の狙い通り」などの声が寄せられる一方、投稿者は「こんな一介の事件が政治的に利用されるのかと思い、インタビューや取材は断りました」と書き込んでいる。犯人の真意は不明だが、「イルパ」に反感を持つ人物が半導体関連の報道に刺激された、と見る向きは多いようだ。

「アイドルボイコット」報道への視線

 前述の日本人K-POPアイドルのボイコットという報道に対しても、ポータルサイトのコメント欄やSNSでは冷めた意見が多い。例えば7月4日にこれを報じた通信社news1の記事は、ポータルサイトで約5000件のコメントが寄せられている(7月8日現在)。そのなかで最も共感を集めたのは、次のような内容だ。「ゴミ記者が記事の照会数を稼ぐために、韓国が好きで韓国に住んでいる彼女たちを政治的な問題に引き込んでいるのが、本当にムカつく」。またツイッターで不買運動を呼びかけているフォロワー数1万4700のアカウントも、「ゴミ記者に騙されないでください。韓国で活動中の日本人芸能人を追い出せという投稿はありません」とツイートしている。

 7月4日には野党・正しい未来党のハ・テギョン議員が、日本人K-POPアイドルのボイコットについて「本当に愚かしい」と自身のフェイスブックに投稿した。ただしハ議員は「戦いに勝とうとするなら、味方を最大限確保しなくてはいけない」と続けており、「親韓派」の日本人K-POPアイドルが半導体輸出規制問題で韓国側の役に立つと考えているようだ。その意味では、アイドルを政治的に利用しようとする「ゴミ記者」と大差ないのかも知れない。

 生活雑貨から自動車、レジャー、それにアイドルまで、意外に韓国で愛されている日本。歴史問題を有利に運ぶために市場を利用しようとしても、思うようにいかないのが現実のようだ。

高月靖/ノンフィクション・ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年7月12日 掲載