川崎フロンターレの連覇によって幕を閉じた2018年のJリーグディビジョン1。その優勝の立役者となったのが、MVPに輝いた家長昭博(32歳)だ。


2018年シーズンに、自身初となるJリーグMVPを受賞した家長

 昨年12月末、新シーズンに向けてトレーニングを開始した家長を訪ねた。トレーニング施設は都内のオフィス街にある「LP BASE虎ノ門」で、運営者は大宮アルディージャでフィジカルコーチを務める大塚慶輔氏。この施設では、ライフスタイルを改善してパフォーマンスを上げるためのサポートや体の治療を行なっている。

「(2014年から3年間プレーした)大宮時代のトレーニング環境がかなりよかったんです。川崎に移籍して1年目は環境が変わったんですけど、また体を診てもらいたくなったので2018年から再開しました。トレーニング内容は当時やっていたことと大きな変化はなく、延長線上にあるような感じですね」

 家長は、昨年4月から週に1度、チーム練習が終了してからパーソナルトレーニングを受けていたという。家長を担当するトレーナーは、2017年シーズンまで大宮にいた青木豊氏だ。青木氏は鍼灸師兼アスレチックトレーナーでもあり、大宮にいた頃の家長の体を治療しながらトレーニング指導も行なっていた。

 高い技術と強靭なフィジカルを兼ね備える家長は、ボールを奪いにくる相手をことごとく跳ね返す。鋼の肉体を手に入れるために、ハードな筋力トレーニングを行なっているのかと思いきや、トレーニングではベンチプレスを一切使わず、実戦を想定したさまざまな動きの確認をする程度だった。

「フィジカルにはあまり力を入れていないので、筋トレでは重いものを持ちません。昔から、 思い描いたプレーをできるように、ボールを”止めて蹴る”ことにこだわってきました。でも、ボールキープではミスをするので、(自分では)優れていると感じたことはないですね」

 ボールキープ力はJリーグの中で群を抜いている印象があっただけに、家長の返答は予想外だった。

 大宮アルディージャから川崎フロンターレに移籍した2017年は、開幕後に足の骨折で戦線を離脱し、復帰後も川崎のサッカーにフィットするまでに時間がかかった。しかし8月に入ると噛み合い始め、シーズン終盤にはチームで欠かせない存在となり、チーム初のJ1優勝に大きく貢献した。

 2018年はリーグ戦32試合に出場し、6得点(チーム2位タイ)、7アシスト(チーム1位)を記録。リーグ最多得点に最小失点と、シーズンを通して安定した試合運びを見せたチームにおいて存在感を示した。

「『練習・試合・休み』というサイクルがいい感じにできていたので、2018年はケガも病気もなくシーズンを終えることができたんだと思います。それでも、チームは優勝しましたが、個人としての満足感はそんなにないです。『あの状況では、こう動いてボールをこう止めて、ああやって蹴るべきだった』という場面が沢山ありますから」

 家長は、驚異的なボールキープ、緩急のあるドリブル、左右の足から放たれる正確なパス、ダイレクトプレーなどで相手チームに脅威を与えていた。しかし家長の自身のプレーに対する評価は低く、改善しなければならない点ばかりだと反省する。

 チームメイトの中村憲剛(2016年)と小林悠(2017年)に続き、単独チームでは史上初の3年連続となるMVP受賞についても、「MVPを受賞したからといって、とくに変わりはないですね。『まあ、こんなもんか』と」と素っ気ない。家長が喜びを感じるのは、別のところにあるようだ。

「チームも個人としても日々成長しているので楽しいです。成長している実感があるからこそモチベーションが上がります。すごく勉強になる選手がいるので、フロンターレの一員でいられることは非常に誇らしいですね」

 2018年のJ1ベストイレブンには、川崎から7人もの選手が選ばれた。彼らと行動を共にすることで自身が成長していることを実感する家長だが、とくに6つ歳上の中村憲剛(38歳)から受ける影響が大きいという。

「憲剛さんはすばらしい選手で、Jリーグの顔でもあります。試合に向けたコンディション作りを間近で見ることができるので、自分は得をしていますね。サッカーのためにいい生活を送っているからこそ、あれだけ長く第一線で活躍されているんだと思います」


頼もしいチームメイトに刺激をもらいながらさらなる成長を目指す

 家長は2004年にガンバ大阪でプロデビューを果たしてから、スペインと韓国を含めた7チームでプレーしてきた。国内外のチームを渡り歩いてきた家長に現在のJリーグの印象を尋ねると、前かがみになってこう話した。

「Jリーグは規律があって観客数も多いすばらしいリーグです。ただ、スペイン2部と比べてもレベルは低いと思います。自分はスペイン2部でもなかなか試合に出られなかったですからね(笑)」

 家長は2013-14年シーズン、前季18位でスペイン2部に降格したRCDマジョルカに約1年半ぶりに復帰したものの、リーグ戦の出場は7試合にとどまった。そんな自分がJリーグでMVPを獲得したことに大きな”ギャップ”を感じているのだろう。

 だからこそ、家長は現状に満足することなくさらなる高みを目指す。2019年シーズンに向け、周囲もこれまで以上の活躍を期待しているはずだ。

「年々プレッシャーを感じるようになっています。どんな思考回路にしてもそれは消えないので、最後に『まあ、いっか』とあきらめるんですよね。来シーズンもプレッシャーとうまく付き合いながら、さらに成長していきたいと思っています」

 昨年ACLを制した鹿島アントラーズ、アンドレス・イニエスタに続いてダビド・ビジャを獲得したヴィッセル神戸など、各チームが川崎のリーグ3連覇を阻もうと対策を練ってくることは間違いない。そんななかで家長が昨年を上回る活躍をすれば、2011年にアルベルト・ザッケローニ監督時代に招集されて以来遠のいている日本代表メンバーに入る可能性もある。

「僕が選手を選ぶわけではないですし、『選ばれたらうれしいな』と思うくらい」と控えめに語ったJ1リーグのMVPは、新たなシーズンに向かってまたトレーニングを積み重ねていく。プロフィール
家長昭博(いえなが・あきひろ)
1986年6月13日京都府生まれ。ガンバ大阪ジュニアユース、ユースを経て、2004年にトップチームデビュー。2011年にスペイン1部・マジョルカに移籍。韓国1部・蔚山現代などを経て、2014年から大宮アルディージャでプレー。2017年に川崎フロンターレに加入し、2018シーズンはJリーグ最優秀選手賞、Jリーグベストイレブンを獲得した。