映画における脚本の技法を分析するYouTubeチャンネル「Lessons from the Screenplay(LFTS)」が、Facebookの創設者・マーク・ザッカーバーグを主人公にした映画「ソーシャル・ネットワーク」の脚本を務めたアーロン・ソーキンの高度なテクニックをはじめとして、「ソーシャル・ネットワーク」が高く評価される理由を3つに分けて解説しています。

The Social Network - Sorkin, Structure, and Collaboration

「ソーシャル・ネットワーク」は取り上げて欲しいという要望が多かった作品だとのこと。アーロン・ソーキンのテクニックは目を引かれるもので、要望が多いのは自然なことだとLFTSは述べています。



そんな目の離せない特徴の最たるものが、スピーディーな対話にあります。



幼い頃に両親によく演劇に連れて行かれたものの、舞台の上でどのような物語が展開されているかを理解していなかったソーキンは、「対話を音楽のように楽しんでいた」と語っています。



対話を描くテクニックのひとつが、重なり合った対話を用いることで、リズムとエネルギーを表現する「overlapping dialogue」です。



言い争いの中で語調が強くなるマーク。



マークを落ち着かせるため言葉を遮ろうとするのですが……



その声を抑え込むように、さらに語調を強めるマーク。ここで感情のエネルギーがグンとあがることを、対話を重ね合わせることで強調しています。



もうひとつの対話の重要なテクニックが「misunderstanding」です。



「Who are you?」と尋ねるマーク。



女性はマリリン・デルピーと名乗り、「すでに自己紹介はしたはず」と非難するようにいいます。



マークが聞きたかったのは「何の仕事をしているのか」でしたが、マリリンは質問をストレートに受け取って名前を答えたという場面です。



マリリンは改めて自分のプロフィールを伝えます。ここの会話で質問を「誤解」させたことにより、「登場人物が名前とプロフィールを視聴者に伝える」というプロセスを自然な場面として描いているのです。このように、「misunderstanding」は説明ゼリフをより自然に感じさせるためのテクニックとして巧みに使われます。



それだけでなく、「misunderstanding」によりシーンをより魅力的にすることもできます。「different trains of thought」はその技法のひとつで、お互いの思考の速度を、異なる種別の電車のように差を付けることで、観客を対話の表面だけではなくその思考にまで引き込みます。



特徴的なシーンが「ソーシャル・ネットワーク」の導入部分、「天才的なIQを持つ中国人の数は、アメリカの全人口よりも多い」という統計に関する会話にあります。



エリカは、マークが中国の話をしていると思って聞いています



しかしマークの思考はどこか先へ行き、「どうやったら突出した存在になれるか」というテーマのもと「SAT(学力検査)で1600点(満点)を全員がとる中で、どうしたら突出した人間になれる?」とエリカに話を振ります。



マークが中国の話をしていると思っているエリカは、「あなたが中国でSATを受験しているなんて知らなかった」と返します。しかしマークにとっては中国の話はとっくに終わった話でした。ようやくエリカは「マークのSATの話」だという思考に追いつきます。



その後もマークの思考は超特急で走り続けエリカの質問は無視されます。エリカは理解することを一度諦めて、マークの考えの中にあると知っていた「final club」の話題でようやく会話が一致します。この一連の会話では、マークが試験で満点を取るくらい優秀であること、「final club」に入りたがっていること、周りから抜きん出た存在になりたいこと、そしてエリカが誠実で忍耐強いことなどを自然な形で視聴者に説明しています。



そしてそれと同時に、「他者と上手に関わることができない」というマークのキャラクターを表しています。リズムのよい対話の中でパーソナリティを自然に説明しつつ、作品の主題とも大きく関わるマークの特徴を冒頭で浮き彫りにすることを、「misunderstanding」のテクニックが可能にしています。



「dialoge(対話)」に続いてソーキンの特徴として紹介されているのが「Structure(構成)」です。



LFTSによると、ソーキンのキャリアは劇作家から始まったため、初期の作品は1本の線でつながった物語構造だったのですが、テレビ番組を手がける中で一直線ではない非線形の構造を取り込んでいったとのこと。



そんなソーキンの非線形構造として例にあげられているのが「フラッシュバック」の技法です。物語は直線的に進みますが、途中で作中時間が飛んで未来のシーンが挿入されます。



仲間として良好な関係の描写から仲たがいしてしまったシーンにジャンプすることで、それぞれのシーンの意味合いを強調させています。エドゥアルドの「もはや、親友ではない」というセリフは、この構造の中ではマークとの過去の友情を強めるとともに、現在の焦燥も色濃く描き出しているのです。



また、直線的に物語が進まない構造によって、「dramatic question」の意味を変化させています。「ソーシャル・ネットワーク」がFacebookの話である以上、視聴者はマークが成功するとすでに知っています。



そのため、劇中における重大な疑問は「何が起こるか」という事実を問うものではなく、「どのように起こるか」という、状況や感情に主眼を置いたものになります。



単純な直線ではない物語構造を用いることで、「Facebookという会社」の物語ではなく、「マークとエドゥアルドとの関係」の物語であることが示されているわけです。



「ソーシャル・ネットワーク」の素晴らしい点として最後に触れているのが、「collaboration」の重要性です。ソーキンの作品は多くが高い評価を受けているものの、あまり評価されていない作品もあります。



監督であるデヴィッド・フィンチャーがソーキンの言葉を巧みに「映画的」にしていると、LFTSは指摘します。



その例のひとつが、短い会話の中でいくつものカットが用いられる画面表現です。会話している2人が異なる思考の列車に乗って走り出していることを、スピーディーな画面転換により表現。会話がかみ合っていないことを視覚的にも理解できます。



重要な「collaboration」の要素として、演者のパフォーマンスについても言及しています。ソーキンの対話は速度が早く、また思考がそれぞれに走り出していくため、演じるのがとても難しいものです。さらにソーキンは「……」などの「言葉遣い」を重視するため、俳優はこれを自然に表現する必要があります。



LFTSは動画の最後に、「ソーシャル・ネットワーク」におけるソーキンとフィンチャーの協働はこの上なく最高だったと絶賛しています。ソーキンがいかに巧みなテクニックで脚本を書いてもそれだけで傑作が生まれることはなく、周りにエキスパートが集まって初めて成功へ導かれるのだと、「collaboration」の重要性を再度強調しています。