アメリカ最大のプロレス団体、WWEのレジェンドが新日本プロレスに参戦を表明し、業界が騒然としている。あのクリス・ジェリコがケニー・オメガの持つIWGP・US王座に挑戦を表明したのだ。

 それを受けて12月11日の福岡大会には、アメリカにいると思われたジェリコが突如として乱入し、オメガを襲撃。翌12日の記者会見では逆にオメガがジェリコに殴りかかり、両者の決戦の舞台である年間最大イベント「1.4東京ドーム」を前に早くも白熱の様相を呈している。

 クリス・ジェリコといえば、米国最大のプロレス団体WWEで17 年間活躍し続け、史上初の統一世界王者にもなったスター中のスター。その彼がなぜ急に、しかも挑戦者として新日本参戦を決めたのか?

 世界のファンがざわつくなか、東京に滞在していたクリス・ジェリコを直撃、挑戦の経緯や戦略を聞いた。リング上での激しさとは打って変わって、穏やかな言動からは27年間プロレス界のトップであり続けた矜持(きょうじ)が浮き彫りになった――。



「1.4東京ドーム」に向けて、抱負を語ったクリス・ジェリコ

――先日、新日本プロレスの博多大会に突如として乱入され、あまりのバイオレントな行動に解説者は「僕の知ってるクリス・ジェリコじゃない」と漏らしていましたが……。

クリス・ジェリコ(以下、ジェリコ) “僕の知ってるクリス・ジェリコじゃない”って? ハハハ。じゃあ、本当の「クリス・ジェリコ」を知っているのは誰なんだ? ほんの1カ月半前まで、僕とケニー・オメガが戦うなんて誰かが思ったかい? 誰も思ってなかったはずだ。僕が思いつくまで、こんな試合は実現するハズがなかったんだから。僕はいつでも人をハラハラさせたい性質(たち)でね。

――問題提起型ってわけですね。

ジェリコ 何をするか予測できちゃうと発展性がないだろ? 現状維持は好きじゃないんでね。

――そもそもケニー・オメガを対戦相手に選んだのはなぜです?

ジェリコ 新日本プロレスのトップスターだからだ。そして、世界でも最強のプロレスラーのひとりだからな。オメガと対戦するって、ひらめいた時、「いいぞ、自分たちの間には何だって起こり得る」と思った。このカードを発表するだけでニュースになるし、世紀の一戦になるだろうって。ちょうどメイウェザーとUFC王者マクレガーの試合みたいにね。

――なるほど。今回、自身を新たに”アルファ”と称していますが、その理由は?

ジェリコ 僕は27年間プロレス界のトップで、しかもWWEで17年間やってきた。プロレスというビジネスにおいての、コンセプトとプロモーション、そしてキャッチフレーズの重要性はわかっているつもりだ。だから最初にクリス・ジェリコvsケニー・オメガって構図を思い浮かべた時、アイツがオメガなら俺は”アルファ”だって思った。

アルファは最も大きく、最も重要で、最高な存在だ。つまり僕にピッタリなキャッチフレーズってワケだ。それにアルファvsオメガって、Tシャツにするにもピッタリな字面だろ?(笑)

――実際に、オメガの率いる「BULLET CLUB(バレット・クラブ)」に対抗するように「ALPHA CLUB JERICHO(アルファ・クラブ・ジェリコ)」Tシャツも作りましたね。

ジェリコ アイツらが「BULLET CLUB」なら、こっちは「ALPHA CLUB JERICHO」だっていうアイデアは気に入ってる。対戦する1月4日まで時間がない。その間に僕の新しい”アルファ”ってキャッチフレーズをキッチリ認知させたいと思ってね。BULLET CLUB 対ALPHA CLUBってのはやり方としちゃ、なかなかいいだろ? SNSでもガンガン拡散してるし、ファンにもすぐに浸透するだろうね。

――戦略的にやっているわけですね。

ジェリコ 結構、アイデアが湧いてくるタイプなんだよ(笑)。


――ところで、ケニー・オメガとは同郷ですよね。

ジェリコ そう、彼には人間としての魅力もあるけど、それは自分と同じカナダのウィニペグ出身だからだね。

――カナダ人とアメリカ人との考え方の違いを感じることは?

ジェリコ そうだな、カナダってちょっと変な国で、アメリカっぽいけどやっぱり違う。すごくフレンドリーだし、プロレスとロックが好きで、お笑いとアイスホッケーも大好き。繋がりを大事にするところがあって、カナダ人が有名になると、もう国を挙げて応援する勢いだよ(笑)。実は僕にもオメガの成功を喜んでいる部分はあるんだ。会ったこともない頃から「彼、ウィニペグ出身なんだ!? やったな」って素直にね。

――ケニー・オメガとは共通点もある?

ジェリコ まず歩んできた道が似てる。カナダの小さな町から飛び出して、とてつもないレベルでブレイクした。アメリカと日本、国は違えどお互いにトップだ。性格は真逆だろうがまったく構わない。だって、友だちになりに来たわけじゃないから。ただ、アイツとなら最高にエキサイティングなショーになるだろうね。

――では、ご自分とケニー・オメガとの差は何だと思いますか?

ジェリコ 経験だね。

――経験とは、つまりどんな?

ジェリコ さっきの話とカブるけど、俺はWWEで世界中を17年間ツアーしてきた。それもメインイベンターとしてだ! その間に、歴史に残るような名だたる選手と対戦を重ねてきたんだ。ショーン・マイケルズ、ジ・アンダーテイカー、リック・フレアーからストーン・コールド・スティーブ・オースチン……。

 中でもショーン・マイケルズとの試合はよかった。試合自体も、それが組まれるまでも最高だったし、どんな角度からもベストバウトだ。レイ・ミステリオとの試合も素晴らしかった。ザ・ロックは素晴らしいライバルだったし、CMパンク、エッジ、ジョン・シナ、どいつもすごい奴らばかりだよ。

――出てきた対戦相手が全員ビッグです!

ジェリコ つまり、殿堂入り級のトップ中のトップと戦い続けてきたってこと。ついでに言うなら、僕だってスゴイんだ(笑)。そんな奴らの中で6回も世界チャンピオンになっているんだからな。

 さらにWWEの40近い王座も得られるものは全部獲っている。ケニーにそんな経験があるかい? 何より、経験っていうのは教わることができない。自分で実行することでしか得られないのが”経験”なんだ。だからこそ今、ケニー・オメガと戦いたいんだ。彼は新日本プロレスのトップだから。

――これまで得た栄光に、ケニー・オメガを倒すことで、もうひとつトロフィーを加えたいと。

ジェリコ まさしく! それを言うなら、東京ドーム大会のメインっていうのも大きい。僕はWWEの「レッスルマニア」(年間最大の大会)のメインイベンターだが、加えて東京ドームでもメインを務めた選手となると、僕が唯一ってことになるんじゃないかな? プロレスマニアに確認しとくよ(笑)。

――お願いします(笑)。話は遡(さかのぼ)りますが、新日本プロレスへの参戦は今回が初めてではありませんね?

ジェリコ そう、97年、東京ドームでの試合が最初だ。

――参戦したきっかけは?

ジェリコ 僕は若い頃に何年か日本にいて、天龍さんのWARに出ていた。すごく好きな場所だったが、やはりゴールは新日本プロレスだと考えていた。だって新日本が日本で最大の団体っていうなら目指すしかないだろ? その後、アメリカでWCWと契約したのも新日本と提携してたっていうのが理由のひとつだ。6シリーズぐらい出てるよ。

――新日本ではパワー、スピードに加え、メキシコ風の動きも織り交ぜた多彩なファイトスタイルを見せていました。

ジェリコ ああ、僕のスタイルはいろんな経験によって作り上げられてきた。カナダでトレーニングして体を作ったあとは、メキシコに渡って何年も戦った。そして日本でもやり、テネシーのスモーキー・マウンテンでは少々荒っぽいスタイルにも揉まれたね。ECWのハードコア・スタイルも経験したし、そういった経験が積み重なって、僕のスタイルができているんだ。


――デビューしたのはカナダですか?

ジェリコ そう、19歳だった。

――その頃は今のように世界的に有名になると思っていた?

ジェリコ いや、その時はデビューすることだけが夢だったよ。会場の大きさなんか関係なく、ただ観客の前で試合をすることだけを励みにトレーニングを積んでいた。だってティーンエイジャーの頃は、それがいちばん大きな夢だったから。もちろん日本に行きたいとか、WWEに入りたいとか、その夢はどんどん大きくなっていった。ひとつひとつステップを踏んだことが、僕を成功に導いてくれたって感じかな。

 そういう意味じゃ、人生と似てるよ。「早くクリスマスが来ないかな」とか思うだろ?   でも、それまでの2週間には、人生も2週間分詰まってる。僕のキャリアもそれと同じだ。「WWEに早く入れたらいいのに」って若い頃は思ってたけど、今の自分があるのは、その試合とその瞬間を一歩ずつ生きてきた結果だね。しかも毎日楽しんで、感謝しながら、ひとつずつ学んできたんだよ。

――哲学者みたいですね! プロレスとは、人生のようなもの?

ジェリコ まさしくそうだね。プロレスも人生も、全責任が自分に委ねられてる。海外遠征にも行かなきゃいけないし、家でゆっくりなんてできないが、そんなのは納得済みだ。結婚したって、子供が生まれたって同じだ。それができなきゃ、プロレスラーという職業は成り立たない。でも、それは誰しもが送れる人生じゃない。多くの奴らがやってきては消えていくなか、27年間もこの業界にいられるってのは、レアだと思うよ。

――今も生き残れている理由は何でしょう?

ジェリコ 何よりも情熱があったからだね。そして、いつだって自分ってものを省みて再構築してきた。それはファンのためだけじゃなく、自分のためにもね。だって自分の中で行き詰まると停滞してしまうから。それに去り際は心得ていたよ。WWEにずっとはいられないだろ? 居続けると人は慣れて退屈する。でも、いなくなると「いつ帰ってくるんだ!?」って待っていてくれる。それって大事だと思うんだ。


来日は51回目!というジェリコ

――それにしても新日本プロレスに帰ってくるのが20年後とは遅くないですか?

ジェリコ いや、新日本には20年ぶりだけど、日本には2002年からはWWEで12回も来てるよ。15年の間に12回だから、ほぼ毎年来ている計算になる。だからWWEに移っても、完全に日本から離れていたわけじゃない。日本に来るのはこれで51回目だし、レスラーとしてはずっと関わってきたつもりだよ。

――では話を戻して、ケニー・オメガとの1.4について聞かせてください。ケニーは危険な技が多いことでも有名ですが、対策は立てていますか?

ジェリコ いや、まだだね。

――今はまだ?

ジェリコ その日が近づけば自ずと戦略はできてくる。でも今はまだその時じゃない。一歩ずつ着実に、今この瞬間を生きないとね。で、最初の一歩は人々の期待値を上げること。ネタを投下してバズらせて、憶測を飛び交わせる。アルファVSオメガはここ10年でも稀に見るビッグマッチだ。世界中を見渡してもこんなケタ外れな試合は存在しなかったはず。世界中が新日本プロレスワールド(新日本の試合が見られる動画配信サイト)を見たがるだろうね。

 物事には順序ってものがあって、僕にとって今いちばん重要なのはこの試合への興味を掻き立てること。チケットをガンガン売って、東京ドームを満員の観客で埋め尽くすこと。史上最多動員数も記録したいし、実際そんなペースでチケットが売れていると聞いてるよ。

 そして、世界中が自分たちの対戦にエキサイトしてほしいし、僕自身だってそうだ。人生で一度あるかないかの瞬間を待っている気分だよ。

 もちろん、ケニーはすごい技をたくさん持ってるだろう。でも思い出してくれ、僕は誰と対戦してきたって言ったっけ? ジ・アンダーテイカーもジョン・シナも全員が恐ろしい技の使い手だった。そんな歴史に残るようなレスラーを倒してきたんだ。


――一部のファンは「アメリカのWWEスタイルではケニーには対応できない」と言います。反論をどうぞ。

ジェリコ ああ、そういう意味じゃ、僕はアメリカンスタイルじゃないんだな、これが。カナダからメキシコ、日本を経てECW、WCW、WWEとキャリアを積み重ねてきた自分に、対応できないスタイルがあると思うか? 僕の経験をもってすれば、どんな戦いも自在だよ。まあ、クリス・ジェリコ・スタイルとでも呼んでもらおうか。僕は僕のやり方でやらせてもらうし、日本だろうが、火星だろうがやってやるよ。

――熱い戦いを期待していいと! では、どうやって勝つつもりか少しだけ教えてくれませんか?

ジェリコ もちろん期待してくれて構わない。で、どうやって勝つかが知りたいって? 

 オカダ・カズチカvsケニー・オメガは60分フルタイムドローっていうのをやったらしいじゃないか。でも僕はそんな試合にはしないね。もしかしたらUFCばりに60秒かもしれないぜ。これは真剣勝負だし、ナックルが一発入ればわからない。3秒あればパンチは入れられるから、秒殺ってコースもあるかもしれないな。何が起こるかはわからないね。

――その可能性にやきもきしつつ、ファンの方も東京ドームまでを一歩ずつ大事に歩めと。

ジェリコ その通り! それにたとえ戦略があっても言わないよ、僕はクレバーな人間だから(笑)。まだ『STAR WARS 最後のジェダイ』を観てないんだけど、観る前に結末なんか絶対に知りたくない。1作目からずっと見てきたお気に入りの映画だからこそ、誰かにああだこうだ言われたくないだろ? それと同じだよ。

――ネタバレは禁止だと! 何が起こるのか憶測も交えつつ、楽しみにしてほしいということですね。

ジェリコ そう、これは”イッテンヨン”までのジェットコースターだ。クリス・ジェリコとケニー・オメガが何をしでかすかはわからないが、それが何だ? 世界に向けて最高の試合をするだけだ。僕たちに共通点があるとすれば、観客を熱狂させられるってことだからな。最後にひとつだけ言っておこう。シートベルトはしとけよ!

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