とんでもなく速いボールだった。というより、とんでもなく"強い"ボールだった。右打者の外角低めのボール球。投手にしてみれば、ちょっと引っ掛けた感じの球だ。いつもなら140キロ後半の球でもミットを内に戻せたのに、それがまったくできない。速くて、強く、そして重い。公認球より重いボールを使っているんじゃないか。そう感じさせるぐらい、とんでもないボールだった。

 このとんでもないボールを投げていたのは、創価大のエース・田中正義だ。リーグ戦の優勝をかけた流通経済大戦を数日後に控えたブルペンで、今年のドラフト最大の目玉である田中の球を受けた。

 今年春の右肩痛がなかったら、12球団すべてが1位で指名してもおかしくない大器だ。しかし、故障した箇所が"肩"ということが、プロ側の懸念を深刻なものにした。

 そして、この秋。全球団が注目していた田中のピッチングは、リーグ戦で投げるたびに快方に向かっていることを証明し、ドラフトを目前に控え、プロ側の評価も再び急上昇してきた。

 田中の球を受けた日、彼の表情は明るかった。リーグ戦の真っ只中、しかも数日後には大一番を控えている。それでもこの取材を受けてくれたこと自体、体調がよく、調子も上向いているなによりの証拠だろう。

 独特の豪快なテイクバック。両腕が描く"M字"のヒジの位置が素晴らしく、そこから強烈な腕の振りでボールを投げ込んでくる。構えたミットを早めに引いて、遅れないようにタイミングをとっても、やはり遅れてしまう。

 とにかくタイミングが取りづらい。田中を正面から見ている捕手がこれだけ遅れるのだから、1キロ近いバットを持っている打者が間に合うわけがない。

「今日はまあまあですけど、でもね、全然こんなもんじゃないですよ」

 右肩を痛めてほとんどピッチングができないまま創価高から創価大に進んだ田中を、4年間手塩にかけて育ててきた佐藤康弘コーチが言う。

「2年生の6月の大学選手権のとき、それと昨年の冬のボールもすごかったですよ。キャッチャーのうしろからネット越しに見ていても『うわっ!』と顔を背けるようなものすごいストレートでしたから」

 佐藤コーチは、社会人野球のプリンスホテルでエースとして投げ、1992年のバルセロナ五輪にも日本代表として戦った経歴を持つ。これまで八木智哉(中日)や小川泰弘(ヤクルト)をはじめ、何人もの投手を育ててきた。

「たしかに、今の(田中)正義もすごいですよ。肩がどうこう言っても、今まで見たことないようなすごいピッチャーです。でも、私が感じている正義の本当のすごさというのは、3年後、5年後のすごさ。"近未来の正義のすごさ"が想像できないという、そういうすごさなんですよ」

 10月15日、創価大はリーグ優勝をかけて流通経済大との一戦に臨み、田中は9回を投げ5安打、3失点、8奪三振で勝利を挙げた。最速153キロをマークし、6回以降は無安打に抑えるなど、上々のピッチングを披露。

 県営大宮球場のネット裏には大勢のスカウト陣が集結し、田中の投球を見守った。故障前に比べれば、まだまだ物足りなさはあっただろうが、なにより9回を投げ切ったことがスカウト陣にとっても大きな収穫となったに違いない。

「すごいピッチャーなら、田中正義で間違いない!」

 きっと、スカウトたちもそう感じているに違いない。一時は12球団すべてが1位指名するのでは......と言われた逸材だ。田中という投手には、それだけのスケールが備わっている。

安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko