安倍首相への批判は妥当か

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安倍晋三首相が2億ドルの中東支援を表明したから人質事件が起きたなどとして、ネット上の一部で、その責任を問う声が相次いでいる。中には、安倍首相自身が人質になれ、という極論まで出ている有様だ。

身代金を支払わなければ日本人2人を殺害するとした人質事件で、イスラム国が期限としたのは2015年1月23日午後ともされている。そんな緊迫した状況の中で、ネット上では、事件を巡って署名活動も始まった。

署名サイトには、約1万人が応じる

「イスラム国周辺国への2億ドルの人道支援を留保し、日本人人質の人命を救ってください」

署名サイト「change.org」では、首相官邸や外務省に向けてこんな呼びかけがなされ、20日から署名活動が始まった。

そこでは、支援の留保を求める理由として、安倍首相が「対イスラム国支援」と位置づけたことが事件につながったことを挙げている。日本をテロの標的にさせる可能性を作った責任は安倍首相にあり、「これ以上、テロとの『新たな戦争』に日本を巻き込むことのないよう、最善の努力をしてください」と訴えている。

ネット上では、イスラム国は14年末から身代金要求をしており、日本政府としてそのことを把握していたにもかかわらず、安倍首相が中東を訪問して支援を表明したことにも批判が出ている。前出の署名には、賛同のコメントも書き込まれ、22日夕までに1万人ほどが応じている。

生活の党の山本太郎参院議員もツイッターで、「情報がありながら対応せず、事態を悪化させた責任を」として、署名の呼びかけと同様に、人質を救出するために、2億ドルの支援を中止することを安倍首相に求めた。

さらに、安倍首相に対して、もっと厳しい責任の取り方を求める声も出た。

元防衛官僚の柳澤協二さんは、ジャーナリスト岩上安身さんによるインタビューで、「唯一、人質の命を救う手段」だとして、安倍首相自身が辞任することが必要だとした。

安倍首相の責任を求める声には、疑問も多い

その理由として、柳澤協二さんは、日本は2億ドルの中東支援もキャンセルできない状況であり、政府にはイスラム国との交渉のパイプもないことを挙げた。

インタビューした岩上安身さんも、柳澤さんの意見に賛意を示し、「至急、政府内で、真剣に検討されることを望みたい」とした。「安倍総理の首を差し出し(辞任)、その代わり、2人の首を切らないように頼む(助命)。身を捨てて、人の命を救う。尊い行為ではないか」とも言っている。

ネット上では、さらに極端な意見を述べる人もいて、安倍首相は、責任を取って人質の身代わりになれ、と求める向きさえあった。

もっとも、安倍首相の責任を求める意見については、疑問を呈する声が圧倒的に多い。

「身代金を要求してる相手に、こんなことして何の意味があるの?」「そんなことしたらどんどんやられるぞ、この先」「安倍降ろしたいだけだよなあ。便乗すんなよw」

安倍首相が人質になれという極論については、スポーツコメンテーターの為末大さんはツイッターで、「つまりこういう人達が一定数いるから向こうも人質を取って脅すメリットがあるんだよな」と嘆いていた。

イスラム世界に詳しい池内恵(さとし)東大准教授は、自らのブログで、安倍首相に対して政策変更を求める声に忠告した。

池内准教授は、「今回の安倍首相の中東訪問によって日本側には 従来からの対中東政策に変更はないし、変更がなされたとも現地で受け止められていない」として、「テロに怯えて『政策を変更した』『政策を変更したと思われる行動を行った』『政策を変更しようと主張する勢力が社会の中に多くいたと認識された』事実があれば、次のテロを誘発する」と言っている。