<円高危機>産業空洞化の回避策は待ったなし=佐藤ゆかり議員の緊急提言(2)
自由民主党参議院議員の佐藤ゆかり氏は、1ドル=77円前後で高止まりする「超円高」について、大きな危機感を抱いている。経済学者であり民間エコノミストとして長年にわたって為替と経済、企業活動についての考察を続けてきた専門家としての知見から、「円高を放置すると、国内産業の空洞化が進みます。6重苦といわれるほどの追い込まれている企業に、もはや残された時間は少ない。3ヶ月以内に政府として断固とした方策を示さないと、企業の海外移転を一気に加速させる恐れがあります」と訴えている。(3回シリーズの2)
――円高の日本経済に与える影響は?
3月11日の東日本大震災、福島原発事故とその後処理に伴う負担増など、日本企業は「6重苦」を抱えているといわれます。その中でも空洞化の直接の引き金となる3重苦は、超円高、電力料金引き上げ懸念、そして、増税の見通しです。これが決定的に空洞化を加速させる要因になると思います。大企業はすでに生産拠点の分散化で海外に出て行っていますが、ここへきて中国や韓国から、日本企業に対する産業誘致が活発になっています。その誘い文句は、「(自分の国に来れば)電力料金が安いですよ」というものです。
さらに加えて、過去最高水準の円高が来ています。この円高は、国内産業の空洞化を進める最後通牒になりかねません。政府の対応は、「断固たる金融政策」「思い切った介入の連続」「早急な電力供給対策」「空洞化を食い止める税制の見直し」を4本柱として向こう3ヶ月の間に、きっちっと打ち出せるかどうかが勝負だと思います。企業は、事業経営の採算性を重んじ、向こう3ヶ月程度をめどに、次の行動に移っていくでしょう。大企業が海外流出するなか、中小企業も倒産による空洞化が進むと懸念しています。採算性の観点でみてみると、大企業も大変なのですが、中小企業はもっと大変になっています。中小企業においては、この円高によって倒産するかもしれないという瀬戸際に追い込まれていくのです。
採算性の指標として損益分岐点比率を見ると良くわかるのですが、中小企業は製造業、非製造業を問わず、損益分岐点比率が高くなってきています。大企業より圧倒的に高く、100%に近い水準にきています。100%を超えれば、採算割れの状態であり、長くこの状態で企業は存続できません。その寸前まで追いつめている目下の円高を座視していては、中小企業がバタバタと倒産し、地域の雇用維持も危うくなると思います。
――現在の状況を転換するための対応策は?
円高を止めるためには、短期的には金融規制によって投機筋の動きを抑制すること。さらに、日銀が通貨スワップで円供給オペを依頼すること。この2つを実行することだと思います。現在の円高は、海外の悪材料で消去法的に円が買われているという極端に悪い円高で、その円高に乗じた投機筋の動きも加わっています。
まず、投機筋の抑制については外為証拠金取引(FX)の証拠金倍率の引き下げが必要だと思います。既に日本では8月1日から50倍を25倍に引き下げましたが、海外当局にも引き下げを要請することが大事です。アメリカは、主要通貨については50倍になっていますが、ヨーロッパについては、現状を金融庁は把握していないということです。金融規制も世界と連携して行うという発想がないのでは、金融面の危機対応はできません。
主要先進国の規制を調べ、倍率が高いのであれば、少なくとも対円での引き下げの要請を申し入れるべきだと思います。金融庁がこれを早期にやる必要があると同時に、日銀が主要国の中央銀行に通貨スワップによる円供給オペへの協力を呼びかけるのです。
――電力料金については?
電力問題については、もし日本中の原発の54基全てが止まってしまった場合、今現在原発でまかなってきた日本全体の発電量の3割を原発に替るエネルギーで供給しなければならなくなります。仮に、全部を火力発電でまかなった場合は、輸入の燃料費がかさみ年間3兆円のコスト増加になるという試算があります。それが電力料金に跳ね返り、企業の海外移転を促す要因のひとつになるのです。
電力会社9社には「原価変動調整積立金」と「別途積立金」という2つの積立金があります。これは、原油価格などの燃料が大幅に変動した場合、また、為替の大幅な差損益が発生した場合に、収益の大きなブレを調整するために設けられているもので、現時点では9社で3兆円くらい積みあがっています。これを取り崩す決定をすれば、先にあげた原発が再開できずに全量を火力発電でまかなった場合の1年分の超過燃料費をまかなえることになり、向こう1年間は電力料金の引き上げを防ぐことができるという計算になります。
もちろん、積立金の取り崩しは電力会社の独自判断によって株主総会で決めることですので、いろんな意見がでてくるでしょう。赤字補填を前提とするような基金の取り崩し方については、会計上、原価主義の考えからも反対される可能性もあります。だからこそ、特例措置として電力会社にそれを促す政府からの指示が必要になるのです。原発が全部止まっても1年間は、電力料金の引き上げもなく運営ができるということを示して、その猶予期間の中で効果的な代替エネルギー政策を作っていかなければなりません。
さらに、中期的には空洞化を回避するために税制改正をやります。
足元で決着しなければならないのは、法人税の実効税率をどうするかという点です。既に23年度の税制改正大綱では、実効税率を5%ポイント引き下げることを盛り込んでいます。ただ、この23年度税制改正大綱は、民主党政権の国会運営の慣例を無視したやり方の結果、いまだ国会を通過していない状況です。
しかるべきときに速やかに通す必要があります。参議院では私が理事を務める財政金融委員会で通すことになります。しかし、ここへ来て、復興財源の問題が出てきました。復旧・復興予算としては、23年度第1次補正、第2次補正、そして今後策定する見通しの第3次補正の3つの補正予算があり、これら予算の復興財源として19兆円〜21兆円規模が必要になるとされていますが、うち、13兆円については、歳出削減と増税でまかなうという政府見通しがでています。うち3兆円は歳出削減、のこりの10兆円は復興増税でまかなうというのが政府の既定路線です。
そして政府税調では、10兆円の復興増税について基本的には所得税と法人税などの基幹税の増税でまかなうとしています。さて、そこで、23年度税制改正で盛り込んだ実効税率の5%ポイントの減税と復興増税とをどう折り合わせるのか、政府の方針を早急に明確にして産業界にアナウンスする必要があります。
私は空洞化を防ぐことが最優先であり、増税によって空洞化が促進されるようなことになれば、復興どころではなくなると危惧しています。復興を前に進めるためにも、政府は断固たる決意で空洞化防止策を優先させ、法人税率の引き下げは、「何が何でも」行うという明確な姿勢が必要になります。そのような姿勢を政治が見せることによって、空洞化の瀬戸際で考えている企業経営者を食い止めることが、いま必要です。(つづく)(聞き手・編集担当:徳永浩)
