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 ドジャースの大谷翔平投手(31)が投手として新たな境地に到達しつつある。今季は12試合に先発して73回2/3を投げ、7勝2敗で防御率1・47。既にサイ・ヤング賞候補の一人として名前が挙がる中、その快投を支えているのはスプリットでもスイーパーでもなく直球だ。「Monthly Shohei」6月編は投球科学の進化と、大谷自身が積み重ねてきた変化に迫る。(取材・奥田秀樹通信員)

 22年にサイ・ヤング賞投票で4位に入った時の大谷は、スイーパーを最大の武器とする投手だった。直球の使用率は27・3%。球種別では2番目に過ぎず、被打率は・283、空振り率も20・7%と、先発投手としては平均的な数字だった。

 今季は違う。直球の使用率は46・1%まで上昇し、明確に投球の軸となった。それでいて被打率・186、被長打率・295、空振り率26%。524球を投げて被本塁打は3本しか許していない。

 その直球は空振りを奪うだけではない。平均打球角度は11度に抑え、今季のゴロ率は51・4%。メジャー9年目で初めて50%を超えた。被バレル率(本塁打や長打になりやすい打球の割合)も3・8%。三振だけでなく、打球の質そのものを支配する投手へと進化し、ブランドン・ゴームズGMは「三振を取り、ダメージを抑え、長い回を投げられる。先発投手の理想型と言っていい」と絶賛する。

 では、なぜ大谷の直球はここまで打たれないのか。その答えを探っていくと、一つのキーワードに行き着く。「スピネーター(回外型投手)」だ。ホワイトソックスの投球開発責任者のブライアン・バニスター氏は「投球開発の世界では、これまで“奇麗にライド(浮き上がるように見える軌道)する直球”がもてはやされてきた。今はトラジェクトアーク(投球再現マシン)が普及し、打者が球筋を事前に学習しやすくなった。球種の選択肢が多いスピネーター型投手の価値が高まっている」と説明する。

 スピネーターとは、リリース時に前腕を回外(右投手なら手のひらが一塁側に向く)させながら投げるタイプの投手を指す。スライダーやカーブを操るのが得意で、ボールの外側を使いやすい。対義語は「プロネーター(回内型投手)」で、前腕を回内(手のひらが三塁側に向く)させて投げ、シンカーやチェンジアップを武器とする。

 大谷は生まれつきのスピネーターではない。メジャーでプレーする中で、徐々にスピネーターへと進化してきた投手といえる。その象徴がアームアングル(リリース時の腕の角度)の変化だ。エンゼルス時代初期は直球とスプリットを軸に45度前後の角度から投げていた。ところが22年には39度、23年には36度、そして今季は34度にまで低下。徐々に肘が下がり、よりボールの外側を使いやすいフォームへと変化した。

 結果、生まれたのが直球とスイーパーによる強烈なトンネル効果(異なる球種が打者の近くまで同じ軌道に見える現象)だ。打者はリリース直後、その2つの球種を見分けにくい。反応が遅れることで、直球はさらに速く感じられる。

 実際、今季の大谷は直球とスイーパーだけで全投球の75・5%を占める。それだけではない。前回登板の17日のレイズ戦ではカーブの割合を20%まで増やし、スイーパーは11%まで減らした。スピネーター型投手は同じ腕の使い方からスイーパー、スライダー、カーブを投げ分けやすい。試合ごとに球種構成そのものを組み替えが可能に。ゴームズGMは「相手打者は翔平の投げるさまざまな球速帯、球種、コースに対応しなければならない。そこに、あれだけ速い直球を制球良く投げられるから、本当に効果的」と説明した。

 2度の右肘手術を乗り越えた31歳は、球速だけに頼る投手ではなく、投球設計そのものを武器にする近代的投手へと進化している。24日(日本時間25日)のツインズ戦で8勝目をかけて先発する。

 ≪打者の目線あればこそ「どう見える球が打ちにくいか」理解≫大谷の直球についてコナー・マクギネス投手コーチ補佐は「翔平の場合、直球が奇麗に抜けてライドすることもありますし、コーナーに投げる時には少しカットすることもある」と明かす。大谷の直球は常に同じ軌道ではない。投げるコースによって球質がわずかに変化する。ボールの外側を操るスピネーター型投手は、シームシフトウエーク(縫い目によって生じる空気抵抗の変化)と呼ばれる空力効果を利用しやすいとも考えられている。

 これらの進化の背景には大谷が世界最高レベルの打者でもあるという特殊性もある。多くの投手が「どう投げるか」を考える一方で、大谷は「どう見える球が打ちにくいのか」まで理解している。同僚の救援右腕クラインは「翔平はとても攻撃的な投手。打者は打てないと思っているし、実際に打てないと分かっている。だから直球でどんどん攻めることができる」と話した。