「習近平に頼りたくない」プーチンの本音が透ける…東南アジアの国々に急接近するロシアの暗い未来
■エネルギー協力強化で合意したロシアとASEAN
ロシアとASEAN(東南アジア諸国連合)諸国が接近している。ロシア中部の都市カザンで6月17日から19日の3日間、ロシア・ASEAN首脳会議が開催され、エネルギー分野での協力、ならびにデジタル経済や金融分野での連携の強化を謳う「カザン宣言」が採択された。その背景には石油やガスを巡る双方の利害の一致があるようだ。

需要サイドであるASEAN諸国は、これまで中東産の石油やガスに依存していたが、ゆえにイラン発のエネルギーショックを受けたことで、その悪影響を強く被る事態となっている。そのためASEAN諸国は、石油やガスの輸入の多角化の観点からロシアに接近。これには米国による対ロ制裁の一時緩和も、その追い風になったと考えられる。
供給サイドであるロシアには、大きく分けて2つの意味があると推察される。1つが経済安全保障の観点であり、要するに石油やガスの輸出の多角化だ。石油やガスの輸出は、その実として中国への依存を強めている。高まった対中依存度を引き下げ、多角化を図るうえでは、ロシアはASEAN諸国を有望な需要家だと認識しているのだろう。
もう1つが、国際政治の観点だ。要するに、ASEAN諸国との友好関係を強調することで、“大国ロシア”が健在だという姿を内外にアピールする目的があるとみられる。ウクライナとの戦争で主要国から排除されたロシアだが、国際社会においては孤立していないどころか、新興国を束ねるリーダーとしての地位は安泰だというアピールだ。
もちろん、中国に対する牽制も多分に含まれているだろう。経済的には中国にのみ込まれつつある以上、中国と一定の緊張関係を持たなければ、政治的に対等の存在にはなり得ない。こうした大国ロシアの存在をアピールすることで、国内の有権者の支持の回復にもつながる。いかにもウラジーミル・プーチン大統領が好む外交手法だと言えよう。
■ロシアにとっては「外貨の流出先」
ここで、現状のロシアとASEAN諸国の貿易動向を確認してみたい。ASEANは経済規模が大きい5カ国(アルファベット順にインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)に限定してある。さて、まずロシアの対ASEAN5向けの貿易額を確認すると、2023年から2025年の平均額は輸出入合計で160億米ドル弱だった(図表1)。

同期間のロシアの貿易総額は6815億米ドルだったから、ASEAN5向けの割合はわずか2%程度に過ぎない。一方、中国向けの輸出入はロシアの貿易の3割強を占める規模にまで拡大しているから、ロシアにとってASEANとの貿易は、拡大の余地が大きいとも言えるし、そもそも貿易の主な対象ではなかったという事実を浮き彫りにする。
また国別にはばらつきがあり、最も多いベトナムで60億米ドル程度だが、最も少ないフィリピンでは3億米ドル程度に過ぎない。またマレーシアを除く4カ国に関しては、ロシアの輸入超過であるため、ASEAN5カ国全体でも貿易赤字となる。ロシアからすると、ASEAN諸国は外貨の獲得先というより、外貨の流出先だったというわけだ。

■貿易はまだまだ限定的
ロシアから石油やガスの輸出が増えれば、ロシアにとってASEAN諸国は外貨流出先から外貨獲得先に一転する。ASEAN各国から、流動性の高い人民元資金を吸収できればロシアにとって好都合だ。ルーブル決済の拡大も目論みたいところだが、ロシアとの貿易にしか用いることができないルーブルでASEAN諸国が決済に応じるかは謎だ。
次に、ASEAN側からロシアとの貿易の位置づけを確認しよう(図表2)。ASEAN5全体の対ロ貿易依存度は、2023年から2025年の平均値で輸出は0.5%、輸入は0.4%と非常に低かった(図表2)。最も貿易依存度が高いインドネシアでも、輸出で0.6%、輸入で1.0%だ。ASEANにとっても対ロ貿易の位置づけは限定的だったのである。
限定的だからこそ拡大の余地があると考えるか、限定的なのはそもそもその余地がなかったからだと考えるのかで、評価は著しく変わる。この点に関しては、そもそも経済的にペイする関係でないから、ロシアとASEANの貿易は限定的だったと考える方が自然ではないか。それを政治的な利害だけで乗り越えられるとは考えにくいのである。

■石油はあるのに、ASEANに売れない事情
ASEAN5カ国のうち、インドネシアとマレーシア、ベトナムは産油国だ。それにマレーシアでは天然ガスも採れる。ASEANには天然ガス大国として知られるブルネイも存在する。そのASEAN諸国がなぜ中東から石油やガスを輸入し、ロシアにまで接近するのか。要するに、ASEAN諸国は、一部の国を除き、精油能力に乏しいのである。
ASEAN諸国の精油能力はシンガポールに集中している。そのシンガポールだけではASEAN諸国の石油製品需要を賄えないため、ASEAN諸国は第三国に原油を輸出し、精油された石油製品を輸入せざるを得ない構造にある。原油が採れても石油にはできないわけだ。喫緊、ASEAN諸国が要するものは、原油ではなく石油なのである。
一方、ロシアはASEAN諸国の石油需要を満たすだけの供給余力を有していない。地理的には、沿海州にあるナホトカの石油積出港(コズミノ港)からの輸出が現実的となる。しかしコズミノ港から出荷される石油製品は、LLC RN ナホトカプロダクト社が精製した重油(Mazut M100)が主力で、軽油の出荷は限定的だという問題がある。
そもそも供給できる石油製品が限られることに加えて、ロシア国内での精製能力不足の問題もある。ロシアの製油所は、そもそも欧米日からの経済・金融制裁の結果、老朽設備の維持・更新に要するヒト・モノ・カネを調達できなくなっている。加えて、ウクライナの長距離ドローンによる攻撃を受けて、製油所の稼働率が低下している。
■“蜜月関係”には程遠い
輸送手段の問題もある。ロシアからASEAN諸国に石油製品を送るためにはタンカーが必要だが、そのタンカーをどう手配するかという問題は非常に大きい。世界的にタンカー需要が逼迫しているし、またロシア産の石油製品の輸送には主要国の保険は適用されないため、相応のリスクを伴う。輸送能力の向上もまた、大きな課題である。

つまり、ASEAN諸国に石油製品をただちに供給できるだけの余力を、ロシアは技術的にも物理的にも有していない。ASEAN諸国もそれは承知で、長期的な観点からロシアに接近しているとは考えられる。とはいえ、ロシアからASEAN諸国向けの石油製品の輸出が増えるまでには、それこそ10年単位の歳月を要するのではないだろうか。
ポイントとなるのは、貿易関係の濃淡は、やはり経済的な理由に大きく左右されるということなのだろう。そもそもロシアとASEAN諸国との間で貿易関係が希薄だったのは、双方の需給が技術的にも物理的にもマッチしていなかったためだ。そのミスマッチを解消できるなら貿易は拡大するが、それが本当に可能かどうかはまた話が別である。
原油にはその性質に応じ、軽質、重質、スウィート、サワーと分類がなされる。それに応じて、出来上がる石油製品も変化する。石油やガスの調達の多角化は重要であるが、だからといって産地や油質の制約も大きい。言うは易く行うは難しの世界であるため、ロシアがASEAN諸国と蜜月関係を築けるまでの道のりは遠いと言わざるを得ない。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)
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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員 土田 陽介)
