いま密かに“ご先祖様探しブーム”が広がっている。これまで1000件以上の家系図をつくってきた行政書士の丸山学さんは「制度改正やデジタル化が進み、自分でルーツを簡単に調べられる環境は整いつつある」という。自身も先祖探しを進めているノンフィクションライターの川口穣さんが取材した――。

■名前も知らなかった先祖が次々に

手元に積み上げられた戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍は、父方25通、母方23通の合計48通。

筆者撮影
筆者が取得した先祖の戸籍の一部 - 筆者撮影

これが、現在取得できる私の直系尊属が載った戸籍のすべてだ。

一部は消失や廃棄されたものもあると見られ、完全にはつながらない。それでも、これまで一度も聞いたことがなかった高祖父母16人の名前と生没年はすべて判明し、その祖父母世代(私の6世代前)まで一部は名前がわかった。養父母まで含めると、初めて見る名は直系尊属だけで50人以上にのぼる。

生年が記載されている人物のうち最も古いものは文化6(1809)年生まれ。「明治19年式」と呼ばれる現在取得できる最古の様式の戸籍に、戸主である私の高祖父(父の母の母の父)の「祖母」として記載されていた。

筆者撮影
筆者が取得した戸籍のなかで最も生まれが古い人物は文化6(1809)年生まれ。当時は江戸時代、将軍は第11代の徳川家斉だった - 筆者撮影

戸籍取得の相談に乗ってくれた横浜市役所の職員が言う。

「現在ひとつの戸籍に記載されるのは夫婦と未婚の子までですが、太平洋戦争以前は『家』単位でした。戸主を筆頭に、その配偶者や子ども、きょうだい、存命の場合は戸主の親や祖父母、場合によっては親戚まで含めて一つの戸籍が構成されていたんです」

つまり、戦前の戸籍には現代よりもはるかに多くの親族が記録されていることが多い。戸籍をたどっていけば、江戸時代を生きた先祖にまで行きつく可能性があるのだ。

■200年以上さかのぼれる人が9割

いま、自らの家系をたどり、ルーツを知る試みが静かなブームになっている。

行政書士の丸山学さんは家系調査を専門に手掛け、年間100件近い案件に取り組んでいるという。

写真提供=丸山さん
丸山学さん。行政書士。自らのルーツを900年分たどったことをきかっけに家系調査・家系図作成業務に取り組み、これまでに1000件以上の調査を手掛ける。 - 写真提供=丸山さん

丸山さんの調査では戸籍を調べるだけでなく、土地台帳や歴史文献の調査、お墓探し、時に本家や菩提寺を訪問しての聞き取り(※)なども組み合わせて家族の歴史を紡いでいく。自身のルーツを900年分さかのぼったことが、この仕事に取り組み始めたきっかけだった。

「戸籍の調査だけで、今から160〜180年前、江戸後期を生きたご先祖くらいまではたどり着ける可能性が高いです。(筆者の例である)『戸籍だけで200年以上』は比較的幸運ですが、ほかの調査も組み合わせれば9割程度の人は200年以上さかのぼることができます。割合としては多くないですが、なかには『名家』でなくても1000年くらいさかのぼれる人もいます」

※筆者注 菩提寺にある過去帳は先祖を知る重要な手がかりになりうるが、各宗派ともに直接の閲覧は禁止している。「私の調査では墓石などから戒名や没年月日を特定したうえで、ご住職に補足できる情報がないか過去帳の確認をお願いしています」(丸山さん)

丸山さんのような専門家に頼むのではなく、自ら取り組む人も増えている。

両親の死や墓じまいをきっかけに、あるいは子どもに先祖のことを尋ねられるなどしてルーツ探しを始める人が多いという。私の場合は明確なきかっけがあったわけではないものの、両親ともに70歳を超え、「老い」を感じることが増えたからかもしれない。

写真提供=丸山さん
本家などにも連絡をとったうえで墓石調査に当たる。古い墓石は摩耗して文字が読めない場合もある。「拓本」と呼ばれる方法で文字を浮かび上がらせることも - 写真提供=丸山さん

■ブームを後押しした“新制度”

こうしたブームを後押ししたのが、戸籍制度の更新だ。

戸籍の記録は、自身の父母・祖父母・曾祖父母など直系尊属のものであれば自由に取得することができる(身分差別的な記載が残るために封印された明治5年式を除く)。

かつては戸籍が保存される本籍地の役所・役場に申請する必要があったため、まず自身の戸籍を取得し、そこに「従前戸籍」として記されている親の本籍地に親の戸籍を申請、そこから祖父母の戸籍の所在を探し、今度はその役所に申請して……と膨大な手間がかかった。

筆者撮影
かつての戸籍には戸主を筆頭に多くの人物が並ぶ。「番屋敷」という住所表示も昔のものだ - 筆者撮影

現実にはすべての役所を直接訪れることはできないので郵送でのやり取りになる。本籍地の移動を繰り返している人物がいると、1人分をすべて取得するだけで数カ月単位の時間がかかることも珍しくなった。ところが2024年から始まった戸籍の広域交付制度によって、全国どこの市区町村からでも各地に散らばる戸籍を一括して取得できるようになった。

役所業務に一定の負荷をかけてしまうことになるが、最寄りの役所に行って「自身の直系尊属の戸籍をさかのぼれるだけすべて取得したい」と依頼することも制度上は可能になったのだ。

■かかる費用は1系統1万円以内

先出の市職員は言う。

「戸籍の保存期間は現在150年ですが、かつては80年でした。期限が過ぎても保管していた自治体が多いですが、スペースの問題などで廃棄されていたり、戦災で焼失したりして見つからないものもあります。それでも保存されていれば、明治時代の戸籍まで取得することが可能です。

2024年の制度改正以来、まとめて取得したいという申請は少しずつ増えています。仕事ですし、私自身はこうやって戸籍をさかのぼる作業が好きなので苦ではないですが、どうしても少しお時間はいただくことになります」

量にもよるが、申請から1カ月以上かかることも珍しくないし、役所によってはこうした申請の人数制限を設け、月ごとに予約枠を開放しているケースもあるという。

除籍謄本や改製原戸籍は1通750円、私の場合、転籍の記録も含めて取得可能な直系尊属の記録をすべて取得したため合わせて4万円ほどかかったが、「父方の祖父の系統」など1系統に絞れば、1万円以内で可能なことが多い。

戸籍の広域交付以外にも、制度的な進展があった。

2022年には「国立国会図書館デジタルコレクション」がリニューアルし、テキスト化が完了した数百万点の資料の全文検索がネット上で可能になっている。

著名人でなくても地域資料などに登場するケースは多く、祖父母や曾祖父母の痕跡を探りやすい。私は海上保安官だった母方の祖父の異動歴や叙勲の記録を「海上保安庁公報」や「運輸省職員録」から拾い出し、資料にまとめて母や叔父に渡したところかなり喜ばれた。

戸籍を取りよせる手数料とスマホ1台あれば、だれでも先祖の情報を探し始めることができるのだ。

■樺太移住、再婚、養子縁組…知られざる痕跡

こうして集めた家族の成り立ちは、確実に過去へとつながっていく。

私の場合、両親それぞれの家族仲は良好で、祖父母にかわいがられた記憶もあるものの、その上の世代のことはこれまでほとんど話を聞いたことがなかった。父方・母方ともに祖父母の代で北海道に移住しており、古くからの菩提寺や墓もない。父方は九州、母方は関西方面の家系だと耳にしたことはあるが、それすらも定かではなかった。だが、戸籍をめくると、次々に知らなかった事実を知ることになる。

九州だと聞いていた父方の祖父の家系は長く熊本県長洲町に住んでいたようだ。関西だという母方の祖父は、生まれこそ神戸だが曾祖父母の代までは鳥取にいたらしい。父方の祖母はかつて、サハリン(樺太)に移住している。祖父母ともに再婚。

母方の曾祖父(母の父の父)は非嫡出子で、実母とは別の独身の女性と養子縁組している。母の旧姓はこの養子縁組が起点でその前は別の姓だった。「隠居により家督相続」との文言や「番屋敷」という住所表示など昔の制度的な痕跡を示す記述も多い。父子で同じ名前を名乗っているのも明治期ならではだろう。

嫡出子は「長男」「長女」などと書かれるが、非嫡出子は単に「男」「女」と記載されていたのも今回はじめて知った。

こうして家系をたどっていくと、単なる「名前の連なり」に留まらない一人ひとりの生きた痕跡がおぼろげながら浮かび上がってくる。

そしていまは、戸籍に記された祖父母やその上の世代の故郷が、現在どうなっているのか調べ始めている。今後、地域史の資料などにもあたるつもりだ。ひとつ何かを知るたびに、自分の輪郭が少しはっきりするような、言いようのない感覚がある。

画像提供=丸山さん
過去の郷土資料は先祖の痕跡を探す貴重な資料になる。左は検地水帳と呼ばれる土地台帳、右は江戸時代の藩士名簿に当たる分限帳 - 画像提供=丸山さん

■「誰でも気軽に」とは言えない理由

一方、ルーツを探ることで時に、想像していなかった事実に突然行き当たることがある。

私の知人はかつて、「両親の戸籍を見て、親の帰化歴を知った」という。ルーツが外国にあると両親からは聞いたことはなく、戸籍を見てはじめて気が付いたのだ。改めて両親に問うと、朝鮮半島にルーツがある在日コリアンだったという。

先出の丸山さんの調査でも、「祖父だと思っていた人が実は祖父ではなかった」などというケースはときどきある。

私はそこまでの驚きは今のところないが、祖父母の履歴でおそらく両親も知らない事実がいくつかあり、それを伝えるべきか少し悩んだりもした。また、家系や出自と距離を置きたい人や知りたくない人もいるだろうし、その思いも尊重される必要がある。

丸山さんは続ける。

「驚くべき事実に突然出会うことはありますし、文献調査などに踏み込めば犯罪歴などを知ることもあります。だから『誰でも気軽に』とは言えません。

それでも、知りたいと思ったときに知れる環境は整いつつあります。自分が、あるいは両親が元気なうちに、そうした家族の歴史を知っておくのも、悪くはないと思っています」

■家系調査は「究極の自分探し」

では、そもそも人はなぜ、ルーツを知りたくなるのだろうか。

丸山さんはルーツ探しを「究極の自分探し」と表現する。

「自分は何者か考えると、決して自分個人では完結しません。何十人、何百人という先祖の歴史の先に自分がいます。だから家系調査は究極の自分探しですし、知りたくなることにはっきりした理由があるわけではなくて、もっと根源的な欲求なのだと思います」

丸山学(まるやま・まなぶ)

行政書士。2001年に行政書士事務所を開業。自らのルーツを900年分たどったことをきかっけに家系調査・家系図作成業務に取り組み、これまでに約1000件以上の調査を手掛ける。新著『自分でできる家系図の作り方』(ポプラ社)ほか、著書多数。

WEB:http://www.marujimu.com/
ユーチューブ:先祖調査・家系図作成チャンネル

----------
川口 穣(かわぐち・みのり)
ノンフィクションライター
1987年、北海道生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員として中央アジア・ウズベキスタン共和国に派遣、同国滞在中の2011年にライター活動を始める。登山雑誌編集者を経て、現在は雑誌・ウェブで取材・執筆。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長。著書に『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)、構成・文を担当した書籍に竹内洋岳『下山の哲学 登るために下る』(太郎次郎社エディタス)などがある。
----------

(ノンフィクションライター 川口 穣)