2026年7月17日(金)から神保町で開催されるストーリー体験型ミステリーツアー『あの夏のさよなら』

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 ミステリはもはや、ページをめくって読むだけのものではないのかもしれない。かつて本を買う場所だった書店や映画鑑賞の拠点だった映画館に参加者が集まり、物語の中を歩く。

【写真を見る】ときに真っ暗な道も… 「探偵」となって閉店後の書店・閉館した映画館を歩き回る参加者たち。ミステリーツアーの一部を公開

 今年1月、閉店後の紀伊國屋書店新宿本店を舞台にしたストーリー体験型ミステリーツアー『月明かりの書店と呪われた原稿』が、同店のオールナイトイベント「KINOFES2026」内で開かれた。チケットは発売から4時間で完売。4月、6月の再演も即日完売を記録した。参加者満足度は98%に達したという。

 その熱気を受け継ぐ第2弾として、UNROUTE Inc.による新作『あの夏のさよなら』が、2026年7月17日から26日までの10日間、東京・神保町で開催される。舞台は、今年9月以降に取り壊しが決まっている実在の映画館だ。

 このシリーズの何がそこまで参加者を惹きつけるのか。6月12日に行われた『月明かりの書店と呪われた原稿』の再演に参加した。

 参加者は探偵となって事件解決のために歩きまわる。普段入ることのできない閉店後の紀伊國屋書店の店内、というシチュエーションにまず心をつかまれる。

 各自がスマートフォンで小説を読み、映像を見ながらストーリーを辿る。さらにイヤフォンから響く登場人物の声に耳を傾け、特製小冊子をめくるうちに「呪われた原稿」をめぐるミステリへと巻き込まれていく。それは、未知の読書体験にも思えた。

 事件をめぐる証言に翻弄され、店内から因縁の記された本を探し、ときに真っ暗なフロアを進む。物語に導かれながら歩くと、見慣れた店内風景は謎めいた舞台に変貌していく。

 近年、脱出ゲームやイマーシブ(状況没入型)シアターなど、観客自身が物語の中に入り込む参加型エンタメは珍しいものではなくなった。

 映画も小説も音楽も、自宅の部屋で手軽に楽しめる時代である。だからこそ人々は、わざわざ足を運ぶ理由を求める。活字を読むだけでも、画面越しに見るだけでもない。その場に立ち、音を聞き、肌で感じることのできる体験に価値を見出す。

 なかでもミステリは、体験型イベントとの相性がいい。そもそも日常の中の非日常を求めてページをめくり、「読む」だけでなく「推理する」ことで読者が参加するジャンルだ。現実の空間へ拡張されることで、その面白さはさらに増していく。

 これは書店や映画館のアップデートでもある。近年、書店ではトークショーやサイン会、映画館では爆音上映や応援上映など、従来の販売・鑑賞にとどまらない試みが広がってきた。だが、閉店後の書店や取り壊し前の映画館そのものを物語の舞台にしてしまう発想は、さらに一歩踏み込んだ試みだ。

 こうした体験を仕掛けるのが、安藤美冬さんだ。大手出版社勤務を経て独立し、ミステリ好きが高じてUNROUTE Inc.を設立、体験型エンターテインメントの世界に踏み出した。

「もともと会社を立ち上げたときから、文化施設や歴史的な建造物、作家ゆかりの街、美術館、博物館などと一緒にやりたいという思いがありました。新宿本店は自分も子供の頃から親しみのある書店だったので、夜の閉館後の書店という非日常感をどう出すか、クリエイター一同で頭をひねりました」

  紀伊國屋書店側も全面協力し、オペレーションまで一緒に作り上げたという。

「出版不況と言われる中で、新しい書店の遊び方、使い方のようなものをひとつ示せたのではないかと思っています」

 その発想は、1960年代に建てられた映画館が舞台の第2弾『あの夏のさよなら』でさらに広がる。この映画館は、独自のセレクションで数々の名画を日本に紹介してきた伝説の映画館だが、近年惜しまれながら閉館した。

「劇場部分だけでなく、集会室や会議室などスタッフしか入ることのできなかった空間も使って物語体験をするツアーになっています」

 しかも、この映画館は9月以降に取り壊しが予定されているので二度と再演は不可能。俳優が登場する場面や、香りの演出も仕組まれているという。

「10日間だけの貴重な体験になると思います」

 まもなく姿を消す映画館の中で、かつてそこに流れていた時間と、新たな物語が重なり合う。そこで参加者はどんな謎に巻き込まれるのだろうか。

 安藤さんには、本の街・神保町を舞台にした次の体験型イベントの構想もあるという。三省堂神保町本店のリニューアルオープンや、インバウンド観光客からの人気で、ますます活気ある街に変貌した神保町に、新たな魅力が加わるかもしれない。