前屈で床に手がつかない人は要注意…立命館大教授が「4週間で血管年齢が5歳若返る」と実証した"ある習慣"
■20歳くらいから徐々に血管は硬くなる
雨が降ったり、蒸し暑かったりと不安定な天候が続き、室内でゴロゴロしてばかりいないだろうか。運動をしなければ見た目の体形は痩せていても、筋肉量が落ちて脂肪ばかりの“痩せの肥満”に……。筋肉量が減ると消費エネルギーの6〜7割を占める基礎代謝が落ちて太りやすくなり、また糖を蓄えるスペースが減るため、余った糖質で体脂肪が作られやすくなってしまう。血糖値が下がりにくい体になるため、血管に負担がかかり、体の中から老けやすくなってしまうのだ。
それでも運動ができない! というあなたに、「血管が若返る習慣」を紹介しよう。
「人は血管とともに老いる」といわれるが、血管の老化は意外にも早いタイミングから始まっている。
立命館大学スポーツ健康科学部の家光素行教授によると、「だいたい20歳くらいから徐々に血管が硬くなっていく」という。
「動脈は、外膜、中膜、内膜の3層で構成されていますが、中膜にある弾性線維がもろくなり、内膜の内皮細胞が衰えることで血管(主に動脈)が硬くなってしまうのです。この現象を動脈硬化といいます。例えると、若い頃の血管はゴムホースのように柔らかいのですが、50代以降はコンクリートでできた水道管のように硬く、もろくなりやすいのです。動脈硬化が進行すると血管の中で血栓(血の塊)が詰まったり、血管が破れたりして、時に命に関わる脳血管・心疾患を引き起こしてしまうこともあります」(家光教授、以下同)

■昔と比べて、体が硬くなっていないか
とはいえ動脈硬化が進んでも、痛みや不快感などの自覚症状が出にくいため、「血管の老化」をいまいち実感できない人が大半だろう。一番の指標は血圧だ。新入社員の頃に行った健康診断の結果と比べて、今のほうが血圧が高ければ動脈硬化が進んでいるサインかもしれない。
「加えて日々の活動量が少ない、塩気の多いものや飲酒を好む、野菜はほとんど食べないといった生活習慣なら、加齢に伴ってますます血管は硬くなっているでしょう」
実は、血管が硬くなっていることを知る手がかりが、もうひとつある。
あなたは昔と比べて、体が硬くなっていないだろうか。
家光教授らが行った研究で2009年、「体が硬い人は動脈硬化度が高い」という事実が明らかになっているのだ(※1 Kenta. Y et al. Poor trunk flexibility is associated with arterial stiffening. Am J Physiol Heart Circ Physiol.)。
この研究には若年、中年、高齢者の計526人が参加し、対象者は座位体前屈テストによって「柔軟性が低いグループ」と「柔軟性が高いグループ」に分けられた。そしてそれぞれ動脈硬化度を測定すると、中年と高齢者では「柔軟性の低いグループ」のほうが「動脈硬化度が高い」という結果であった。
家光教授が研究を行った背景を説明する。
「加齢に伴って臓器は衰え、体力が低下し、動脈硬化も進行していきます。体力には持久力、筋力以外にも柔軟性があり、柔軟性の低下は筋・腱・靭帯などが硬くなることが原因です。この硬さには、正常組織が線維成分に置き換わって硬くなる『線維化』や『糖化』(血中の余ったブドウ糖が体の重要な構成因子であるタンパク質にくっつく現象)が関係していると考えられますが、それは血管も同様なのです。そのため、並列的にこれらの症状が生じているのなら、柔軟性の低下と動脈硬化にも関連性があるのではないかと思い、研究を行いました」
結果は、仮説通りのドンピシャだった。
特に次のような人は黄信号という。
・前屈時、昔は床に手がついたのに全くつかなくなってしまった
・体が硬くて靴ひもを結ぶのがしんどい
「若い方でも現在体が硬いようであれば、将来血管が硬くなりやすい可能性があるということも論文では報告されています」と家光教授が補足する。
■一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質が分泌される
さて、体が硬いと血管が硬い。それでは逆転の見方もできるのではないか? つまり、「ストレッチで体を柔らかくしていけば、血管も柔らかくなるのではないか?」と家光教授は考えた。
そして50〜70代の人を対象に1日2回、5種目のストレッチを試したという。すると、「4週間で動脈硬化度が軽減する」というデータが得られたのだ(※2 Yuya. H et al. Four weeks of lower-limb static stretching reduces regional arterial stiffness in middle-aged and older women. Phys Act Nutr.)。この結果を「血管年齢」に換算してみると、
研究結果を目にして、家光教授も「ストレッチでも、血管が柔らかくなるんだと衝撃でした」と話す。
「同時に、このエビデンスによって、動脈硬化予防としてストレッチを自信をもって勧められると思いました。研究者として健康法を人に勧めるには、根拠がなければなりませんから。またストレッチであれば多忙な人でも隙間時間に自宅でできますし、天気に関係なく屋内で行うことが可能です」
なぜストレッチによって血管が柔らかくなるのだろうか。
「簡単にいうと、ストレッチをすることで血液の循環(血流)が良くなり、一酸化窒素(NO)などの血管拡張物質が分泌されます。NOには血管内の筋肉をゆるませ、しなやかにする作用があるのです」
しかし、ストレッチを1回行っただけでは、その効果は1時間ももたない。実際に研究でも、ストレッチを行った直後から徐々に動脈血管の硬化度が下がっていくものの、ストレッチ後30分を境に、また元の硬化度に戻る傾向にある。
「一回行っただけでは一時的な柔らかさしか獲得できませんが、毎日続けていくと血管そのものが柔らかさを“覚えてくれる”のです。具体的にはNOが分泌されやすくなり、それに対する血管を拡張させる反応も良くなっていきます」
筋トレを例にするとわかりやすいかもしれない。一回だけでは筋肉量が増えないが、筋トレを数カ月間続ければ、筋肉がついてきたなと感じられる。だから「継続」が大切なのだ。
■将来のため“健康を貯金”すること
家光教授の研究では「朝と夕の1日2回、5種目のストレッチ」を「週4日行う」と「4週間」で血管年齢が若返った。だが、そんなにたくさんできないよ……という人はまずは1種目からでもいいそう。
「種目と回数が減れば効果が表れるまで時間はかかると思いますが、努力した分、血管は何歳になっても若返る可能性があります。少なくとも現状よりは良くなるはず。年を取っているから、今さら自分の体はどうしようもないと感じている人や、疾患リスクが高いという人も、諦めずにできることから取り組みましょう」
肩こりや疲れやすい、眠れない、太りやすいといった不調も、血管が柔らかくなって血液の循環が良くなれば改善が期待できる。冒頭に述べた、見た目は痩せていても体脂肪率が高い“痩せの肥満”の人も、放っておくと体の中から老けやすくなるが、ストレッチで血液循環を良くして代謝が活性化すれば内側から健康的になるだろう。
家光教授がこう締めくくる。
「動脈硬化が進んでも普段は何も感じないでしょう。けれども血管は確実に、階段を上るように年とともに硬くなっていきます。その上がり方を緩やかにするために、ストレッチを行ってほしいと思います。それは自分の将来のため“健康を貯金”することではないでしょうか」
家光教授が伝授 今日からできる動脈硬化を予防するストレッチ

【前もも伸ばし】
1)イスに片側の足(左足)とお尻だけ乗せて座る。片手で背もたれを握る
2)乗せていないほうの足(右足)をできるだけ後ろへ引く。上半身をまっすぐ起こす
3)15〜30秒伸ばしたら、反対の足も同様に行う

【ひざ裏伸ばし】
1)イスに浅く座って片側のかかとを床につける
2)片足をまっすぐ前に伸ばす。
3)両手を重ねて伸ばしたほうの足のひざに添え、体をやや前へ傾けて体重をかけ、ひざ裏を伸ばす。15〜30秒伸ばしたら、反対の足も同様に行う
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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ノンフィクション作家、ジャーナリスト
1978年生まれ。本名・梨本恵里子「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など。新著に『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)がある。
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(ノンフィクション作家、ジャーナリスト 笹井 恵里子)
