“ポケット”だけではない森保ジャパンの得点パターン 菅原×小川が生む「大外レーンからの別解」は本大会でも活きるか

ゴール前のポジショニングと合わせる巧さを持つ小川にとって、好クロスはなによりのごちそうだ(C)Getty Images
アレは……貴公子の弾道だった。インステップキックのように大きく踏み込みながら下半身を回旋させ、インフロント〜インサイド辺りをボールに強くぶつけて折り返す。そのクロスはまるでシュートのような速度を伴い、小川航基の頭へ向かって鋭く落下していく。
【動画】小川航基が完璧なヘッドで決勝点!菅原由勢のピンポイントクロスに合わせたアイスランド戦のゴールを見る
菅原由勢のロングクロスを目の当たりにして、かつて貴公子と呼ばれた元イングランド代表デイヴィッド・ベッカムを思い出したのは、僕だけではないだろう。フォームや弾道もそうだが……、何よりあの間(ま)だ。踏み込みの大きさと、下半身の回旋が加わるためか、ベッカムのクロスはわずかな間、コンマ数秒遅れて「ドンッ!」と出てくる特徴がある。菅原のクロスも、それと同じだ。得点シーンのクロスだけでなく、その前に何本か蹴ったクロスも、コンマ数秒遅れて射出される「ベッカムの間」がある。元々、菅原のクロスは一級品であり、今季のブレーメンでも高精度クロスで絶品のアシストを見せてきたが、あのキックは……年々、ベッカム味が増している。
同時に、謎はすべて解けた。なぜ、小川航基がメンバーに選ばれたのか。
5月15日に発表された26名リストを見た瞬間、FWがやけに多いと感じた。特に1トップ候補だ。上田綺世は当確としつつも、カタールW杯のように前田大然を入れることも可能であり、小川と後藤啓介については2択だろうと事前に踏んだ。さらに直近の調子からいえば、小川の落選もあり得るだろうと。……ところが、実際には小川、後藤共にメンバー入りしている。
いや、1トップ多くない?
小川は率直に言って、器用なFWではない。ポストプレーやプレッシングは代表レベルでは平均以下。背後を取ったり、マークを外したりする駆け引きに長けているわけでもなく、やることは比較的ワンパターン。さらに運動量が多いわけでもなく、トランジションも時々抜ける。高さとスピードを兼ね備えているため、「万能ストライカー」と呼ばれることが多かったが、現代FWとしては決して万能とは言えないタイプだ。
それでもフィニッシュ場面には、常にスケールと期待感があった。アイスランド戦のようなクロスに対するヘディングもそう。足下のミドルシュートもそう。威力抜群だ。小川は点を取ることに特化した、オールドタイプのストライカーと言える。

多彩なキックを使い分ける菅原のクロスが本大会でも活きるか(C)Getty Images
最近のサッカーは、ポケット、ポケットと、ペナルティーエリア内の角落としが鉄板だ。日本代表も久保建英や中村敬斗、堂安律などの器用なニュータイプが、その豊かな感性とテクニックをもってポケットへ切り込んでいく。彼らのチャンスメークに合わせるなら、FWは上田や後藤のほうが、相性は良さそうだ。
しかし、小川もまた、メンバーに残った。彼にもパートナーがいたわけだ。ポケットではなく、大外のレーンに「ベッカムの間」を持つ男が。
これは効く。日本代表はW杯本番でも、得意とするペナルティーエリアへの攻略を前半から繰り出していくだろう。それが詰まって攻めあぐねたとき、後半に菅原と小川がセットで登場する。(アイスランド戦もハーフタイムに瀬古歩夢と共に3人交代で同時にピッチに立った)。
対戦相手が日本のリズムに慣れてくる中で、突如、切り込まずに大外レーンからのピンポイントクロスで空中戦へ。近接ポケット攻撃からの、遠距離大砲だ。それまでとは異なるフィニッシュパターンへの転換。これは効く。そうして小川と菅原に相手の警戒が向けば、再び久保や中村、あるいは後藤や塩貝健人などのポケット部隊にもスペースが与えられる。
正直にいえば、あまり小川には期待していなかった、と白状する。だが、アイスランド戦で貴公子・菅原由勢との水魚の交わりを示され、考え方は180度変わった。というか、あのベッカムクロスを見せられると、40代男子は弱い。
菅原と小川。まるでベッカムとファン・ニステルローイ? 本番でも期待の2人だ。
[文:清水英斗]
