【牧野 知弘】東京の再開発は巨大な建物にチェーン店を詰め込むだけ…駅前の”イオンモール化”を進めたがる地権者、デベロッパー、自治体「それぞれの思惑」
“イオンモール化”が進む再開発
不動産価格の高騰が続く中、東京都区部は再開発ラッシュの様相を強めている。
今年に入ってからもJR東日本が中心となって開発した高輪ゲートウェイシティ、大井町に開業した大井町トラックスなどの複合ビルが話題となった。また東急東横線「自由が丘」駅前での大型商業施設の開業が待たれている。
ただ、こうした都心の再開発でお目見えする建物の多くが同じようなデザインの高層建物ばかりであり、没個性だと批判する声も高まっている。また鳴り物入りで開業する再開発ビルの中を覗くと、大抵が低層部に商業施設、低中層部に公共施設やホール、中層部から高層部にかけてオフィス、高層部にはホテルといった同じような構成となっている。
さらに入居する商業テナントを見ると、その多くが大手チェーン系の飲食、物販店舗であることがわかる。
またJRや主要私鉄のターミナル駅の駅前での開発に目を向けると、やはり同じようなデザインのタワーマンションが目立つ。
特に高層マンションはベランダを設置しているケースは少なく、オフィスと見紛うようなデザインの建物が聳え立ち、オフィスと同様に低層部には商業施設や公共施設があり、大手チェーンの飲食店や美容、塾、雑貨店など主に地元民を相手にした店舗で占められている。
つまり東京に続々立ち上がる再開発ビルのほとんどがほぼ同じ仕様、用途、テナントで埋め尽くされているのが現状だ。この姿はあたかも地域の個性豊かな商店街が消え、日本全国の商業施設が画一的な仕様、テナント構成のイオンモールに席巻された状況に似ているともいえよう。
地権者がすがる再開発スキーム
戦後80年以上が経ち、都内の古くからある商店や住宅、中小オフィスビルなどは老朽化が激しくなっている。古くなる建物と同様に建物オーナーも高齢化している。人々のライフスタイルが刻々変化を続ける中、かつて繁盛したお店も客が減り、オーナーの子息も親の跡を継ぐ者は少ない。さりとて年金生活に入っていて建替えるだけの資金的な余力もない。
平成バブルと言われた時代は、不動産屋が地上げと言って一軒一軒土地建物を買い上げに来たが、コンプライアンスやガバナンスが厳しくなった現代ではそうした開発手法をとる不動産屋も少ない。
なかなか単独では再開発ができない地権者たちの思いを受け止める方法がある。市街地再開発事業法である。
これは法定再開発といい、自治体などが認可する開発手法だ。2010年代になってからは地権者たちが組合を結成して組合事業として行われるケースが多い。
具体的にどんな手法かをみてみよう。
たとえば鉄道駅前にある古くからの商店街などで、商店や住宅を所有する権利者が集まり、自らが持つ土地建物の権利を持ち寄って共同で再開発する。地権者全員が開発に必要な資金を持っているわけではないが、組合を結成して、法律に則った事業計画を策定し、自治体の許可を得ることができれば通常定められている容積率の割り増しが認められるのだ。
再開発後にできる建物について地権者は自分たちが所有していた土地と建物の評価分を床(権利床)として無償で取得することができる。資金も拠出せずになぜ床に変換できるのかといえば、容積割り増し等によってあらたにできる床(保留床)をデベロッパーやゼネコンが買い取ってくれるためである。
デベや自治体の思惑
開発するデベロッパーやゼネコンからみれば、駅前の細分化された土地を一軒ずつ買収せずとも地権者が組合を作るのを手伝い、事業計画の策定に関与し、自治体の認可が得られればほぼ自動的に保留床を取得できる。これをマンションとして分譲するも、自社所有床としてオフィスで運用するも自由で、誠に美味しいビジネスなのだ。
地権者はデベロッパーの財力、開発力に頼ることで自分たちの所有していた古くなった建物と土地の権利分だけ真新しいビルの床に転換できる。
自治体は容積率割り増しや開発補助金を出すなどの便宜を図る見返りに、建物内に不足していた公共施設を無償で整備させる、駅前ロータリーを拡張させる、駐車場、駐輪場を新たに整備させるなどの条件を付すことで、木造密集地域の解消や交通利便性の改善、地域内の防犯や防災を強化することが可能となる。
市街地再開発手法は地権者、デベロッパー、自治体のすべてに恩恵があるまさに「三方よし」の事業手法といえる。
この市街地再開発事業、東京都内では2025年10月末現在、累計311地区で行われており、そのうち事業仕掛中(事業認可を受け、工事完了前の事業)が64件、事業予定(都市計画決定を受け、事業認可前の事業)が19件、計83件が進行中である。
あまり知られていないが、森ビルや三井不動産などが開発するヒルズやミッドタウンなどの大型案件のほとんどが実はこの市街地再開発事業の手法を使った開発だ。
では活発な再開発事業でできあがるオフィスやマンションがなぜ“イオンモール化”してしまうのか。
つづく記事〈東京の街の“イオンモール化”は豊洲、月島、勝どきの湾岸再開発が発端だった…香川県高松市の街づくりにも及ばない「金太郎飴タウンの量産」〉で、詳しく解説する。
【つづきを読む】東京の街の”イオンモール化”は豊洲、月島、勝どきの湾岸再開発が発端だった…香川県高松市の街づくりにも及ばない「金太郎飴タウンの量産」
