記事のポイント
シンカイは、店舗のスタイリング接客を再現する独立型AIストア「Simkhai.ai」を開発している。
買い物客はキーワード検索ではなく、気分やシーンを会話形式で伝えながら商品を探せる。
ブランド独自の接客体験と顧客データを保持する「ブランド主導AIコマース」が差別化の軸となっている。


ファッションブランドのシンカイ(Simkhai)は、店舗でのスタイリング体験をオンラインにより多く持ち込むことを目的とした、独立したAI搭載のECサイトの立ち上げを準備している。

「.ai」専用サイトで実現するディスカバリー体験



同サイト「Simkhai.ai」は現在も開発中で、Simkhai.comを置き換えるのではなく、それと併存する形で運営される。買い物客はデジタルボタンを通じて、メインのECサイトからAIストアフロントへ、そしてまた戻ることができる。

.aiサイトに入ると、シンカイのチーフD2Cオフィサーであるマーティン・ヴェスター氏が「ディスカバリーモード」と呼ぶ体験に着地する。そこでは、顧客が「TikTokやインスタグラムのフィードをスクロールするかのように」シンカイの製品をスクロールできる。

また、チャットボックスを通じて、買い物客はスタイリングのアドバイスを求めたり、特定の製品を探す手助けを依頼したりできる。この.aiサイトはSimkhai.com上でプロモーションされる予定だ。

シンカイの創業者兼クリエイティブディレクターであるジョナサン・シンカイ氏は、AIストアフロントは同ブランドのきめ細やかなアトリエ主導のアプローチをeコマースに反映させるもうひとつの方法だと語った。

「店舗での1対1のスタイリストとの会話の温かみを、顧客向けのデジタル体験にどう持ち込めるかを探りたかった」と、シンカイ氏は述べている。

その目的は、オンラインショッピングではおなじみの問題を解決することにある。顧客は、検索バーに何と入力すべきかを知るより前に、自分がどんなシチュエーション、気分、あるいはスタイリング上のニーズに向けて買い物をしているのかをすでに把握していることが多い。

たとえば、シンカイのメインサイトで「ホワイトドレス」と検索する代わりに、買い物客はもっと具体的なリクエストを投げかけられる。「3月にフロリダで結婚式を挙げ、ブライダルシャワーを主催する予定です。シックで快適な花嫁に見える天候に合ったドレスを見せてください」といった具合だ。

こうしたプロンプトは、キーワード検索を超えた体験を、よりキュレーションに近いものへと変えていく。

ここにこそ、デザイナーであるシンカイ氏は商機を見出している。「いまわれわれにとって、もっともエキサイティングな側面はスタイリングだ」とシンカイ氏は語る。

「誰かが初めて私たちのWebサイトを訪れたとき、製品の多さに圧倒されてしまうこともありうる。だからこそ、その人のために体験をキュレーションし、コレクションを絞り込む手助けができるという発想はとてもエキサイティングだ」。

フィットツール搭載、将来はランウェイ作品も



ヴェスター氏によると、ストアフロントには、買い物客が自分の姿に商品を試着し、それが動いている様子を見られるフィットツールも搭載される予定だという。

「いま現在、スタイリスト(エージェント)は現行で在庫のあるアイテムを対象に動いている。だからエージェントによるレコメンドはどれも、その日のうちに実際に購入できるものだ」とヴェスター氏は語る。

「このパートナーシップが成熟していくにつれて、われわれはランウェイやファッションショーのアイテムを体験に取り込む可能性にも関心を持っている。顧客に今後リリースされるものをいち早く見せ、店頭に並ぶ前からコレクションに触れてもらえるようにしたい」。

基盤は「Swap Storefront」、競合との差別化点



このAIストアフロントは、スワップ(Swap)の新しいエージェンティックコマース製品「スワップ・ストアフロント(Swap Storefront)」によって駆動されている。

専用の.aiサイト上で稼働し、ひとつの会話のなかで買い物客をディスカバリーからバーチャル試着、チェックアウトまで導くよう設計されている。シンカイは、レトロフェット(Retrofête)、オッド・ミューズ(Odd Muse)、スタジオ・ニコルソン(Studio Nicholson)など約20社とともに、スワップの立ち上げパートナーのひとつとなっている。

シンカイは、AIを活用したファッションショッピングという競争の激しい分野に参入することになる。

ザランド(Zalando)は2023年にChatGPTを活用したファッションアシスタントを投入し、マンゴ(Mango)は2025年に「Mango Stylist」を立ち上げ、ラルフ ローレン(Ralph Lauren)は2025年9月にアプリへ「Ask Ralph」を追加、エイソス(Asos)は2026年2月にハイブリッド型のバーチャル試着ツールを展開した。

シンカイ版が際立つのは、アプリやマーケットプレイス、あるいはメインのECサイト内の一機能としてではなく、ブランド自身が所有する独立した.aiストアフロントとして構築されている点にある。

ブランド主導の体験設計と顧客データの所有権



それでも、シンカイは.aiサイト体験において明確なブランディングを最優先している。エージェントは、汎用のショッピングアシスタントではなく、ブランド独自のスタイリングアプローチをデジタル上に延長したもののように感じられるように設計されている。

「シンカイは、顧客との個人的なつながりに重きを置くブランドだ。いまもLA、NY、ダラス、ハンプトンズの店舗には定期的に足を運び、売り場に出て自ら顧客のフィッティングやスタイリングを行っている。彼らからのフィードバックから多くを学び、距離の近さを感じ、彼らが何を着たいのかを理解している。エージェントには、その温かみや個人的なつながり、理解を反映させる必要があり、店舗体験のデジタル上の延長のように感じられなければならない」とシンカイ氏は語る。

こうしたブランドのコントロールは、データにも及んでいる。ヴェスター氏によれば、シンカイは.aiストアフロントを通じて生み出される顧客との関係と、その根底にある顧客データの所有権を保持しているという。

これにはバーチャル試着の利用状況、保存済みアイテム、ブラウジング行動、購入履歴、チェックアウトデータなどが含まれる。ヴェスター氏はさらに、スワップはインフラを提供し、プラットフォームの運営と改善に必要な運用データのみを保持しているとも述べた。

シンカイ氏は、検索、ソーシャルメディア、店舗、デジタル広告へとショッピング行動が分散していくなかで、より大きな優先事項は顧客のそばに居続けることだと述べた。

「もっとも重要なのは、顧客がどのような買い方を好むにせよ、われわれがその場所で顧客と出会えることだ。とはいえ、もちろん既存顧客に対しては、彼らのデータを守り、彼らとの関係を独自のものとして保ち、信頼してもらえるようにすることがわれわれにとって重要だ」と語る。。

ヴェスター氏は、このストアフロントはブランドのメインECサイトを置き換えるためのものではなく、「顧客の意図とパーフェクトなシンカイのルックとの距離を縮める」ことをめざしていると述べた。

Simkhai.aiはまだ開発中であるため、同ブランドはまだ共有できる結果は持ち合わせていない。公開後、シンカイは、買い物客が体験により多くの時間を費やすか、再訪するか、より高いコンバージョン率に至るか、そして返品が減るかどうかを注視していく。

より大きな試金石は、独立したAIストアフロントが目新しさを超えた存在。すなわち、イベントや気分、抱えている課題はわかっているが、まだ欲しい製品まではわかっていないという買い物客が訪れる場所になれるかどうかである。

[原文:Simkhai is building an AI storefront for shoppers who don't know what to search]

Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)