【小林 久】スーパー「ロピア」社長のカトパン夫、突然退任していた…「売上2兆円」を目指す急成長スーパーに潜む影
ロピアの店内に一歩足を踏み入れると、まるでスポットライトを浴びたかのような熱気に圧倒される。売り場の「さあ買ってください!」という剥き出しのアピールに、買い物客たちは商品にくぎ付けになる。店内が丸ごと、活気ある市場のようだ。
ロピアは今、スーパー業界に「異変」をもたらす存在となっている。売上高は2014年の約570億円から2025年2月期には5213億円と約10倍近くに急成長。1店舗あたりの年間売上高は業界平均の2倍強と、収益力も際立っている。
だが、そうした快進撃の裏で、ロピアは深刻な問題も抱えている。「100%現場主導」という強みは同時に「諸刃の剣」でもある。各部門のチーフが仕入れから値付け、スタッフの採用までを一手に担う熱量があの独特な売り場を生み出しているわけだが、経営トップの目が行き届かない現場の「聖域」で数値至上主義が加熱すれば、ガバナンスや企業倫理は二の次になる。2024年以降、その懸念は現実のものとなった。
前編記事『10年で売上10倍近く、出店速度は業界断トツ1位…全国のスーパーが恐れる“異端児”ロピアの「強さの正体」』より続く。
相次いだ不祥事
2025年6月、公正取引委員会は新規出店・改装時に納入業者へ従業員の無償派遣を要請していた疑いでロピアに立ち入り調査を実施。その後、確約計画が認定され、納入業者約400社に対して計約4億3300万円を返金。第三者による5年間の履行監視も盛り込まれた。
さらに食品表示法違反も発覚している。2021〜2023年にかけて73店舗で菓子・調理食品18品目、計約65万パックを原産地表示なしで販売していたとして、農水省から是正指示を受けた(2024年6月)
しかし問題の本質は、その対応よりも深いところにある。現場の熱量を削ぐことなく、いかに法令を遵守する組織へと脱皮できるか。ロピアの安さを支える「原資」が、取引先の犠牲の上に成り立つものであってはならない。
元「西友」社長を招聘、上場を見据えた組織改革
こうした歪みを正し、盤石な組織へと脱皮するため、ロピアは今年3月、代表取締役社長を交代した。前任の郄木勇輔氏は2013年から創業家2代目として同社を率いてきた人物で、フリーアナウンサーの加藤綾子の夫としても知られる。ただし郄木氏は親会社OICグループの社長には引き続き留まっており、グループ全体の経営は継続して担う。
新社長に迎えたのは、元「西友」社長の大久保恒夫氏だ。イトーヨーカ堂を経て、コンサルタントとしてファーストリテイリングや良品計画などの経営改革を支援。成城石井・西友の社長として数々の企業再生を成功させてきた実績を持つ人物だ。
大久保氏の招聘が意味するのは、単なる内部統制の強化にとどまらない。筆者は、今後ロピアが国内外で店舗網を拡充し、日本を代表する存在となるには、上場とM&Aによる大規模な再編が不可欠と見る。その道に長けた人物を新社長に据えたという事実にこそ、彼らの本気が透けて見える。
出店場所をめぐる水面下の攻防
この拡大戦略には、M&Aでの獲得競争と並行して、もう一つの決定的なポイントがある。それは「出店場所の確保」だ。ロピアがその威力を発揮するには、相応の広さを持つ大型の売り場が欠かせない。
現状、コストコ以外に地域住民から「来てほしい!」と請われるスーパーは、そう多くない。だが、その圧倒的な集客力を知る自治体や大型施設のオーナーにとって、「過去の商圏」と見限られつつあった駅前立地でさえ一等地に変えてしまうロピアは、喉から手が出るほど欲しい最強のテナントだ。
ヨドバシカメラとのタッグによる駅前攻略、大手チェーンの撤退跡地への「居抜きスピード出店」。ライバルが去り、火が消えたようになった場所にロピアは店を構え、瞬く間に地域の人の流れを呼び戻す。
一方、このことは競合店にとって死活問題に他ならない。ライバルたちはロピアが出店しそうな候補地、特に大型スーパーの閉鎖店舗などを先回りして抑え込み、水面下での熾烈な「陣取り合戦」を繰り広げている。もちろん、長年地域に根を張ってきた有力スーパーたちも、ただ手をこまねいているわけではない。地域住民の生活を守り抜いてきたプライドを懸けた反撃がなければ、それこそ「ロピアが来たら試合終了!」となりかねないのだから。
“肉食系”の拡大策で「売上2兆円」を目指す
OICグループが掲げるのは、2031年度にグループ売上高2兆円という高い目標だ。これは自力出店だけでは到底届かない数字である。
現代の小売業界においてM&Aは成長戦略の王道だ。イオンが各地のスーパーを傘下に収め、圧倒的なシェアを築く「統治型」の成功例もあるが、ロピアのそれはイオンの手法とは明らかに種類が違う。
自社の強烈な個性を生み出すために、外食や食品製造といった機能やブランドから栄養分を吸収し、ロピアという一つの巨大な個性に変えていく。相手を自分の一部とし「血肉」に変えていく、精肉店ルーツならではのいわば"肉食系"の拡大策だ。いずれドン・キホーテやトライアルのように、既存の大型チェーンを丸ごと飲み込む一手を打つ日は、そう遠くないはずだ。
1971年、神奈川県藤沢市で「肉の宝屋」として産声を上げた街の精肉店は、今や日本を代表するロープライス・ユートピア「ロピア」へと変貌を遂げた。筆者の家業も元は地方の鮮魚店だった。ロピアのルーツにどこか懐かしさを覚えるのは、そのためかもしれない。
ロピアはガバナンスの歪みを正し、上場という次のステージを見据えて売上2兆円を目指す。その野望が現実のものとなる時、日本のスーパー業界の地図は今とは全く異なる姿になっているだろう。
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