「ロマンス詐欺」被害の3割は“マッチングアプリがきっかけ”…やっと出会えた理想のパートナーが「詐欺師」という悲劇の実態
第1回【私って誰からも相手にされないんだ…「マッチングアプリ」で“自己肯定感”をサゲる人が急増中 倫理観の高いユーザーほど真剣に悩んでしまう「マチアプ」のメカニズムとは】からの続き──。世界で3・8億人が利用しているとされるマッチングアプリ。マチアプと略され、日本でも1000万人から2000万人のユーザーがいると推定される一般的なアプリである。一方で、マチアプを使うほど自己肯定感が失われ、その心の隙をつくようにロマンス詐欺の狩り場ともなっているという。【井上トシユキ/ITジャーナリスト】(全3回の第2回)
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マチアプでの詐欺で再び脚光…【写真を見る】札束の写真も生々しい「りりちゃん」作成の“頂きマニュアル”の現物…数々の被害男性をトリコにしたプライベート動画も
マチアプで公開されているプロフィールは、昔のお見合いで使われた釣書、身上書とは似て非なるものであり、「いいね!」をもらってマッチするために捻り出された「設定書」でしかない。

しかし、他人の気を惹くキャラ設定など、一般人がそうそう思いつくものでもない。いつまで経っても「いいな」と思える相手となかなかマッチしない。アプローチしても返信が来ない。やっとのことで会えたとしても、フェイドアウトされてその後が続かない。
ないない尽くしの状態にさらされ続けて、「自分は評価の低い人間だ」「魅力がなく必要とされていないのだ」などと思い詰めたあげく、いつしか自己肯定感が下がっていく。
一方で、複数人からアプローチをもらえたにもかかわらず、自己肯定感が下がってしまったユーザーもいる。
アプローチしてもらえたのは良いことかもしれないが、それがことごとく自分の好みとズレていた。あまり不作法があると運営側に悪質ユーザー・迷惑ユーザーとして通報されてしまうため、問題が起きないように紳士的に対応する。
だが、そもそも気乗りがしていないから、すぐに負担に感じてしまう。
虚像を演じて削られる心
気がつくと、すべてのやり取りが無意味に感じられるようになり、不毛感や徒労感にとらわれた挙げ句、次第に「潤沢に残っているとはいえない貴重な時間を使って何をやっているのか」と、自己肯定感が下がっていったのだそうだ。
男性はパパ活、女性ならヤリモクという本来の健全な交際や結婚とは真逆のナンパ目的で、やたらと声かけしてくる連中の存在も厄介だ。声かけされただけでは正体を見抜くことは難しく、会ってはじめて性目的だとわかり、真剣に結婚を望むユーザーは出鼻をくじかれてしまう。
少子化、未婚率の上昇が社会問題化するなかで、純粋な気持ちでマチアプにたどり着いたごく普通のユーザーは、指南役から少し背伸びした虚像を自ら演じることを強いられ、ナンパ目的のステルスユーザーに横槍を入れられ、日々心を削られ続ける。
ところが、そうしたストレスに耐えても得られるのは自己肯定感の喪失だけという暗い現実しかない。そうしたネガティブな状況が、局所的とはいえマチアプを蝕んでいる。
そして、普通のマチアプユーザーが悩む心の隙をついて、猛威をふるっているのがロマンス詐欺だというのである。
「やっと出会えた」相手は詐欺師
SNSやマッチングアプリを通じた詐欺被害は、2025年に過去最悪を記録した。警察庁が「SNS型投資・ロマンス詐欺」と分類するなかで、3分の1にあたる被害がマチアプでの出会いに端を発している。(註1)
ヤリモクといわれるナンパやパパ活を目的としたユーザーが、目を引くプロフィール画像やキラキラした経歴を掲載してふんだんに「いいね!」をゲットしているなか、普通のユーザーは思い通りの相手とはなかなかマッチしない。
評価経済の中に埋もれていく自分を「必要とされていない」「拒絶されている」と受け止めてしまい、自尊心が傷ついて自己肯定感が失われていく。
そんな時に、高嶺の花と眺めているだけだったイケメンや美女が、丁寧な言葉と誠実な雰囲気で挨拶してくる。やり取りは間を置かずに続き、興味のあることや好きなものについて盛り上がる。
これまで、挨拶のメッセージを送っても無視され、アプリ上でのやり取りが始まってもフェイドアウトされ、意気消沈していた普通の人たちからすれば願ってもないことである。
やっと出会えた。この楽しい時間が永遠に続けばいいのに。
その気持ちを逆手に取られ、詐欺の泥沼へとハマっていく。好意をほのめかされるが、はっきりとした言葉は口にしない。
被害額は増加する一方
何かと理由をつけて金の無心をしてくる。疑いを持つと心底悲しそうな顔をされ、感情を揺さぶられる言葉をメッセージで投げられる。
マチアプの黎明期、アプリの実態を紹介する取材で、すでにこの手の話を聞いたことがあった。交際や結婚を前提にして、二人のためだからと交通費や宿泊費、髪のセット代、借金返済などを口実に寸借詐欺の標的にされてしまうのだ。
当時は「クヒオ大佐」の劣化版ではないかと思い(註2)、使い古された手口に引っかかることに驚いた。だが、近年のロマンス詐欺は投資話を絡めて莫大な金額をせしめたり、滞納している借金や税金、家賃の支払いと偽って何度も金を巻き上げたりと、使い古しにもかかわらず被害額、手口のバラエティはむしろ増加傾向にある。
その手本として利用されているのが、「頂き女子りりちゃん」が残した「みんなを稼がせるマニュアル」だという。
なぜ「りりちゃん」のマニュアルを詐欺師はフル活用するのか。第3回【ロマンス詐欺の“教典”として再び脚光…マチアプで獲物を探す詐欺師が「頂き女子りりちゃん」のマニュアルを絶賛する理由】では、反社会的な“悪の教典”であるマニュアルが、非常に高い完成度だという事実を詳細に報じている──。
註1:令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)/警察庁
註2:「アメリカ軍に所属する戦闘機パイロットのクヒオ大佐」と称した結婚詐欺師が1970年代から90年代にかけ複数の被害者から金銭を騙し取り、世間の注目を集めた事件。被害総額は1億円に達したという報道もある。
井上トシユキ(いのうえ・としゆき)
1964年、京都市生まれ。同志社大学文学部卒業後、会社員を経て、98年からジャーナリスト、ライター。IT、ネット、投資、科学技術、芸能など幅広い分野で各種メディアへの寄稿、出演多数。
デイリー新潮編集部
