高市早苗首相

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【全2回(前編/後編)の前編】

 世界では今SNSを駆使した「情報戦争」が激化している。目下、日本に対し攻勢を強める国といえば、かの厄介な隣人である。高市政権は新法成立で対抗策を模索するが、敵もさるもの。情報工作に長けた彼らは、あの手この手で日本人を惑わそうと企んでいるのだ。

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【実際の画像】“日本語ではあり得ない文字”が…! 中国政府の関与が疑われる「ニセ情報」の投稿

 いよいよ「日本版CIA」が誕生する日が迫っている。高市早苗首相が公約に掲げた「国家情報局」の創設。その前提となる「国家情報会議設置法案(国情法案)」が、4月23日に衆議院で与野党の賛成多数で可決されたのだ。連休明けの5月8日に参議院で審議が始まり、法案成立となれば7月にもわが国初の統合調整機能を持つ情報機関が発足する。

高市早苗首相

 政治部デスクによれば、

「安全保障を巡るインテリジェンス機能強化のため、首相を議長とした『国家情報会議』が設けられます。その実務を担うのが『国家情報局』。これまで外務省、防衛省、警察庁、公安調査庁などが各々バラバラに収集・分析してきた国内外の情報を集約して、官邸へ届ける役割を担います」

 件の法案提出にあたって、国会で高市氏は「戦後もっとも厳しく複雑な安全保障環境」に日本が立たされていると口にした。それゆえ国家情報局には、SNSを使った外国勢力による「偽情報」を監視して、対策を練る専門部署が設けられる。

 さる官邸関係者が言う。

「専門部署には、国家安全保障局や内閣情報調査室、国家サイバー統括室などから、20名ほどの職員が集められる予定です。近年、中国やロシアなどの外国勢力が、SNSでフェイクニュースを拡散して世論の分断をあおって、米国や台湾の選挙に介入もしています。もはや日本も他人事ではない状況に置かれている。そう政府が判断したのです」

中国本土でしか使わない漢字や言い回しが残っている」

 SNSを使った情報工作が日本を襲うと聞いても、何が起きているのかピンとこない人も多いだろう。その実態を、元内閣官房国家安全保障局参事官補佐で、笹川平和財団上席フェローの大澤淳氏に聞くと、

SNSにおける具体的な手法としては、『ミーム』と呼ばれる風刺画の投稿が挙げられます。視覚的にも一目で分かりやすく伝えられるため、非常に多く出回っている。すでに米国や台湾では、選挙介入などの『影響工作』で多く見られる特徴的な手法の一つです」

 専門家の間では、外国勢力による情報工作は「影響工作」と呼ばれていて、SNS上では日本語を使った投稿に、中国の関与が疑われる「偽情報」が見つかっているというのだ。

 今国会で「国情法案」の参考人として意見陳述を行った大澤氏が続けて話す。

「今年2月に行われた衆院選では、解散総選挙が報じられて以降、SNS『X』で複数のアカウントから影響工作が行われたことを観測しています。SNS分析ツールなどを用いて拡散状況を分析すると、疑わしい投稿の多くは、昨年の国会における台湾有事発言を念頭に“高市首相は軍国主義者”というイメージを広げるため、ミームを多用していました。選挙前なので社会不安をあおるような投稿もしており、“高齢化社会”“物価高で経済や輸出が滞る”などといった内容も確認しています」

 なぜ、これらが中国由来の投稿だといえるのか。

「簡単に見分けがつくのは、日本語での投稿にもかかわらず、中国本土でしか使わない漢字や言い回し、固有名詞などが残ってしまっているケースです。裏金問題を連想させる『汚職』という漢字が、日本ではあり得ない文字で表現された投稿もありました」(同)

怪しい投稿に見られる「共通点」

 注目すべきは、大澤氏が指摘する、中国からと思しき怪しい投稿に見られるある共通点だ。

「『ナラティブ』という用語があります。影響工作の世界では外国勢力が敵対する国に植え付けたいストーリー、言説を指す言葉ですが、衆院選における投稿は、公の場で中国政府が日本政府を批判する際に用いるナラティブに非常に似通っていたのです。そうした投稿の風刺画を精査すると、中国外交部や中国メディアのSNSアカウントで使用されていたイラストを、AIで加工して投稿しているケースが目立ちます。一般的な日本人の投稿では、まずなじみのない風刺画を多用するのが中国独特の文化だと思います」

 これらの投稿は衆院解散直後から雨後のたけのこのように出現したが、不思議なことに投開票日から翌日にかけて一斉に削除され、現在は見られなくなっている。

「愉快犯の仕業ならあえて削除しなくても構わないと思うのですが、証拠を残さないようにしたのでしょう。アカウントごと削除された点からも、情報機関など組織的な影響工作の可能性が高いと思います」(同)

「投稿が午前9時から午後5時に集中」

 中国事情に詳しいジャーナリストの高口康太氏は、

中国の情報工作は、共産党の中央統一戦線工作部、人民解放軍の情報支援部隊、それに地方政府のスパイ担当部門など、さまざまな機関が関わっています。特徴的なものとしてよくいわれているのは、投稿が現地時間の午前9時から午後5時までの間に集中して、これを過ぎるとピタリと止まる。あくまで“お役所仕事”としてこなしているように見受けられます」

 約14億人もの人口を誇る中国だけに、物量に頼る情報工作は、お手の物なのだ。

「今年1月、『X』の製品責任者ニキータ・ビア氏が明らかにした話では、中国政府が常時動員できるアカウントは500万〜1000万もあるそうです」

 と話すのは、国際政治や影響工作に詳しい一橋大学大学院法学研究科教授の市原麻衣子氏である。

中国の情報工作におけるネットワークは中央集権型です。まず政府の関係機関が情報を発信、次に各国に散らばる中国共産党に近いインフルエンサーが、その情報を拡散します。そのインフルエンサーとつながる『トロール』や『ボット』のアカウント群が情報を広めていくという構図です」

「トロール」とは“荒らし”の意味で、生身の人間が登録するアカウントのこと。一方の「ボット」は、AIで自動的に投稿を繰り返す機械的なアカウントを示すという。

「前者は人間が投稿するので、巧妙な情報発信が可能です。日本の情報空間でも、日本人を名乗るトロールが多数活動していますが、投稿しているのが本当に日本人なのかは分かりません」(同)

 一体どういうことか。

「普段は中国のビジネス情報などを発信してフォロワーを増やすアカウントが、台湾有事などのような日中間の政治的事案が発生すると、一気に中国共産党寄りのプロパガンダや偽情報を流し始めたりします」(同)

 中国は遅くとも2010年代から、ネットを使った情報工作を仕掛けていたという。

 後編では、中国の情報工作によって、他国のAIまでもが「日本に不利な情報」を事実として取り込んでしまうリスクなどについて報じる。

「週刊新潮」2026年5月7・14日号 掲載