スイスの有力メディアが痛烈批判!ノルドストリーム爆破事件に「新説登場」でいま問われる、ドイツ政府の重大責任
ドイツの首相への厳しい批判
スイスでもっとも高い信頼を得ているだけでなく、ドイツ語圏においても高い信頼度を獲得している「ノイエ・ツュリヒャー・ツァイトゥング」(NZZ)は今月1日、第一面で編集長エリック・グイヤーの論説「ドイツはキーウの前にひれ伏す」というタイトルの記事を掲載した(下の写真を参照)。そこで語られているのは、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相への厳しい批判である。
ノルドストリームを巡る闇
記事のサブタイトルには、「ベルリンでは、ウクライナへの批判は概してタブー視されている。政府は、ノルドストリーム・パイプラインの爆破さえも非難していない。メルツ首相の外交政策は、ますます不可解なものとなっている」と書かれている。
実は、グイヤー編集長の忌憚のない論説は、4月にドイツ語で刊行された『ノルドストリーム爆破事件 ヨーロッパを震撼させた破壊工作の真実』という本(下の写真)に触発されて書かれている(6月には英語版が刊行予定)。論説中で紹介されている同書は、「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)の特派員、ボヤン・パンチェフスキによって書かれたものだ。グイヤーは、同書について、「ロシアの侵攻初期におけるウクライナの権力機構の興味深い実像が浮かび上がった」と評価している。
アメリカが関係していた?
そこで、グイヤー編集長の論説の内容について紹介する前に、ノルドストリーム爆破事件について復習しておきたい。なお、現代ビジネスでは、拙稿「【世紀の事件の真相】ノルドストリーム爆破事件の犯行国はウクライナではなく、あの大国!!」を2024年8月24日に公表したことがある。ほかにも、2023年4月刊行の拙著『ウクライナ戦争をどうみるか』(198〜200頁)、同年10月刊行の『知られざる地政学』〈下〉(121〜126頁)、2024年6月に上梓した『帝国主義アメリカの野望』(106〜115頁)でも取り上げたので、関心のある読者は参考にしてほしい。
2022 年9 月26 日、ノルドストリーム1(NS-1)とノルドストリーム2(NS-2)が爆破される事件が起きる。いずれも、ロシアからドイツに天然ガスを輸送するためのパイプライン(PL)だった。下図に示したように、4本のPLのうち、3カ所が爆破されたのである。
真の爆破犯は何者か?
PL爆破によってロシアからの天然ガス輸出を停止させることで、ロシアの天然ガス輸出収益に打撃を与えるだけでなく、ドイツの米国からの液化天然ガス(LNG)輸入を促すねらいがあったと考えられている。だが、その犯人については、諸説あり、いまだに判然としていない。
今回のパンチェフスキの本では、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナ当局の主張に反して、ノルドストリーム爆破計画について知っていたと主張している。また、米中央情報局(CIA)は、テロ事件への関与を否定する米国当局の公式声明に反して、その実行犯たちに助言を行っていたとみなしている。
具体的な実行犯として、SBU(ウクライナ保安局)とGRU(ロシア軍参謀本部情報総局)の元高官2人が率いる少人数のウクライナ人グループを挙げている。
ただし、これまで有力だったのは、米国のジャーナリスト、シーモア・ハーシュ説である。彼は2023年2月8日、「アメリカはいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか」という長文の記事を公開した。そのなかで、「作戦計画を直接知っている」ある無名の情報源を引用して、米海軍の「熟練深海ダイバー」が2022年6月の訓練中にC-4爆薬を仕掛け、その3カ月後に遠隔操作で爆発させた方法が詳述されている。バルト海海底に敷設されたガス輸送用PL爆破の命令を下したのはジョー・バイデン大統領であると主張している。
なお、拙著『帝国主義アメリカの野望』では、「バイデンの直接関与」を主張するジャーナリスト、シーモア・ハーシュの説を強く支持すると書いておいた(106〜108頁)。最近では、人類学者のエマニュエル・トッドが著書『西洋の敗北』のなかで、「私はこの出来事に関して、シーモア・ハーシュの見解を受け入れている」と書いている(179頁)このため、私はパンチェフスキ説を少なくとも現段階では支持していない。
グイヤー編集長の怒り
実は、グイヤー編集長のメルツ首相への怒りは別のところにある。ハーシュ説やパンチェフスキ説とは別に、「連邦検事総長は、ウクライナ軍がドイツ・ロシア間のガスパイプライン『ノルドストリーム』を攻撃し、バルト海にある4本のパイプラインのうち3本を爆破したと確信している」のだから、しかも、検事総長は犯人らに対して逮捕状を発行し、容疑者の1人はドイツで勾留され、裁判を待っているのだから、メルツ首相に対して、もっと毅然とウクライナに対峙せよと求めているのである。
グイヤー編集長は、ノルドストリームの爆破が「ウクライナ戦争に至るまでドイツのエネルギー供給の中核をなしていたものに対する、ウクライナ政府による国家テロであることは、もはや疑いの余地がない」とまで書いている。
それにもかかわらず、メルツ首相がいまでもゼレンスキーを非難しないのはおかしい。つまり、タイトルにある通り、「ドイツはキーウにひれ伏している」というわけだ。
なぜ米国を非難しないのか?
グイヤーの論評で気になるのは、米国を非難していない点だ。パンチェフスキの本では、ノルドストリーム爆破計画について、当時のキーウ駐在CIA支局長(パンチェフスキのウクライナ人取材相手は、その白い髭と惜しみない資金援助から彼を「サンタ」と呼んでいた)は、極めて初期の段階から同計画を知っていた。実行犯らの相談に乗っていたからだ。
「サンタ」は作戦の費用を5000万ドルと見積もり、少人数のウクライナ人グループでは実行が極めて困難だと判断したとされる。彼は、そのような破壊工作には数隻の船と、水中ドローンを含む多くの特殊装備が必要だと推測していたのだ。
その後、2022年6月にオランダの諜報機関が計画中のテロを察知し、他の西側諸国の諜報機関に情報を提供した。その際、「サンタ」は作戦の主催者に対し、実行を断念する旨の書面による声明を提出するよう求めたという。
パンチェフスキによれば、米国当局は全体として、ノルドストリームの稼働停止に極めて強い関心をもっていたが、ロシア制裁によってこれを達成できると考えており、破壊工作はリスクが高いと判断していたという(この点は、ハーシュ説とまったく異なっている)。
ただ、パンチェフスキ説においてもハーシュ説でも、ノルドストリーム爆破に米国政府が何らかの形で関与していたのはたしかだ。そうであるならば、なぜドイツ政府は米国政府を糾弾しようとしないのだろうか。
グイヤーは論評の冒頭で、こう書いている。
「CIAが北海の風力発電所の風車を爆破する。あるいはNSA(米国家安全保障局)がベルリンの電力網にサイバー攻撃を仕掛け、1月に左翼テロリストが引き起こした停電など比べ物にならないほどの大規模な停電を引き起こす。どうなるだろうか。ドイツ国民はトランプ大統領を『国家の敵ナンバーワン』と宣言するだろう。」
この反応は、たとえ実行犯がウクライナ人グループであったとしても、その計画に米国政府が関与していたのであれば、同じように厳しくなければならないはずだ。
この点について、グイヤーは名言を避けている。
いずれにしても、もっとも重要なのは、グイヤーの記事のサブタイトルにある「ベルリンでは、ウクライナへの批判は概してタブー視されている」という指摘だ。少なくとも有力なマスメディアであるNZZがその論調をウクライナ擁護からウクライナ批判に転換させたことで、「真っ黒なゼレンスキー」の現実の姿がドイツでももう少し報道されるようになるだろう。私が望むのは、日本でも真実が報道されることだ。
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