「早慶国立以下はバカ」と…23歳男性が大学中退して校長と副校長の両親と連絡を絶った「本音」

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「今、子供と音信不通になったり、子供から縁を切られた親が、探偵に“無事かどうか確認してほしい”と依頼するケースが増えています。その背景に教育虐待があることが多いです」

こう語るのは、リッツ横浜探偵社の山村佳子さん。浮気調査を多く扱うが、最近は「家族捜索依頼」も増えているという。家族であっても「捜索依頼」は虐待やDVがからむこともあるため、必ずしも引き受けられるとは限らない。しかし捜索だけして、その住所などを伝えていいか、捜索された側に聞くことで伝えられる情報だけ伝える形で引き受けることもあるという。

「教育虐待」はなにをもって言うのかは難しい。その多くが「子供のため」と思ってやっているからだ。子供の意思を尊重することが何より大切だが、「親が喜ぶなら」「親のために」とする場合もあるし、「子供の意思」を親が誘導する場合もある。

2025年5月には東大前駅で刺傷事件があった。40代の容疑者は、親に教育虐待をされ、東大に入れようと思う保護者達に警告したいと思って知らない人を刺したという内容を語っていたと報じられた。

“子供の成長のため”にと思っていても子供が追いつめられることもある。それを認識することが重要なのだろう。

山村さん連載よりGWスペシャルとしてテーマに合わせてお届けする第4回は「教育虐待」をテーマにお届けしている。

ご紹介する依頼者は、教育のプロ、公立小学校の校長先生だ。妻も教員で、現在は副校長をつとめているという。教員の中でも出世しているエリート夫婦だ。

仕事の話を聞くと、学校では生徒たちの多様な生き方を尊重する様子が見えた。しかし自分の子供の話になるとなぜか「いい学校に行かなければダメ」となってしまう。

まずは息子さんの安全を確認し、家族がまたお互いとやり取りできるきっかけを作れたらという思いで調査を開始した。

「教員パワーカップル」

修吾さんは公立小学校の校長先生をしています。55歳の妻も、同じ地域の小学校で副校長先生として活躍しているという、教員パワーカップルです。

2人の間に23歳の1人息子がおり、修吾さん夫妻は、「教育者の子として恥ずかしくないように」と時には厳しく指導しながら育てていたそうです。その背景には、小学校当時の息子から「お父さんのような学校の先生になりたい」と言われたこともあります。

しかし、息子は親の学校の成績が振るわず、中学・高校・大学受験に失敗。自宅から予備校に通い3浪して関西にある中堅の私立大学に進学します。

初めて親元を離れた息子は、修吾さんの姉夫婦が所有するマンションに下宿。このマンションには姉夫婦も住んでいました。子供がいない姉夫婦は、弟・修吾さんの息子を我が子のように可愛がっていたそうです。

とはいえ、息子はもともと勉強が好きではなかったこともあり、大学を2年生の時に留年。その後、修吾さん夫妻と連絡が取れなくなります。心配した修吾さんは、関西の下宿先に向かいました。しかし、その部屋はもぬけの殻。

姉夫婦に問い合わせると、バイトばかりで大学には行ってなかったようだという話が出てきました。「3日前に”お世話になりました“って挨拶に来て、一緒に飯を食べて帰っていっよ」と言われます。何か知っているそぶりを察しつつも、姉夫婦からは何も教えてもらえない。そこで修吾さんは私たちに電話し、その足で横浜のカウンセリングルームに来てくれたのです。

修吾さんは最初こそ、混乱したり怒ったりしていたものの、初めて「身内の恥」と思っていたことを「他人」に話したことで、気持ちが整理でき、息子に対するある種の諦めのような気持ちも生まれます。先に進むためにも対話が必要だと感じ、調査に入ることにしました。

本人のSNSを特定

息子は内向的な性格だと言いますが、ゲームや映画が好きな性格ということもあり、SNSをやっているはずだと思いました。また、親の支配から逃れるために、思い切った行動をするためには、応援してくれる仲間も必要です。今の時代、その人たちはSNSで繋がっているだろうと、本人のSNS特定が得意な探偵にアカウントを突き止めてもらいました。

息子の出身校、中学時代の部活(マンガ・アニメ研究会と茶道部)、高校時代の部活(映画研究会)から、SNSを特定。2つのSNSはこまめに更新されており、息子は地元からほど近い都市にいる可能性があることがわかりました。

息子の投稿内容から、料理に興味を持っていること、幼い頃から共働きの両親のために料理を作っていたこと、人を喜ばせることが好きな性格も伝わってきました。

SNSからある程度の情報を得て、彼の足取りを探るため別日に改めてその都市に向かったのです。風景の断片から「おそらく、ここだ」と思われる地域に行き、友人のアカウントに上がっていた息子の写真をプリントアウトしたものを見せつつ、近くの人に聞き込みをしました。

息子は現在の職業を明かしていないので、何をしているかわかりませんが、もしかしたら飲食関係の仕事をしているのではないかと考えます。その場合、店を閉めた23時以降に帰宅する可能性が高い。駅での張り込みを始めたところ、23時30分に改札から出てきた息子を発見。そのまま尾行し、ある木造2階建てアパートに入っていく姿を認めました。

撮影した姿を修吾さんに送ると、「息子に間違いない。今すぐ車を飛ばして行きます」と言っていたので、まだ場所は言えない、それはやめたほうがいいと言おうとしたときに、電話口に妻が出ました。

妻は「私達はもう息子に嫌われています。翌日、いいタイミングで息子の話を聞いてほしい」と涙声で言っていました。

若者に人気のイタリアンレストランで

翌日、息子が出てきたのは9時でした。少し痩せて、引き締まった顔をしており、顔色はよくいきいきとしている。

通勤している様子を追うと、若者に人気のイタリアンレストランに入って行きます。運営会社を見ると、この地域で複数の店舗を経営している優良企業でした。

厨房の裏口を張っていると、息子は厨房のユニフォームに着替え、食材を運んだり、ゴミ出しをしたりして、よく働いていることがわかりました。アイドリングタイムでの食事も、スタッフと和気藹々と大盛りのまかないのパスタを食べている。皿や水を用意し、こまめに動き、愛されていることがわかりました。

22時に店を閉め、後片付けをして、出てきたのは23時。息子は小走りに駅に向かうと、小柄で愛らしい女性と手を取って歩き始めます。息子と1対1で話すよりも、女性がいたほうがいいと思って、「〇〇さんですよね」と話しかけました。

先に女性が、「なんですか!?あなたは!? まず、自分で名乗りなさい」と言います。夜遅い時間に突然声をかけたことにお詫びをしてから、父・修吾さんから依頼された探偵であることと、両親が心配している経緯を話しました。

「80点以上取らないと反省文」「国立か早慶」

息子は驚きながらも、「どこから話していいかわからないので、とりあえずウチに来ませんか?」と言われ、彼女、私とペアの探偵、で行くことに。

息子が電車に乗りながら、「小さい頃から、親が厳しくて。80点を取らないと食事を抜かれたり、反省文を書かされたり、小遣いがもらえなかったりと、いろんな罰を受けていたんです」と話し始めました。頭を叩かれたり、頬を張られたりする直接的な暴力もありました。修吾さんと妻は結託しており、息子は家に居場所がなく、父の姉に泣きながら連絡したこともあったそうです。

その兆候は成長するうちに強くなり、父・修吾さんからの「国立大学か早慶以外は大学ではない」という圧も激しくなります。しかし、息子は数学が壊滅的にできない。

「せめて早慶に入れればよかったんですけれど。父はそれ以下の大学はバカが行くところだと言い切っていたので」

中学・高校時代は、テストの成績が悪かったために、友達と遊びに行かせてもらえなかったり、苦労して取ったコンサートのチケットを目の前でやぶられたり、友達から借りたマンガを燃やされたりしていたそうです。

「当時のことを思い出すと、手が震えます」と語ります。自信が持てないまま、3浪して大学に入っても、勉強に打ち込めない。そうするうちに、大学の先輩である彼女から「好きなことをしたら?」と言われ、料理の道に進むことにしたのです。

「自分はダメだから」

こうして話を聞くと、息子さんは自分で考えてきちんと行動ができる人なのですが、「根性や探究心がない」「自分はダメだから」となんども口にします。それは両親から「お前は何をやってもダメだ」と言い続けられて育ったこともあるでしょう。また両親はホワイトカラーの仕事以外、認めていません。

「和食、フレンチ、中華など、どのジャンルを極めたいかもわからない。そんなことを彼女に話していたら、“とりあえず、その世界に入ってみればいいじゃん。きっとできるよ”と言ってくれたんです。彼女の卒業と、僕の留年が決まったので、これを機に大学を辞めようと」

父の姉である伯母には、全ての経緯と感謝を話し、住み込みで働ける店を見つけ、ひとまず仕事を始めたそうです。「とりあえず、ここで2年は頑張ってから、この先のことを決めようと思います。両親には僕が言ったことを話してもらって構いません。もう親のところには戻らないので」と言っている手を、彼女はしっかりと握っていました。

「親の期待」とは異なるけれど

以上を依頼者・修吾さんに報告すると、「私たちが育て方を間違えたようです」とため息をついていました。

さらに報告書を見ながら、「こんな頭の悪そうな女と付き合って。バカ大学卒だろう」と呟きながら、「こんなアホ面下げた奴と仕事をして、コイツがこれ以上バカになったらどうするんだ」などと話していました。

他人の子供に対しては、寛容で鷹揚な校長先生ですが、我が子に対しては辛辣になってしまう一面が伺えました。妻も「あの程度の大学に行ったから、こんな世界に飛び込んじゃったのよ」などと言っていました。料理の世界で働きたいと自ら探して親の助けを借りずに働き始めたことは、とても素晴らしいと思うのですが、いわゆる「いい大学」に行って教師になってほしいという思いがとても強かったのでしょう。だからこそ息子さんが苦しくなってしまったのですが……。

結局、修吾さんたちは、息子が元気に暮らしていることは確認したものの、連れ戻しても意味がないと思い、諦めることにしたそうです。私たちも息子さんの意思も確認して、詳しい住所は伝えていません。

ただ、1年に1回、私たちに行動の調査をしてほしいことをおっしゃっていました。息子さんが親の脛をかじるでもなく、自分の足で人生を過ごしていること、誰かを喜ばせたいと料理の道を選んだことはむしろ誇らしいことです。修吾さんご夫妻が息子さんの素晴らしさに気づく日を待ちたいと思います。息子さんと歩み寄れるようなことがあれば、できる限りサポートしていきたいと感じています。

今回の調査料金は25万円(経費別)です。

【前編】校長と副校長夫婦の息子が、中受・高受に失敗、大学3浪ののち中退して23歳で行方をくらますまで