【飯田 一史】「知的な雰囲気が魅力的」韓国で「書店ナンパ」が話題に…「1分で好きな作家を5人言え」撃退する女性も
韓国ソウルではコロナ禍の2020年頃から「書店ナンパ」が行われ始め、メディアでは2022年頃から取り上げられるようになった。
ソウルにある大型書店・教保文庫の光化門店、江南店、蚕室店が「ナンパスポット」として報道されたほどだ。そしてこういう報道の影響もあり、YouTuberや若者のあいだで「ナンパされるまで待ってみた」といった動画が作られ、書店ナンパがネットミーム(SNSのおもちゃ、ネタ)化している。
マッチングアプリ疲れで「自然な出会い」需要高まる
韓国でも一般的な出会いの場としてマッチングアプリが広く使われているし、いわゆるナンパ待ちをする場所としてはクラブやバー、あるいは「ハンティングポチャ」や「ルーム」と呼ばれる出会い目的の居酒屋もある。
ただマチアプは利用者の男女比が圧倒的に男に偏っているうえにスペック競争がエスカレートしがちで「アプリ疲れ」が世界中で起こっている。
韓国も例外ではない。
そこで「自然な出会いの追求」を意味する「자만추(ジャマンチュ)」という言葉が浮上してきた流れがある。
学校や職場、趣味の活動など、オフラインの日常のなかで偶然かつ自然に関係が発展していく恋愛スタイルが再注目されたのだ。
「自然な出会い」を求める流れでランニングのサークルやワイン会、読書会のような趣味のコミュニティ、テンプルステイ(お寺への滞在・宿泊イベント)に参加する若者が増えている。
まあ、それって「自然」なのか、という気もするが……。
「書店ナンパ」を推奨する「ナンパ師」が登場
ともあれ、書店も当初は趣味の合いそうな相手に自然に出会えそうな場所のひとつにすぎなかった。
だが一部のナンパ師が「書店ナンパは意外といい」として「週末の午後4時頃がソロが多い黄金時間帯」「『その本、面白いですか?』『知的な雰囲気が魅力的ですね』と声をかけろ」といった動画やオープンチャットでのやりとりを共有し始める。
するとそれに気づいたメディアが「静かで知的な空間であるはずの書店でナンパ!?」という意外性をおもしろがって(あるいは嘆いて)取り上げるようになった。
こうなると実際に行われていた以上に「書店ナンパ」が社会にとってのネタとして消費されるようになり、女性側があえて「ナンパされ待ち」チャレンジを動画化してバズるなど、真剣な出会いの場ではなく、遊びの舞台となっていく。
実際、ソウルの大型書店以外ではほとんど観測されていないというから、もうここまで来ると完全に「自然な出会い」ではない。
迷惑する女性客と大型書店
当然、とくにそういう意図もなく、ただ本を買いに来た女性にとっては「その本、面白いですか?」などと声をかけられるのは、ゲーム感覚の遊びだろうが本気だろうが不快感や恐怖を覚えるだけである。
ネタなのかバカなのか、マニュアルどおり手当たり次第に「知的な雰囲気が魅力的です」などと女性に声をかける男性がうろうろしているので気分が悪い、という怒りの声もある。
これに対しては教保文庫側も重く受けとめ、店内のあちこちに「大切な読書の瞬間が、見知らぬ会話や視線で妨げられないよう配慮してください」「予期せぬ状況で不快な思いをした場合は、ためらわずに近くのスタッフに申し出てください」という案内文を掲示し、注意喚起している。
また、長時間不自然にうろついて異性に声をかけている人物に対しては警備員の見回りや防犯カメラによるモニタリングで対応している。
ただ、普通に男女いっしょに書店を訪れるケース、本を探すために長時間滞在する男性客自体はめずらしくないため、なかなか判別がむずかしく、問題が起きる前に予防するのは限界があるようだ。
本当の意味での「本好き」同士の出会いはあるのか
では、本に関係するほかの場所はどうなのか。
図書館ナンパは書店ナンパほど注目はされていないが、昔から一部にあるようだ。
最近ではソウルのCOEXモール内にある巨大な「ピョルマダン図書館」のような映え図書館がデートコース、撮影スポットとして人気になっているが、ナンパ師のあいだでホットスポット化しているような傾向は今のところないらしい。人目が多すぎるからか、ナンパ師が「落としやすい」と考える異性が来ないからなのか、理由はよくわからない。
ブッククラブ(読書会)には、出会い「も」求めて参加して結婚に至ったケースもあれば、女性が意中の男性に露骨なアピールをしてトラブルになったケースも報道されている。
一方でブックカフェ、ブックバーでは、こういう問題はあまり話題になっていないようだ。
小規模な飲食店のほうがよほど「自然な出会い」がありそうなものだが、ガチの本好きがひとりで行くような場所、そうでないと滞在していても浮いてしまう場所には、手当たり次第に声をかけるヤリ目の人間は来ないのだろう(来てもすぐ店主に見つかって「出て行け」と促されるだろう)。
書店ナンパの撃退法として女性たちに「声をかけられたら『1分で好きな女性作家の名前を5人言え』と返す」が共有されているように、本が好きで本屋に来ているのに、本になんの興味もない人間に出会い目的で声をかけられるのがイヤなわけだ。
レギュレーションを定めた「イベント」であれば…
ソウルの書店ナンパ問題は、もともとは「自然な出会い」を求める流れだったはずが、ナンパ師の行動と本屋によく行く属性の人がミスマッチで「不自然」すぎてネットミーム化したという皮肉な事態である。
バズってこすられすぎた結果、ナンパやSNSのトレンドとして次は「ダイソーがねらいめだ」などと言われている。書店だろうがダイソーだろうが、「自然な出会い」と「流行」の相性の悪さを感じるばかりだ。
ただひとつ思うのは、店側が最初から「狙って」そういう場所やイベントを作ったならまた話は変わってくる、ということだ。
話が合う人が見つかることを求めている人間はいるだろう――もちろん、どのくらいの距離感で付き合いをするか、できるのかが重要なのだが。
日本では書店ナンパは起こっていないと思うし起こらなくていいものの、書店側がビジネスとしてガチガチにレギュレーション、ルールを決めて参加者のプライバシーと安全を確保した上で試しに「イベント」としてやるなら、果たしてどうなるだろうか。
実は欧米では独立系書店などで「Bookshop Meet-Cute」「Speed Dating」と呼ばれる、お気に入りの本を持参して出会い目的で参加する有料イベントが一部で盛り上がってきている。
そういうものならアリではないだろうか。
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