データセンター建設巡り住民と摩擦、圧迫感や騒音心配…立地規制の緩さや秘匿性の高さが要因に
都市部の住宅街でデータセンター(DC)の建設を進める事業者と住民の間で、摩擦が生じる事例が相次いでいる。
生成AI(人工知能)の普及で世界的に需要が高まる一方、国内では規制が追いついていないためだ。東京都が独自の指針を策定するなど共生に向けた模索も続くが、専門家は法整備の必要性を指摘する。(松下聖)
秘匿性
「巨大DC建設を強行するな!」。東京都日野市のJR日野駅前に4月、のぼりを携えた地元住民らが集まった。市内でDC建設を計画する大手不動産会社への指導強化を市に求める署名運動だ。予定地の前に住む男性(69)は「市民の声を集め、話し合いで解決するよう求めていきたい」と訴えた。
計画では、自動車工場の広大な跡地(11万4000平方メートル)に高さ約50〜70メートルのDC3棟が建つ。一帯は戸建てが並ぶ住宅街で、建物から受ける圧迫感や日照の悪化、騒音や排熱を不安視する住民たちが約7600人分の署名を集めた。
同社は住民説明会を3回開き、自治会向けにも個別に意見交換の場を設けた。規模を縮小するなどの配慮も重ねたといい、取材に「DCは保安上の理由から秘匿性が高い。全ての情報は出せないものの、理解を得られるよう丁寧に対応していく」としている。
JR宮原駅(さいたま市北区)近くの住宅街では、6階建て(高さ47メートル)のDCがそびえ立つ。巨大な倉庫のような外観で窓は少ない。近隣住民によると、敷地の中には人の背丈より高い非常用発電機が並んでいるという。
隣接地でも同規模のDCが建設中で、工事車両が頻繁に出入りする。目の前のマンションで暮らす男性(72)は、排熱や騒音への懸念を外資系の事業者側に何度も伝えたが、「設計中でわからない」「弁護士が対応する」と繰り返すばかりだったという。男性は「十分な説明もなく、納得できない」と憤る。
東京都昭島市や小平市でも一部の住民がDCを問題視しており、千葉県の印西市と白井市では開発許可や建築確認の取り消しを求める訴訟にまで発展した。
「事務所」緩い規制
情報通信白書によると、昨年3月時点でDCは国内に222か所。米国の約5400か所と比べて少なく、近年は外資の参入も相次ぐ。通信速度や利便性が重視され、大都市近郊での需要が特に高いという。市場調査会社の富士キメラ総研(東京)は、2023年に3兆6000億円だった国内の市場規模が29年、5兆4000億円に拡大すると見込んでいる。
一方、国土交通省によると、DCは建築基準法に具体的な規定がない。工場や倉庫より規制が緩い「事務所」などとして扱われ、住宅街の近くにも建てられるのはこのためだ。機密保護対策として情報を十分に開示しない事業者は多く、事業者らで作る「日本データセンター協会」(東京)の増永直大事務局長は「外資系企業を中心に、住民との対話がうまくいかない事例がある」と明かす。
対話促進へ都指針 法整備求める声
東京都は3月、DCと地域との共存を後押しするための指針を都道府県として初めて策定し、事業者に住民との対話を早期に始めることの重要性を説いた。
今年度からは、地域貢献や環境保護に取り組むDCを認定し、最大15億円を補助する。都都市整備局の大谷剛弘調整担当課長は「DCは社会に必要なインフラ(社会基盤)と言えるが、街づくりや脱炭素との整合性を図る必要がある」とし、「都が仲立ちすることで、良好な施設の整備へと誘導していきたい」と語る。
タワーマンションが林立し、人口増が続く東京都心湾岸部の江東区も2月、事業主向けの指導要綱を施行した。規模や構造などを記した計画書を提出するよう求め、住民への周知も要請する。双方に話し合いでの解決を促す狙いがある。
一方、いずれも強制力はなく、事業者の裁量に委ねられているのが実情だ。都幹部は「国際競争力を維持するためにもDCは欠かせない」とし、厳しい規制は困難だとする見方を示す。DCの進出事情に詳しい京都大の大庭哲治教授(都市地域計画)は「巨大化、高度化するDCに法制度が対応できていない」とし、「国は立地規制の検討を急ぐべきだ」と主張する。
◆データセンター=施設内のサーバーでデータの保管や処理をする。大量の電力を消費し、停電用の発電機も備える。現代の重要な社会基盤の一つで、中東の米企業の施設はイランの精鋭軍事組織「革命防衛隊」の攻撃対象になった。
