“株はインフレに強い”は過大評価…今が株の買い時と言えない「5つのリスク」を専門家が解説 “年末には日経平均7万円”は眉唾か
第1回【日経平均“6万円突破”でも専門家が「今は絶対に株に手を出してはならない」と説く理由…日経平均以外のきちんと確認すべき“指標”とは】からの続き──。4月23日の東京株式市場で、日経平均株価が初めて6万円の壁を突破した。経済系メディアは「高市トレードで7万円が見えてきた」と大きく報じ、ネット上には「長期保有に適した優良高配当株」、「まだまだ割安な銘柄はたくさんある」などなど、株に投資するよう呼びかけるサイトが乱立している。(全2回の第2回)
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【論よりグラフ】「空前の株高でも生活が苦しいのはなぜ?」…グラフを見れば一目瞭然、日経平均株価と「実質的な数字」は大きく乖離していた。
だが元大和総研主任研究員でテラ・ネクサスCEOの田代秀敏氏は「今は世界経済の不確実性が高まっています。そのため株に手を出すべきではありません」と警鐘を鳴らす。

「株に手を出すのはリスクだと如実に示している理由の1つ目が、金の価格が歴史的な水準で高騰していることです。利子も配当もない金の価格が高騰していることは、米ドルに対する不信任の高まりを表しています。金は2024年に入ってから高騰しています。私は国際通貨基金(IMF)が今月14日に発表した『世界経済見通し』(World Economy Outlook)の最新版は、現在の金の高騰が『地政学的リスク指数』の上昇そして『株式市場における不安指数(VIX)』の上昇とそれぞれシンクロナイズしていることを示しています。このことは、世界経済が恐ろしいほどの不確実性の高まりに直面していることを明確に示しています」
「地政学的リスク指数」が急上昇しているのは、やはりアメリカがイランを空爆したことが大きい。
「IMFの『世界経済見通し』最新版のタイトルは『戦争の影の中の世界経済(Global Economy in the Shadow of War)』です。内容はイラン戦争の影響で世界経済が減速すると予測しています。日本では“戦争”という言葉をかたくなに避けて“イラン情勢”と表現しているので、“イラン戦争”の影響がどれほど深刻か伝わらないまま、石油の国家備蓄を気前よく放出しています。戦前の日本政府が中国大陸での戦争を甘く見て“事変”と呼称し、ずるずると兵力の逐次投入をなし崩し的に続けた挙げ句、戦略なしに戦線を拡大していったのと似ています」(同・田代氏)
史上最大の石油危機
ホルムズ海峡の封鎖が依然として続いていることも、株に手を出すべきではない2つ目のリスクだ。
「イラン戦争に伴うホルムズ海峡封鎖による1日当たりの石油供給停止量は1500万バレルと見込まれています。これは、1973〜4年の第1次石油危機での430万バレル、1979〜80年の第2次石油危機での560万バレル、2022年のウクライナ戦争勃発による300万バレルの合計1290万バレルより、16・3%も大きな水準です。すなわち、第1次石油危機、第2次石油危機、ウクライナ戦争を合わせたよりも大きな危機が今、目の前で起きているのです。ですから経団連など財界も経済学者たちの学界も高市早苗首相に石油の全面的な節約を呼びかけることを求めています。しかし、高い支持率を維持したい高市首相は石油バラマキ政策に固執しています。財界と政界との対立を突いて投機筋が日本株に売りを仕掛ける“逆高市トレード”がいつ起きても不思議ではありません」(同・田代氏)
田代氏によると、最高値の更新が続いている株式市況からも、「今は株に手を出すな」という警告を読み取ることができるという。
不安視される日本経済の未来
「3つ目のリスクは、日本を代表する大企業でさえ株価の下落が起きたことです。例えば4月23日の東京株式市場で銀行株は大きく値を下げました。その結果、銀行業株価指数連動型上場投資信託は前日比1・54%も下落したのです。また、こうした大企業はニューヨークにも株式を上場していますが、みずほFG、三井住友FG、三菱UFJといったメガバンク勢だけでなく、トヨタやソニーGなども値を下げています。日本経済の中核を担う大企業の株価がニューヨークで大きく下がっていることは、日本経済の先行きがニューヨークでも懸念されていることを表しています」
日本経済新聞(電子版)は3月29日、「円安スタグフレーションの影 原油高より怖い高市政権の積極財政」との記事を配信した。日経QUICKニュース編集委員・永井洋一氏の署名記事だ。
この論説では《インフレなら株式投資をすればいいという人もいる。それも時にはミスリードだ。株式はインフレヘッジ資産とは限らない》と注意を呼びかけている。
《高度経済成長のピークだった1973年1月。日経平均株価は最高値5359円74銭を付けた。この時、日経平均に100万円投資したとする。1年9カ月後、物価全般(消費者物価指数の総合、CPI)は1・4倍になったが投資元本は67万円に減った。生活費の増加を賄えたか、あるいは割り負けしたかをみる実質(物価変動調整後)ベースでは48万円だ。いまとは金利水準が違うが株式投資より銀行預金の方が断然有利だった。元本回復まで名目ベースでは約5年、実質ベースでは約12年かかった》
「株はインフレに強い」は誤り!?
多くの国民は「インフレが原因で賃金が上がっても物価上昇には追いつかない」ことを痛感している。
一方、株価は新聞社やテレビ局など大手メディアが連日のように「最高値を更新した」と報じる。さらに年末になると日経平均が7万円に達する可能性があるとの記事も多い。こうした報道で「インフレ時代の今こそ株に投資すべきだ」と判断する人が増えているが、「物価高に株価は追いついているのか」という疑問を持つべきだと田代氏は指摘する。
「4つ目のリスクは日本経済をインフレーションが襲っていることです。繰り返しますが、現在起きている石油危機は、第1次石油危機と第2次石油危機とウクライナ戦争に伴う石油危機とを合わせたよりも巨大な規模です。株価の下落は第1次石油危機の時よりも厳しいと考えるのが自然です。『株はインフレに対して強い』は過大評価です。1949年6月に開始された日経平均株価を、『消費者物価指数:持家の帰属家賃を除く総合指数』で割り引いて物価調整し実質化します。すると、1949年6月に月平均161円12銭であった日経平均株価は、1980年代のバブルのピークだった1989年12月に名目では約237倍の3万8115円32銭でしたが実質では約35倍の5563円01銭でした。それに対して、26年後の今年3月の日経平均株価・月平均は名目なら約5万3964円90銭で約42%上昇しましたが、実質では6011円76銭ですから約8%の上昇に過ぎません」
「英国病」ならぬ「日本病」の可能性
インフレが株価を実質的にも下落させるという、投資家にとっては恐怖とも思えるシナリオには前例がある。
「1973年の第1次石油危機に起きたインフレーションを振り返ってみましょう。そもそもインフレは石油危機の前から起きていました。当時は第2次田中角栄内閣で、内閣の圧力により日本銀行は金利の引き上げができない状況でした。そのため過剰流動性が放置され、インフレが起きていたのです。そこに第1次石油危機が起き、インフレは加速しました。日経平均株価は実質でも大きく下落し、第一次石油危機勃発以前のピークだった1973年7月の水準を回復したのは10年以上が経った1984年4月のことでした。現在起きている石油危機は第1次石油危機よりも巨大なもので、具体的には3倍以上の規模です。株価に与える影響を考えると恐ろしくなります」(同・田代氏)
田代氏が指摘する5つ目のリスクは「日本病」の発症だ。1970年代のイギリスでは過度な福祉政策、産業国有化、労働組合の強大化によるストライキ多発などが重なり、経済成長が停滞し国際競争力が低下。物価は上がる(インフレーション)のに景気が後退(スタグネーション)して賃金は上がらないという「スタグフレーション」が発生した。
「これが当時は『英国病』と呼ばれました。今の日本も1970年代のイギリスと似ています。金利上昇と通貨暴落で実質消費が打撃を受け、供給能力不足で輸出も伸びない円安スタグフレーションが起き『日本病』に陥るという危機が迫っているのです」(同・田代氏)
第1回【日経平均“6万円突破”でも専門家が「今は絶対に株に手を出してはならない」と説く理由…日経平均以外のきちんと確認すべき“指標”とは】では、「19世紀型の日経平均株価と20世紀型のTOPIXを比べると今、株に手を出すべきではない理由が見えてくる」という田代氏の指摘について詳細に報じている──。
デイリー新潮編集部
