「若い頃はできたのに」「最近は人の名前すら思い出せない」と悩むミドルシニア層…実は、仕事の集中力は年を重ねるほど“深化”する?若手とベテランが補完し合い、チームの成果を劇的に高める方法
「最近、集中力が続かなくなった」「若い頃に比べて頭の回転が遅い」……。そんな風に年齢による衰えを感じてはいませんか? しかし、最新の認知科学の視点に立てば、仕事に必要な「深い集中力」は、むしろ加齢とともに磨かれていくものだといえます。米国の金融業界で管理職(ヴァイスプレジデント等)を務め、激務の傍らハーバード大学のエクステンション・スクールで認知神経科学を学んだエグゼクティブコーチの吉川ゆり氏によると、脳は加齢によって衰える部分がある一方で、経験によって“深化”する部分もあるそうです。本記事では、同氏の著書『なぜ、あなたは時間に追われているのか』(日経BP)より、年齢を重ねたからこそ発揮できる「質の高い集中」のメカニズムとその活用法について解説します。
むしろ、加齢とともに集中力は「深まる」?
年齢を重ねる中で、「集中力が続かなくなってきた」と感じている人もいると思います。加齢によって集中力は落ちるのでしょうか。
実は、私達が仕事をするときに必要な「深い集中力」は、年を重ねてもあまり低下しないという見方があります。確かに、加齢によって低下する能力も存在します。タスクを切り替えるのが億劫になったり、「次にやるべきことがパッと思いつかなくなった」という人もいるでしょう。これは、私たちの脳に備わる「ワーキングメモリ」の働きと関係しています。
ワーキングメモリとは、脳に入ってきた情報を一時的に保存・記憶しておく機能のことです。私たちはワーキングメモリに保存された情報を使って考えたり判断したりしますが、このワーキングメモリは容量が決まっており、保存できる情報の量には限りがあります。年を重ねると、このワーキングメモリの処理能力が、若い頃に比べて低下するといわれています。
若い頃は、あれもこれもと一度に多くの情報を記憶でき、必要なときにスムーズに取り出すことができます。このため、ある作業から別の作業へと素早く切り替えることもでき、作業をサクサク進めることができます。しかし、年齢を重ねると、一般的に処理スピードが遅くなり、タスクの切り替えに時間がかかるようになります。
一方で、加齢とともに伸びる能力もあるといわれています。それは、「なぜ私は今これに取り組むのか」「このタスクの価値は何か」という問いに対して、深い意味付けをする力です。年齢を重ねるにつれて、私たちは単発の出来事や情報を個別に処理するだけでなく、過去の経験や知識と照らし合わせながら、文脈の中で理解することが得意になります。認知科学の分野では、こうした能力は、経験の蓄積によって形成される「結晶性知能」や、情報を統合して全体像を捉える力と関係していると考えられています。
その結果、「あの出来事とこの出来事をつなげると、こんな意味が生まれる」「あの要素とこの要素を加味すると、このような判断ができる」といった具合に、物事の因果関係や全体像をとらえる力が、年齢を重ねたほうが高くなる傾向があるのです。
そして、この「深く意味付けする力」や「価値を理解する力」が向上することで、深い集中を伴う作業に入りやすくなります。仕事の価値を感じながら、長時間にわたって集中を途切れさせることなく、パフォーマンスを出すことができます。
年齢層が交ざったチームのほうが、新アイディアを生み出しやすい
「いやいや、最近は人の名前すら思い出せない」「記憶力が低下している」という人もいるかもしれません。しかし、「記憶を引き出す」ことと、「さまざまな情報を統合して意味をつなぐ」ことでは、脳の中で使われる回路が異なります。
記憶を引き出すのに時間がかかっても、物事の本質的な意味を理解し、深く関連付ける能力は衰えていない可能性が高いのです。私自身も、40代になってから集中力について勉強を始めましたが、若い頃とは異なる形で集中力を発揮していると感じています。
若い頃は、確かに「いっぱいこなせる」という感覚がありました。しかし、今は一度に多くのことを覚えてこなそうとするのではなく、すべてのタスクを書き出して整理し、その順番に1つひとつ集中して取り組むようにしています。脳の中にすべての情報が入っていなくても、タスクの進め方、仕事へのアプローチを変えていけば、ワーキングメモリが少し弱くなる部分を十分にカバーできるのです。
それでも集中力が落ちたと感じるのであれば、睡眠の質が落ちた、若い頃と比べてストレスが増えたなど、他の要因が絡んでいる可能性もあります。何よりも、年齢を重ねることで得られる「経験値」は、大きな強みとなります。経験値が高いからこそ、若い頃よりもアイデアが生まれやすくなるのです。
しばしば、会社の新規事業や新しいアイデアを出す仕事は、「若い人のほうが得意なはず」と思われ、若い人だけのチームが組まれることがあります。若い人が持つ「新しい視点」はもちろん重要です。しかし、アイデアというのは、外から突然降ってくるわけではありません。既存の知識や経験、情報をつなぎ合わせて、内側から生み出されることが大半です。
だからこそ、豊富な経験を持ち、物事をつなぎ合わせて新しい価値を生み出す力を持つ、年齢を重ねた方々の存在も不可欠なのです。年齢層が交ざり合っているチームのほうが、より良い結果を生み出すことができるでしょう。
吉川 ゆり
Mental Breakthrough Coaching™スクール 代表
