NISAをやれば安心なんて、嘘じゃないか…年金月12万円・貯金1,300万円の元会社員、投資で安心を手に入れるはずが、毎夜眠れず「スマホが顔面直撃」のワケ

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物価上昇が続くなか、「いつまで働き続けなきゃいけないのか」と、老後資金に不安を募らせる年金暮らしの男性。そんな中、希望を見出したのが「新NISA」での投資でした。お金を増やして安心を得たいと思ったはずが、なぜか「夜、眠れない……」その理由とは?

もっと楽に生きたい…67歳男性の切実な願い

「投資でお金を増やさないと、人生の最後まで楽になれないと思ったんです」

そう話すのは、地方の小さなアパートで一人暮らしをする田中義和さん(仮名・67歳)。

田中さんは工場勤務の元会社員で、月々約12万円の年金暮らし。現役時代に築いた貯蓄は約1,300万円ありましたが、物価高の影響で、その貯金が少しずつ目減りしていく現実に、強い不安を感じていました。

足りない分を補うため、現在は週4日、交通整理のアルバイトに出る日々。時給はおよそ1,200円。夏は炎天下、冬は凍える寒さのなかで立ち続ける仕事は、決して楽なものではありません。

「いつまで続けるんだろうな、この生活。70歳、いや80歳……死ぬまでか?」

そんな思いが頭をよぎるなか、田中さんの目に留まったのが「新NISA」でした。

「投資なら、一発逆転もあるらしい」
「国が勧めている制度なら、安心だろう」

動画サイトやSNSで情報を集めるうちに、田中さんの気持ちは次第に傾いていきます。

「シニアは安定運用を重視すべき」として、投資信託の積立などを勧める意見が多く見られるなか、田中さんの心を強くつかんだのは、「短期間で大きなリターンを狙える」という株投資の話でした。

「日本株は絶好調。もし1年前にこの株を買っていたら、今あなたの資金は10倍になっていた」

グラフと共に示されたリアルな資産増のイメージに、夢を見てしまったのです。

「それだけ増えたら、長生きしたって安心だ」

田中さんは、成長投資枠を使い、約500万円分を日本株に投資しました。1社に集中するのではなく、複数の企業に分散して購入。「これならリスクも抑えられる」と考えたのです。

しかし、その日を境に穏やかだった日常は一変しました。

スマホが顔面直撃…不眠に陥ったワケ

田中さんは、朝起きてすぐにスマホを手に取り、前日の値動きやニュースを確認。9時の取引開始を待ちきれず、気づけば何度もアプリを開いてしまいます。食事中もスマホを手放せず、アルバイト中も気になって仕方がありません。

「こっちを買っていれば、もっと上がっていたのに」
「なんであのとき売らなかったんだ」

取引時間外になっても、後悔と仮定の繰り返し。スマホを握りしめたまま布団でも画面を見続け、気づけばそのまま寝落ち。スマホが手から滑り落ちて顔面を直撃したこともありました。

こうして、生活リズムはみるみる崩れていきました。

株価が上がれば気持ちは高揚しますが、それでも「もっと上がっている銘柄がある」とわかれば、悔しくなります。下がれば「今日こそ上がれ」と祈るような気持ちに。

感情は、まるでジェットコースターのように揺れ動き、かつての楽しみだった盆栽や散歩にも身が入らなくなりました。

「いま暴落しているかもしれない」「売った方がいいのか、待った方がいいのか、買い替えるべきか」。そんな不安や迷いが、常に頭から離れないのです。

安心の老後を手に入れるために始めたはずの投資は、いつの間にか田中さんの心の平穏を激しく蝕んでいました。

盲点だった「リスク許容度」、田中さんの決断

「自分は、もっと冷静に投資できると思っていた……」

そう語る田中さんに欠けていたのは、「リスク許容度」という考え方。どれくらいの損失や値動きなら、自分は耐えられるかという基準です。

ここには、「いくらまで損をしても生活が成り立つか」という経済的な側面だけでなく、「どれくらいの値動きなら夜ぐっすり眠れるか」という心理的な耐久力も含まれます。

特にシニア世代は、現役世代のように「暴落しても給与で補填する」「長期間待って回復を待つ」といった選択肢が限られています。

田中さんにとって、原資の500万円という金額は、数字上は問題なくても、“心が耐えられる範囲”を大きく超えていたのでしょう。

結局、田中さんは「もっと上がるかもしれない」という誘惑を振り切り、その時点でプラスになっていた銘柄のおよそ半分を売却。新たな投資は、一括ではなく投資信託の積立へと切り替えました。

「睡眠不足でアルバイト中もぼうっとしてしまって。お金を増やすより、命が大切ですからね」

 新NISAは優れた制度ですが、誰かの正解がそのまま自分に当てはまるとは限りません。 特に老後の投資で大切なのは、資産の最大化ではなく、日々を安心して過ごせることです。

「安眠できる範囲で運用する」――それこそが、長く穏やかに投資と付き合っていくための現実的な答えといえるでしょう。