A・シンクレア氏が着用していたイスラエルとパレスチナの旗の刺繍が入ったキッパ/Alex Sinclair

イスラエル・テルアビブ(CNN)イスラエル警察はこのほど、イスラエルとパレスチナの旗が刺繍(ししゅう)されたキッパ(ユダヤ教徒の男性が頭にかぶる民族衣装)を着用していたユダヤ人男性を拘束した。キッパはその後切り裂かれたと当該の男性は主張している。この異例の事案は、全国的な注目を集めている。

作家でヘブライ大学の非常勤講師も務めるアレックス・シンクレア氏(53)はCNNの取材に答え、テルアビブの南東約3​​5キロに位置する故郷モディインのカフェに座っていたところ警官に声をかけられたと語った。数分後、同氏は地元の警察署に連行され、身体検査を受けた後、拘束されたという。

詳細を説明したフェイスブックの投稿でシンクレア氏が明らかにしたところによると、そのとき同氏はパソコンで作業をしていた。そこへ宗教心の強そうな男性が怒った顔で近づいてきて、シンクレア氏のキッパは違法だと叫んだという。シンクレア氏は話し合おうとしたが男性は耳を貸さず、警察に通報したという。

すぐに警官2人が駆けつけ、違法なキッパなので没収すると告げられたという。

シンクレア氏はその後、地元の警察署に連行された。「ベルトを外せ。壁に向かって立ち、両手を壁につけろ」などと命令され、身体検査を受けた。それから監房に一人閉じ込められた。そこでは水も電話も与えられず、何が起こっているのか、これからどうなるのかも全く分からなかったという。

約20分間の拘束の後、警官たちはシンクレア氏を釈放することに同意したが、最初はキッパを返そうとしなかった。こちらから強く主張してようやく返したものの、20年着用していたキッパは一部が切り取られていたという。

シンクレア氏によれば、自身の担当だった若い女性警官は「パレスチナの旗の部分を切り取っていた」。宗教儀式にも使う大切な私物を奪われ、破損されたと、シンクレア氏は訴える。

シンクレア氏のケースは、おそらく特異なものだろう。イスラエル警察は長年にわたり、平穏を乱すとの理由でパレスチナ人からパレスチナの旗を没収してきた。パレスチナの旗は、超正統派ユダヤ教徒の集会で時折掲げられる。そこに集まる人々は現代のイスラエル国家に対して反対の立場を取る。しかし、警察がキッパの着用を理由にユダヤ人男性を取り締まることは極めて珍しい。たとえそのキッパにパレスチナとイスラエルの旗が描かれていたとしてもだ。

イスラエル法はパレスチナの旗を公然と掲揚することを禁じていないものの、イスラエル当局は、それがテロ組織への支持とみなされる、あるいは公共の秩序を乱す恐れがあると判断した場合、掲揚を制限または撤去することができる。2023年、極右思想で知られるイスラエルのベングビール国家安全保障相は警官に対しパレスチナの旗を撤去するよう指示したが、イスラエル市民権協会(ACRI)はこの指示を違法だと非難した。

イスラエル警察は声明で今回の事案について認めたものの、旗のことや警官がシンクレア氏のキッパを破損したという主張には一切触れなかった。声明によると、警察は「パレスチナの旗が描かれたキッパを被った男がいる」との通報を受け、本人を拘束したが、「事情聴取の後」釈放したという。

シンクレア氏は23日、CNNに対し、キッパは自身にとって象徴的な意味を持つと語った。「私は誇り高きユダヤ人であり、誇り高きシオニストであると同時に、パレスチナ人にもユダヤ人と同様の自決権があると考えている。彼らもまた、この地域との正当な歴史的つながりを持つ民族だと信じている」と述べた。

「双方に、相手のアイデンティティを消し去ろうとする人々がいる。シオニストであることは、この国と正当なつながりを持つ他の人々の権利を認めることと矛盾しない」(シンクレア氏)

今回、一時的に拘束された件については「過剰反応したくはない」とフェイスブックに投稿。それでも「いかにもファシスト政権がやりそうなことだと言わざるを得ない。イスラエルがこのような方向に向かっていることに不安と心配、そして率直に言って深い失望を覚える」と綴(つづ)った。

シンクレア氏は今回の件で、不当拘束と器物損壊を理由に、内部警察調査局に苦情を申し立てた。また、キッパの損害賠償も求めている。

その上で、できるだけ早く両方の旗があしらわれた新しいキッパを着用する意向も表明した。