(※写真はイメージです/PIXTA)

写真拡大

年金をもらい始める標準的な年齢は65歳ですが、早くから年金をもらう代わりに年金が減額される「繰上げ受給」と、遅くもらう代わりに年金が増額される「繰下げ受給」があります。「繰上げ」と「繰下げ」、どっちがお得なのか? 悩みどころですよね。本記事では、元サラリーマンのモデルケースをもとに、「60歳繰上げ受給」と、「70歳繰下げ受給」を比較し、損益分岐点と受給開始時期の決め方についてFPの服部貞昭氏が解説します。

繰上げ受給・繰下げ受給のシミュレーション

【モデルケース】

・性別:男性

・年齢:60歳(会社員として38年勤務・60歳定年退職)

・東京都新宿区在住

・無職、収入は公的年金収入のみ

・本来の受給見込み額:月16万円(老齢基礎年金+老齢厚生年金)

・本来の受給開始年齢:65歳

・「60歳繰上げ受給」または「70歳繰下げ受給」を選択

・税金・社会保険料は2026年4月時点の税率・保険料率で計算

この元サラリーマンのモデルケースでは、65歳から受給開始の場合、本来、額面金額で月16万円、年間192万円の年金をもらうことができます。

ここで、60歳繰上げ受給を選択した場合、年金の額面金額は、月12万1,600円、年間145万9,200円に減額されます。一方、実際に振り込まれる1ヵ月分の手取り金額は、65歳〜74歳の期間では、約11万8,300円、年間では約141万9,300円です。額面金額に対する手取りの割合は、約97%です。

今度は、70歳繰下げ受給を選択した場合、年金の額面金額は、月22万7,200円、年間272万6,400円に増額されます。一方、実際に振り込まれる1ヵ月分の手取り金額は、65歳〜74歳の期間では、約19万4,100円、年間では約232万9,600円。額面金額に対する手取りの割合は、約85%です。税金と社会保険料の合計で約15%も引かれてしまいます。

手取りで考えると「損益分岐点」の年齢が遅くなる

まず、繰上げ受給では、当初は、65歳受給開始の累積受給額よりも、60歳受給開始の累積受給額のほうが多くなります。「損益分岐点」の年齢を過ぎると逆転し、65歳受給開始のほうがお得になります。60歳受給開始の場合の損益分岐点は、額面の金額で考えると、80歳10ヵ月です。

ところが、上記のモデルケースの手取り額で損益分岐点を計算すると、85歳11ヵ月となります。なんと、額面金額で計算した損益分岐点より、5年も遅い年齢になるのです。

また、繰下げ受給では、当初は、70歳受給開始の累積受給額よりも、65歳受給開始の累積受給額のほうが多くなります。「損益分岐点」の年齢を過ぎると逆転し、70歳繰下げ受給のほうがお得になります。70歳受給開始の場合の損益分岐点は、額面の金額で考えると、81歳11ヵ月です。

しかし、上記のモデルケースの手取り金額で損益分岐点を計算すると、84歳6ヵ月になります。額面金額で計算した損益分岐点より、約2年半、遅い年齢になります。

繰上げ・繰下げ受給の損益分岐点と受給開始時期の決め方

繰上げ受給で住民税非課税になると社会保険料も減額される

今回のモデルケースでは、60歳繰上げ受給の場合の手取り額の損益分岐点が、85歳11ヵ月と、額面金額の損益分岐点より大幅に延びました。

その理由は、繰上げで年金が減額され、65歳以降は住民税が非課税になることで、税金がかからず、さらに社会保険料も減額されるからです。

もともとの年金の金額が高いと、60歳に繰り上げても住民税非課税にはなりません。しかし、今回のモデルケースのように、年金の月額が16万円かそれ以下の場合には、ある程度まで繰り上げたうえで、公的年金以外に収入がなければ、住民税非課税になる可能性があります。

年金収入金額が多いほど、税金・社会保険料も多く引かれる

一方、70歳繰下げ受給の場合の手取り額の損益分岐点は、84歳6ヵ月と、額面金額の損益分岐点より延びました。その理由は、繰上げのケースと反対で、年金収入金額が多いほど、税金も社会保険料も多くなるからです。

今回のモデルケース(月額16万円)では、仮に75歳繰下げ受給をしても、手取り割合は約84%ですが、年金額が多いケースでは、手取り割合が8割を切ることもあります。

繰下げ受給では、手取り額は想定より増えないと考えたほうがよいでしょう。

結局、年金の繰上げ・繰下げ、どちらがお得なのか?

今回のモデルケースでは、繰上げ・繰下げ、どちらでも、損益分岐点は、男性の平均寿命(81.09歳:2024年時点)をオーバーしています。また、65歳男性の平均余命は19.47年(2024年時点)であり、年齢では84.47歳ですので、その平均余命も超えています。

つまり、半数以上の男性は、65歳受給開始ではなく、繰上げ・繰下げのどちらかを選択したほうがよいということになります。

それでは、繰上げ・繰下げのどちらがお得なのか? これは想定寿命(何歳まで生きるか)や、公的年金以外の収入があるかないかで変わるので、一概に言及することはできません。ご自身が何歳まで、年金収入をしっかり確保したいかによるともいえます。

繰上げ受給を選択したほうがよいケースは、想定寿命が80代前半くらいまでで、公的年金以外に収入がなく、繰上げ受給で住民税非課税になる可能性がある場合です。株式などの金融所得がある場合でも、申告不要制度を利用していれば、現時点では、住民税非課税および社会保険料の計算の基準となる所得には含まれないので、問題ありません。

また、不動産投資をしており、60歳時点ではローンの金利の支払いがあるが、80歳くらいまでには全額返済が完了して、不動産所得が大幅に増える予定の人も、繰上げ受給で年金収入を平準化することで、将来大幅に税金・社会保険料が増加することを防げます。

一方、繰下げ受給を選択したほうがよいケースは、想定寿命が80代後半〜90代と長生きを想定する場合です。また、65歳以降も働いて給与収入や事業収入がそれなりにある場合は、引退して収入がなくなる時点から繰下げ受給をするとよいでしょう。

年金の繰上げ・繰下げ受給は条件を検証したうえで選択を

今回はあくまでもモデルケースでの比較であり、ご自身の年金以外の収入、貯蓄の状況、健康状態、配偶者の有無などの各種条件により、繰上げ・繰下げ、どちらが有利なのかは異なります。

ご自身の状況によく照らし合わせて検証をしたうえで、決断することをおすすめします。

服部 貞昭

ファイナンシャル・プランナー(CFP®)

新宿・はっとりFP事務所 代表

エファタ株式会社 取締役