andersphoto - stock.adobe.com

写真拡大

―[メンズファッションバイヤーMB]―

 メンズファッションバイヤー&ブロガーのMBです。洋服の買いつけの傍ら、「男のおしゃれ」についても執筆しています。連載第569回をよろしくお願いします。
◆GUCCIの売り上げは3年ほどでほぼ半減

「GUCCI」というブランドの評価、皆さんいかがでしょうか?

「成金、金持ち御用達」「スーツ、財布、バッグ」さまざまなイメージがありますが、皆さん共通して「高級ブランドの代表格」として認識されているのではないでしょうか?

 ケリンググループを代表するイタリアが誇る世界最高峰のブランドが「GUCCI」。リセールバリューも高く、富裕層受けもよく、SNSでも見かけ人気があるGUCCIが……実は今ちょっとピンチなんです。

 まずファクトベースでGUCCIの売り上げはわずか3年ほどでほぼ半減しています。2022年の約105億ユーロをピークに2025年では59億9200万ユーロ。現在は多少回復していますが、先行き不透明な景況が続きます。

◆1つめの理由は新興市場の不調

 王者GUCCIが堕ちた理由について、まず1つが新興市場の不調です。下降トレンドの欧州市場を補うために中国市場に注力したGUCCI。世界のラグジュアリー消費の30〜40%が中国系となり、「爆買い」なんてキーワードも生まれたのが2020年ごろ。GUCCIは中華系戦略としてロゴの打ち出しを強化、加えてモデルも中華系に寄せSNSはweiboなどを意識した打ち出しを行い大成功しました。

 中国には欧州と違い「ラグジュアリーファッションの蓄積」がない新興市場です。欧州はディープかつマニアックな需要のある客単価の高い“貴族層”が多くいますが、中国は新興ゆえに感度がヨーロッパほど高くなく「ロゴ」などのわかりやすい記号を求める“富裕層”が多い。GUCCIはそれに合わせて提案を組み立てることによりピークとなる売上である100億ユーロ超を記録したのです。

 しかしながら、中国経済の減退とともに現在は欧州に続き下降トレンド。急速なスピードで中国富裕層の感度も鍛えられていき、「ロゴ打ち出しビジネス」にも天井が見えてきたのが昨今です。

◆中東投資をかなり強化したが…

 GUCCIなど多くのラグジュアリーは中国のマイナス分を補うべく、ドバイやサウジなど中東の新興市場を「ポスト中国」ターゲットにしていきました。LVMHやKeringもここ数年で中東投資はかなり強化しています。

 しかしながら、昨今の中東情勢があり政局不安定に。先行き不透明となり追い討ちがかかっている状況です。ドバイなどは平静・安全を装っていますが、観光資源が重要な収入源である国にとって治安の悪化・情勢不安を正しく報道するかどうかはいささか疑問です。実際に現地にでも行かなければわからない部分も多いでしょう。

 つまり下降トレンドの欧州などを補うために中国投資を進めたものの予想以上の経済減退と、さらに新新興市場として目論んでいた中東も不安定になってきて、八方塞がりになっている状態なのです。

◆2つ目の理由はデザイナー交代劇

 またデザイナー交代劇が現在〜今後のブランド運営をさらに不安定にするのでは、と私は考えています。

 ラグジュアリーがまるで「席替え」のようにデザイナーを大幅刷新したのは昨年あたりの話。セリーヌ、ジルサンダー、バレンシアガ、グッチ、ディオール、ロエベ……と枚挙に暇がないほど。ラグジュアリー全体が厳しい中、こうした「席替え」で顧客の印象を変える効果があったのか定かではありませんが……GUCCIは「成功」とは言えないようです。

 そもそもGUCCIの既存顧客が支持していたのは「色気・装飾・イタリア的官能性」です。GUCCIを再生させたデザイナーとして知られるトム・フォードはまさに色気の王者。GUCCIはここ20年「官能性」の権威として君臨していた。光沢のあるスーツや煌びやかな素材色使いがGUCCIらしさとして捉える人も多いでしょう。