「中古マンションを売るなら今しかない」海外投資家が買い漁った東京都心で"3年ぶりの異変"が起きたワケ
■マンション高騰の裏で、在庫にだぶつき
都心の中古マンションの価格上昇にやや変化がみられる。市場調査の一つによると、1月の平均成約価格は前月比0.6%下げ、1坪あたり688万円程度だった。
つい最近まで上昇が続いていた、中古マンションの価格に頭打ちの傾向がみられる。これからマンションの購入を考えている人たちにとっては、ほっと胸をなでおろす変化といえるだろう。
近年の都心中古マンションの価格は、あまりに急速に上昇してきた。その結果、一般家庭の家計では手の届かない水準まで上がり続けた。そのため、中古マンションの在庫はだぶつき気味のようだ。売却にかかる期間も増えているという。

■「金利のある世界」にイラン戦争がとどめ
また、住宅ローン金利も上昇している。インフレ率が2%近辺で推移するようになっていることもあり、日本銀行の金融正常化の動きも出ている。日本は、金利ある世界に戻りつつある。それも、中古マンション価格の頭打ちの要因だ。
今後、イラン戦争による物価上昇圧力などで、国内の金利には上昇圧力がかかることだろう。住宅を買い控える人は増える可能性がある。日銀追加利上げ、ローン金利上昇なども予想され、都心を中心に不動産価格の上昇ペースは鈍化し、頭打ちの傾向が鮮明化するとみられる。
さらに、イラン戦争の影響で原油価格が高騰する場合には、世界的に景況感が後退することも懸念される。そうなると、不動産価格にも下押し圧力が掛かることが考えられる。これから不動産の購入を考えている人にとっては、相応のメリットになる可能性がある。
一体どういうことか、詳しく解説しよう。
■海外投資家が都心の物件を買い漁るワケ
ここにきて、一部の地区では、中古マンションの価格の頭打ち感が鮮明化しているようだ。通常、春先は進学、就職、転勤で住まいを移す人が増えるため、マンション価格は上昇するケースが多かった。ところが最近では、価格に下押し圧力が出ている物件もある。
ここ数年、国内の景気はそれなりにしっかりと推移した。企業収益は増え名目賃金も上昇した。物価も上昇した。2024年3月に日銀はマイナス金利を解除したが、追加利上げのペースはかなり緩やかだ。低金利環境は続いた。
物価上昇を上回る利回り確保に、不動産に資金を振り向ける投資家は増えた。それに伴い、中古マンションへの投資需要は急増した。国内の投資家に加え、中国など海外の投資家も豊洲や勝どきなど、“ウォーターフロント”の物件に資金を投じたようだ。
買うから上がる、上がるから買うという具合に、都心中古マンションの価格上昇は勢いづいた。神奈川、千葉、埼玉県のマンション価格にも上昇圧力は波及した。

■「大幅値下げ」を迫られる売り手たち
ただ、いつまでも価格が右肩上がりで推移することはない。昨年の初めごろから、東京23区以外の首都圏では、売り手と購入者の希望価格の乖離が目立ち始めた。都内の高級物件では売り手がかなり強気に価格を設定し、後々、大幅な引き下げを余儀なくされるケースも出始めた。
東京都心6区の中古マンションの価格に、頭打ちの傾向が出始めた。千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷区における、70平方メートル当たりの価格は前月から0.2%下落した。37カ月ぶりの価格下落だった。
価格下落の一因は、一般世帯の手の届きづらい水準に価格が急騰したことだ。売りに出したが、思った価格水準、期間で売却できない物件は増えた。6区の在庫数は昨年12月が4211戸、1月は4260戸、2月が4472戸と積み上がった。その結果、昨年前半35%程度だった値下げ割合は、45%程度に上昇しているようだ。
■「住宅ローンを払えないかも…」と断念
買い手と売り手の希望価格の乖離以外にも、相場が頭打ち傾向になった要因は多い。まず、金利上昇の影響は大きいだろう。
昨年の秋ごろから、都心の中古マンション価格の上昇ペースは鈍化した。そのタイミングは、高市政権が発足した時期と重なる。
自民党総裁選などをきっかけに、国内の金利上昇は鮮明化した。物価上昇で日銀が追加利上げを慎重に続けるとの観測は増えた。高市政権の財政政策への警戒感も高まった。短期から長期、超長期まで全年限で金利は上昇した。
不動産投資を行う人は、金融機関から資金を借りることが多い。金利上昇で、住宅購入や不動産投資の資金借り入れコストは増える。それにより、中古マンションへの需要は圧迫された。中古マンションを手に入れたいが、価格、金利負担の高まり懸念から見送らざるを得ない人は増えたはずだ。
■中古マンション投資のメリットが薄らいだ
政府や自治体の規制検討も、中古マンション価格頭打ちの要因になった。高市政権は、外国人による土地取得ルール、在留資格審査の厳正な運用を重視している。それは海外投資家への牽制になったはずだ。
昨年7月、千代田区は、購入者に5年間の転売を禁じる条項導入などを不動産業者に要請した。共同名義で複数人が中古マンションを購入し、短期的に当該物件を貸し出し、転売益を狙うことを制限するための措置だ。

マンション賃貸の利回り低下も一因だろう。一般的にマンションなど不動産の価格変化率は、賃料の変化率よりも大きい。価格が上昇する一方、賃料の伸びのスピードは緩やかだ。そのため、年間の賃料を価格で割った利回りは低下した。
昨年4〜6月期、都心3区の賃料価格比は2.8%に低下した。無リスク資産である国債の利回り上昇など、中古マンションに投資する妙味は薄らいだ。金利上昇による資金調達コストの増加も加味すると、都心の中古マンションの割高感は高まったといえる。
■「お荷物」は売り急がなければいけない
依然として都心中古マンション価格は高い。当面は、多少の変動を伴いながら、都心中古マンションの価格は高値圏で推移する可能性が高い。ただ、その後、中古マンションの需給を反映して、少しずつ価格の調整圧力は高まるとみられる。
イラン戦争をきっかけに、エネルギーや基礎資材の不足は深刻化し、価格上昇も急速だ。世界的に、物価上昇と景気減速が同時進行するスタグフレーションへの懸念は高まっている。その中、米欧で利上げ再開を重視する中央銀行関係者は増えた。世界的に金利上昇圧力がかかり始め、株式相場の変動性は高まった。
それは、都心中古マンションなど、わが国の資産価格にマイナスだ。早ければ4月に日銀が追加の利上げを行うとの観測も多い。短期から超長期まで、国内金利に追加的な上昇圧力はかかるだろう。それに伴い、投資家のリスク回避姿勢は高まると予想される。
利益確定のため、中古マンションのようにリスクの高い、資産を売り急ぐ投資家は増えるだろう。商業用不動産分野では、シンガポール系の投資ファンドが、東京駅前のビル売却を検討しているようだ。マンション市場でも、そうした動きが増える可能性はある。
■「37カ月ぶり下落」に喜ぶ人、泣く人
今後、中古マンションなど不動産価格の調整が鮮明になると、国内の不動産市況の変化は鮮明化するだろう。株式市場についても、3月の日経平均株価の変動性を見ると、相場過熱に警戒感を強める投資家は多い。
不動産市況全体に大きな変化が出るようだと、状況によっては金融市場にもマイナスの影響が波及することが想定される。ノンバンクなどの中には、積極的に投資ローンなど不動産分野への資金供給を増やしたところが多いようだ。
中古マンションの価格が下がることは、これから購入を考えている人にとっては、大きな福音になるのだが、既に保有している投資家や、そこにおカネを貸している金融機関にとっては、重大なマイナスになりかねない。経済は複雑な仕組みになっている。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
