貯金しすぎたかもしれません…資産9,000万円・年金15万円の71歳元会社員がポツリ。望み通り「安泰の老後」は手に入れたが、胸に広がる虚無感
安心して老後を過ごすうえで、経済的な余裕が大きな支えになることは間違いありません。医療費や生活費の不安を軽減し、選択肢の幅を広げてくれるという意味でも、お金は多いに越したことはないでしょう。一方で、「お金さえあれば老後は安心で、幸せに暮らせるのか」と問われると、必ずしもそうとは言い切れません。今回は、お金に不自由のない状況にありながら、別の悩みを抱えることになった事例を見ていきましょう。
節約を最優先にしてきた会社員時代
「お金の不安はまったくない。でも、だから幸せな老後か、と言われるとね……」
地方都市のマンションで一人暮らしをする松永太郎さん(仮名・71歳)は、そう打ち明けます。
太郎さんは食品関連会社に長年勤務し、65歳で定年退職。金融資産は約9,000万円。年金収入は月15万円で、老後資金としては十分といえる状況。しかし、太郎さんはお金とは別の悩みを抱えています。
一人っ子ということもあり、40代以降は特に貯蓄を強く意識した生活を送るようになったといいます。
平日は自宅で作ったおにぎりとゆで卵を持参し、お昼代を節約。外食はほとんどせず、同僚や友人からの誘いも「お金がもったいない」と参加を控えてきました。休日の外出は最小限で、家計簿をつけて「今日もお金を使わなかった」と確認するのが楽しみでした。
こうした生活の積み重ねにより、貯蓄は着実に増加。投資と相続もあり、現在の“使い切れないほどの資産”を築きました。
資産は十分でも埋まらない空白
転機となったのは、5年前に両親が相次いで亡くなったことでした。定期的に連絡を取り合い、年末年始には実家に戻っていたという太郎さん。肉親の不在に、想像以上の虚無感に襲われたといいます。
「自分が生きていることを誰も気にしていない、病気になっても心配してくれる人もいない……透明人間になったような気分でした」
仕事をしておらず、親やきょうだい、気軽に連絡を取れる友人もいません。結果として、社会的なつながりがほとんどない状態になりました。
街中で同年代の夫婦や家族連れ、友人同士を目にすると、自分が天涯孤独という事実をそれまで以上に突き付けられる気持ちに。
太郎さんは「お金さえあれば老後は安心できる」と考えてきました。しかし、実際に老後を迎えてみると、必要なのはお金だけではないことを実感しているといいます。
「人間関係ってそんなに重要じゃないと思っていたんですよ。でも、本当に一人ぼっちになると、想像以上に寂しさを感じました」
1人が好きでも「本当に誰とも関わらない」のは苦しい――太郎さんの変化
太郎さんに限らず、友人がいないということは決して珍しくありません。
株式会社クロス・マーケティングが20代〜70代を対象に実施した「人間関係に関する調査(2025年)」によると、「友人がいる」と答えた人は全体の70%で、「いない」と回答した人も30%にのぼります。特に男性では34%が「いない」と回答しており、女性(26%)を上回っています。
いない=悪いことではなく、あえて1人を選ぶ人もいるでしょう。太郎さんもそうでしたが、肉親を失ったことで感じ方が変わったといいます。
精神的な落ち込みが強くなり、医療機関を受診した太郎さんは、外に出て人と関わる機会を持つよう勧められました。そこで、地域のボランティア活動に参加するように。
「行ってみると自然に会話が生まれました。かなり勇気はいりましたけどね」
その後、ボランティアを通じて知り合った人に誘われ、ウォーキングやバードウォッチングの集まりにも参加するように。頻繁ではないものの、定期的に顔を合わせて言葉を交わす機会ができたことで、生活に変化が生まれたといいます。
資産形成以外にも目を向けたい「老後の準備」
太郎さんのケースは、老後資金の準備が重要である一方で、それだけでは生活の満足度が決まらないことを示しています。
誰とも関わらない生活が長期間続くことで、精神的な不安が大きくなるケースも少なくありません。太郎さんはこう振り返ります。
「今となっては、昔の話ができる友人がいればとも思います。思い出になる遊びもしておけばよかった。貯金を頑張りすぎましたね」
もちろん、お金はないよりあった方がいいのは明確です。太郎さんも、自身の努力があってこそ、金銭的な不安のない老後を送れています。
しかし、老後に向けた備えは資産形成だけでなく、どのように時間を使い、どのような人間関係を築くかという視点も重要といえるでしょう。

