80代女性の「地獄部屋」から救出された「糞尿にまみれた犬たち」が初めて知った「当たり前の幸せ」
80代女性が自宅で多頭飼育崩壊
糞尿に覆われた室内、名前のない多数の犬たち、不妊手術もされず増え続けた結果……。
動物保護団体「ワタシニデキルコト(ワタデキ)」代表の坂上知枝さんが懇意にしている獣医師から受けた相談は、獣医師の患者が発見したという深刻な多頭飼育崩壊だった。
「80代女性が、自宅で多頭飼育崩壊を起こしています。
現在何匹いるのか、飼い主自身も把握しておらず、犬たちを糞尿にまみれた部屋に放置し、1 日 1 回室内に入り、ドライフードを床にばらまき、そこら中に落ちている糞を集めるという飼い方をしているそうです」
子どものころから捨て犬や捨て猫を見過ごせず、保護しては世話をし、新しい家族につなげてきた坂上知枝さん。2020年9月に、動物支援と保護を目的とする一般社団法人「ワタシニデキルコト(ワタデキ)」を立ち上げた。
本連載は、東京・千葉・福島などの保健所や愛護センターと連携し、ボランティアメンバーたちとともに、犬や猫の救助、ケア、里親探しに奔走する日々を、ワタデキで坂上さんとともに活動するメンバーの視点から伝える。
前編「糞尿垂れ流しで1日1回エサをばら撒く『地獄部屋』に閉じ込められた名無しの犬たちのレスキューの現場」では、想像を絶する環境から地元の保護団体と連携をし、犬たちを救出するまでの壮絶な現場をお伝えしている。
レスキュー直後、犬たちは全身が汚れと毛玉で固まり、重い疾患を抱えた犬もいた。
現場となった3階建ての家の1階では、飼い主と飼い主の「姪」を名乗る女性が、なんと飲食店を営んでいた。糞尿が層になり、足の踏み場もない2階に犬を閉じ込め、1階でお客に飲み食いさせていたのだ。
女性は、身内の起こした多頭飼育崩壊について、まるで他人事の対応だったという。坂上さんは言葉にできないほどの怒りと悲しみに苛まれながらも、連れ帰った犬たちをまず洗った。
長年の放置による汚れは酷く、メンバー4人で手分けしたが、大量の毛玉と地肌までべったりと層になった糞尿や垢で、洗っても洗っても悪臭と黒く汚い水が染み出した。結局、保護した8匹の犬を洗い終わるのに、3時間以上もかかった。
8匹のうち2匹は地元の保護団体さんへ。
残りの名無しの6匹には、それぞれに名前もつけられた。
人懐こく好奇心旺盛な推定8〜10歳のオスは「うめ」。
人にも犬にもフレンドリーな推定1歳のオスは「牡蠣すけ」。
肝臓の数値がよくないため治療中の推定6〜7歳メスは「すぱ」。
控えめでマイペースな推定3〜5歳のオスは「いんちゃん」。
一番警戒心が強く臆病な推定1〜2歳のオスは「おあげ」。
そして複数の疾患を抱え、片耳が半分ちぎれた推定13〜14歳のメスが「もも」。
保護活動の現場を伝える連載の後編では、6匹の保護犬たちについて、詳しくお伝えする。
複数の疾患を抱えた高齢のもも
6匹の犬たちの中で、特に衰弱が激しく高齢だった1匹「もも」については、看護が必要だと判断し、坂上は、普段から連携を取っている、塩田妙玄さんという終生飼養の保護施設を運営している方に相談をした。
「塩田さんの施設は猫が中心ですが、白血病キャリアや疾患を抱えた子、行き場のない超シニア達がのんびりと余生を過ごす場所です。施設といっても、自然いっぱいの大きな大きな庭で虫を捕まえたり、日向ぼっこをしたり、家の中では塩田さんと一緒に施設を運営している愛さんの膝の上でくつろいでみたりと普通のおうちの子のように過ごしています。
野良出身の子、元飼い猫だった子、それぞれが施設内で好きなように生活できるところが素晴らしいと思っています。ケアもとても手厚いです。
ワタデキは、障害を持つ子や医療が必要な子、咬傷などの問題がある子など、他の団体がなかなか引き取らない子を引き受け、治療やトレーニングを行い、心身ともに健やかな状態にして譲渡に繋げる。看護が必要で通常の生活が難しい子は、我が家やメンバー宅で終生飼養をする、というスタイルです。
どちらも『行き場のない子』であるのは同じなのですが、塩田さんの施設は、『長生きが難しい子』、ワタデキは『譲渡に繋げられるようにする、または看護をしながらでも長く生きていけるであろう子』を引き受けているので、例えば、塩田さんの施設に子猫が迷い込めばワタデキに、18歳の猫がセンターに収容されれば塩田さんが『うちで引き取るよ』となるという感じです」(坂上)
ももは高齢かつ様々な疾患があり、一般家庭での生活をしたこともない。また心身ともに弱く、長く生きることができないのではないか? というのが坂上の見解だった。
複合的に考えても譲渡は現実的ではなかった。また、レスキュー前日に亡くなったという犬もはかなりの高齢かつ様々な疾患を抱えて衰弱していて、外見の健康状態もももによく似ていたのだという。
ももの看護の必要性と終生飼養場所を考えた坂上は塩田さんに相談をした。すると塩田さんは、二つ返事で「ももちゃんはうちで引き取るよ」といってくれたのだった。
「ももは愛さんと塩田さんのおかげでぐんぐんと回復、今では外を走り回れるくらいまでになりました。猫ともくっついて寝ているそうです。
あと1年か半年か…どれくらいなのかはわからないですが、残りの一生が笑顔で愛あふれるものであることは確定なので、本当によかったと思っています」(坂上)
分離不安症や「散歩に行けなかった」犬も
「残った5匹たちは集団生活を終え、仲良し同士の「うめ」「牡蠣すけ」と「すぱ」「いんちゃん」「おあげ」がチームになって別々の預かりさん宅で愛情を持ってお世話されています。
始めの頃は家庭犬としての暮らしに困惑気味でしたが、今では自分のお皿でご飯を食べ、名前を呼ばれると飛んでくるようにもなりました。人に甘えたり、おもちゃで遊んだり、どんどんと楽しそうな顔つきになってきています」(坂上)
レスキュー当初から比較的人を怖がらなかった「うめ」と「牡蠣すけ」の2匹はさらにフレンドリーで明るい性格になった。
分離不安気味で預かりさんの姿がみえなくなると鳴いて探していた「うめ」は、預かりさんが「どこにもいかない」とわかり、のんびり眠ることができるようになった。
「牡蠣すけ」は散歩が大好き。最初の頃は玄関から出た途端、不安で動けなくなっていたが、今では毎日いろんな人や散歩中の犬達と出会うのが嬉しいらしく、元気いっぱいに歩いている。
「すぱ」、「いんちゃん」、「おあげ」は人に対して臆病だったが、3匹とも預かりさんの献身のおかげで徐々に慣れ、夜は3匹で預かりさんの足の間で眠るのが大のお気に入りとなった。自分たちから遊ぼうと誘ってくるようにもなり、預かりさんが外出から帰宅した際は嬉しそうにお出迎えもするようになったという。
「毎日声をかけてもらい、可愛いねと愛情をかけてもらい、人と一緒に眠る心地よさを知り、外の匂いを存分に嗅ぎ、音に刺激を受けられる今は、彼らにとってはきっと新鮮で幸せ。臭いからと一年中窓を開け放したまま、冷暖房もない室内で何年も暮してきたこの子たちがようやくつかんだ生活は、本来ならばごく当たり前のものです。
そして今の幸せな生活を引き継いでくださるおうちをみつけるのが私たちの役目だと思っています。
まだまだ散歩が怖い子もいれば、治療中の子もいますが、それも全部ひっくるめて、うちにおいで! という里親さんとのご縁が繋がればいいなあって思っています」(坂上)
塩田妙玄さんやFRaU web連載の高倉はるか先生も
ワタデキでは年に数回チャリティイベントを行っている。4月5日開催予定のイベント『ワタフェス』では、今回紹介した5頭の犬のほか、たくさんの保護犬猫のポスターを掲示し里親募集も行う。
そのほかにチャリティ物販、保護犬猫について学べるオープンスペースに加え、獣医師やワタデキメンバーによる飼い方相談や保護犬猫に関する個別相談会も実施する予定だ。
また目玉として塩田妙玄さん(高野山僧侶、動物保護施設運営)、高倉はるかさん(動物行動学獣医師)、酒井和紀さん(TOMO動物病院院長)をお招きした講演会を開催。
動物のグッズだけでなくアクセサリーや雑貨、果物やお米、スイーツの販売など動物を飼っていなくても楽しめるイベントとなっている。フードのサンプリングや保護活動家の方向けの支援物資の配布もある。
「見て聞いて知ってもらってためになるお話や、買い物も楽しんでいただけます! 誰でも参加できるイベントです。ふらっと寄って下さる方も大歓迎! 日曜日のちょっとしたレジャーにいかがですか? エコバックをもって遊びにきてください!」(坂上)
