向かい風は強くなるばかり…

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TACOで解決できなくなった

 米国・イスラエルとイランの軍事衝突は3週目に入った。

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 開戦を決断したトランプ米大統領にとって大きな誤算だっただろう。当初はベネズエラの時のようにトップ(ハメネイ最高指導者)の首を代えればすべて終わると考えていた節があったからだ。

 だが、現実は異なった。イランで反体制派が蜂起することはなかった。この想定外の事態はトランプ政権内に亀裂を生じさせている。ロイターは13日、イラン戦争の出口戦略についてトランプ政権内で路線対立が生じていると報じた。

 トランプ氏の一方的な勝利宣言で戦争を終わらせることができなくなった可能性もある。米国が戦闘停止を主張しても、イランが米軍基地や周辺諸国の石油関連施設を攻撃しなくなる保証はない。

向かい風は強くなるばかり…

 トランプ氏のTACO(トランプはいつも腰砕け)ぶりは周知の事実だが、今回の戦争はTACOで解決できなくなってしまったのだ。

原油価格は国民の不満に直結

 トランプ氏は16日、3月末から予定していた訪中を1カ月程度延期するよう中国側に要請したことを明らかにした。対イラン軍事作戦への対応で米国内にとどまる必要があるというのが理由だ。

 トランプ氏にとって頭が痛いのは、原油価格が高騰していることだ。12日には、「世界最大の産油国である米国にとって原油高は利益を得られる」と述べたが、苦し紛れの強弁に過ぎない。

 車社会の米国でガソリンは生活必需品だ。レギュラーガソリンの平均価格が1ガロン=3ドルを超えると国民の不満が高まると言われている。だが、原油価格の高騰のせいで、13日は1ガロン=3.63ドルに達してしまった。

 トランプ政権は原油価格を下落させるために躍起になっている。

 米エネルギー省は11日、戦略石油備蓄(SPR)から過去最大規模(1億7200万バレル)の原油を放出することを決定した。13日には、来週末までに8600万バレルの原油を戦略石油備蓄(SPR)から放出するとの方針も示している。

 こうした措置は原油価格のさらなる上昇を抑えるかもしれないが、価格を下げられるかどうかは不明だ。

MAGAの支持離れは起こりうる

 おなじく13日、エネルギー省はカリフォルニア沖での原油生産を再開させる措置も講じた。これにより、日量5万バレル程度の原油が生産できることになるが、ホルムズ海峡封鎖に伴う供給減(日量約1500万バレル)と比べるとその規模はごくわずかだ。

 原油価格の高騰で米国経済に下振れリスクが生じていることも気になるところだ。

 戦争が長期化するにつれて、市場関係者の間では消費減速の警戒が強まる一方、米連邦準備理事会(FRB)がインフレ再燃を憂慮して年内の追加利下げを見送るとの観測が広まっている。

 トランプ氏はFRBのパウエル議長に対して改めて利下げを求めているが、今回も袖にされるのは確実だ。

 トランプ氏への支持状況をみると、岩盤支持層であるMAGA(米国を再び偉大に)派はイラン攻撃に肯定的だ。米国本土を攻撃しかねないテロ国家から自国の安全を守るため、イランを攻撃するしかなかったとするトランプ氏の主張を受け入れている。

 だが、米軍の死者(16日時点で13人)が増加し続ければ、MAGA派の支持離れが起きる可能性は十分にある。

言論統制、テロ、厳戒態勢

 支持率の低下を恐れるトランプ政権は、言論統制を実施する構えを見せている。

 米放送事業を監督する連邦通信委員会(FCC)のブレンダー・カー委員長は14日、メデイア各社に対し、中東関連報道の内容次第では「放送免許を失うリスクがある」と警告を発した。トランプ氏がカー氏の主張に賛意を示したこともあり、予断を許さない情勢となりつつある。

 米国でイスラム教徒によるテロも相次いでいることも気がかりだ。

 バージニア州のオールド・ドミニオン大学で12日午前、銃撃事件が発生し、銃撃犯を含む2人が死亡した。同日午後にはミシガン州でユダヤ教礼拝堂に武装した男がトラックで突っ込み、警備員との銃撃戦の末に現場で射殺される事件も起きた。

 米ハリウッドで15日に開催された第98回アカデミー賞授賞式は、爆発物探知犬を動員するなど厳戒態勢で実施されたほどだ。

「イスラム嫌悪」の風潮は911後よりも深刻

 このような状況が災いして、共和党支持者の間でイスラム嫌悪の風潮が強まっている。AFPは14日、共和党議員から扇動的な発言が相次ぎ、イスラム嫌悪を巡る議論が再燃したため、共和党指導部は対応に迫られていると報じた。

 2001年の同時多発テロ後もイスラム嫌悪の風潮が強まったが、今回ははるかに深刻だ。当時と比べて社会の分断が進んでいるからだ。民主党支持者がイスラム嫌悪を批判すればするほど、共和党支持者が反発するだろう。

 トランプ氏がイスラム嫌悪を煽るメッセージを発信する可能性も排除できない。トランプ氏は非常事態を宣言して、今年11月の中間選挙を無効化する企みを持っているという憶測が流れているからだ。

 イランの内戦リスクが取り沙汰されているが、米国の政情不安リスクも軽視できないと思う。悩める超大国の動向について、引き続き高い関心を持って注視すべきだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部